栄養失調(読み)えいようしっちょう(英語表記)dystrophy
malnutrition

精選版 日本国語大辞典 「栄養失調」の意味・読み・例文・類語

えいよう‐しっちょう エイヤウシッテウ【栄養失調】

〘名〙 摂取するカロリー栄養素、特にアミノ酸不足が主原因で起こる身体の異常状態。全身の倦怠感があり、貧血状態になる。脈は遅くなり、呼吸数も減って、下痢を伴うことが多く、皮膚は光沢を失い蒼白となり、むくんだりする。
※深夜の酒宴(1947)〈椎名麟三〉二「栄養失調と云うんだもん」

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デジタル大辞泉 「栄養失調」の意味・読み・例文・類語

えいよう‐しっちょう〔エイヤウシツテウ〕【栄養失調】

食物の摂取量や各種栄養素の不足のため、身体に異常が現れた状態。体重減少・脱力感無気力、体温や血圧の低下、徐脈・貧血・浮腫・下痢などがみられる。

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改訂新版 世界大百科事典 「栄養失調」の意味・わかりやすい解説

栄養失調 (えいようしっちょう)
dystrophy
malnutrition

栄養の摂取が慢性的に不十分で,成長・発育や体の維持に必要なカロリー(熱量)および栄養素が欠乏した状態をいう。体重減少,発育障害とともに種々の栄養欠乏症状があらわれる。第2次大戦中および終戦後の食糧事情のきわめて悪かった時代に日本でも多数の人々が栄養失調となり,この言葉が一般に知られるようになった。最近アフリカ,中南米,東南アジアの発展途上国の一部で,極端な食糧不足により多数の人々が飢え,国民の大多数がこの栄養失調の状態におちいっており,深刻な問題となっている。日本をはじめ先進諸国では食糧不足による栄養失調は現在ではみられないが,先天性心疾患や脳性小児麻痺などの重症心身障害児が食物の摂取が十分できないで栄養失調となっているもの,母乳不足やミルクの薄めすぎ,離乳の失敗など栄養法の誤りによる栄養摂取量の不足から栄養失調となったもの,慢性下痢の治療がうまくいかない場合や神経性無食欲症(拒食症)によって栄養障害をきたしているものなどをみることがある。栄養失調はいくつかのタイプに分けられている。一つは摂取カロリー(熱量)それ自体が極端に不足しているもので,カロリー欠乏栄養失調,マラスムスmarasmusとよばれ,他の一つは栄養素のうちとくにタンパク質が欠乏しているものでタンパク欠乏栄養失調,クワシオコールkwashiorkorとよばれている。アフリカなどの未開発国でみられるものは重症のものが多く,タンパクカロリー(熱量)欠乏栄養失調protein energy malnutrition(PEMと略称)とよばれている。また標準体重の60%以下となるような最も重症なものを消耗症decompositionという。

 栄養失調の最も明らかな症状は,やせ(体重減少)である。標準体重の80~60%に減少する。皮下脂肪は,正常では体重の12~20%を占めるが,栄養失調では1~2%にまで減少し,消耗症ではほとんど消失し,骨と皮ばかりの状態となる。皮膚の色は蒼白となり,弾力がなく,しわができやすく老人様の顔となる。体温は低く,脈拍は減少し,血圧も低下する。重度のものは呼吸が浅く不整で緩徐となる。乳幼児の場合,いつも機嫌が悪く,よく泣き,睡眠も浅くなり,しだいに周囲への関心がなくなり,無欲状でぼんやりとした顔つきとなる。タンパク質の欠乏がひどくなると,血中アルブミン濃度が低下するため全身のむくみ(浮腫)がみられるようになる。感染防御機能が低下し肺炎や敗血症にかかりやすくなり,死亡することがある。

 診断は,体重減少,外見上やせていることと,上述の症状,長期間にわたる栄養摂取量の減少の確認などによる。乳幼児では,栄養状態をあらわす指数であるカウプ指数カウプ=ダベンポート指数ともいう。体重(g)を身長(cm)の2乗で割り10倍する)が12.9~10.0の場合を栄養失調,9.9以下を消耗症としている。治療は,まず栄養失調となった原因を確かめ,原因疾患があればその治療が必要である。栄養法の誤りがあればそれを正しく指導する。食事療法は,バランスのとれた食事を胃腸の耐容力の範囲をこえないように注意しながら少量からしだいに増量して与える。一般には,これらの治療により急速に体重の回復がみられる。重症の栄養障害では,輸血,アルブミンの点滴,栄養輸液などで一般状態をよくしてから食事療法をしたほうが安全である。重症の栄養失調症がその後の身体発育,脳の発達に与える影響について多くの研究が行われているが,2歳以内とくに生後6ヵ月以内に重症の栄養失調になると,たとえその後十分な栄養を補給しても身体発育,知能および運動機能は低下し回復しないといわれている。
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六訂版 家庭医学大全科 「栄養失調」の解説

栄養失調(るいそう)
えいようしっちょう(るいそう)
Malnutrition (Emaciation)
(内分泌系とビタミンの病気)

どんな病気か

 一般的に、標準体重より体重が20%以上減少している場合に、るいそうと診断されますが、過去6カ月以内にもともとの体重から10%以上減った場合も、臨床上問題になります。

原因は何か

 るいそうを起こす原因にはさまざまなものがあります。大きく分けて、①食事摂取量の減少、②消化吸収障害、③栄養素利用障害、④代謝亢進(こうしん)による熱量消費の増大があげられます。

 ①では、アジソン病シーハン症候群といった内分泌疾患や、神経性食欲不振症、うつ病統合失調症(とうごうしっちょうしょう)といった精神疾患、脳腫瘍(しゅよう)悪性腫瘍や消耗性疾患(慢性的な炎症性疾患など)、さらには口腔(こうくう)を含めた消化管疾患に伴う食欲低下があげられます。

 ②では慢性の下痢を伴う疾患、消化性潰瘍(かいよう)慢性膵炎(すいえん)、膵腫瘍(WDHA症候群やゾリンジャー・エリソン症候群)、蛋白漏出性(たんぱくろうしゅつせい)胃腸症吸収不良症候群や寄生虫などが認められます。

 また、③は糖尿病、④は甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)といった内分泌の疾患や慢性の感染症などで現れます。

検査と診断・治療

 前に述べたようなさまざまな疾患を念頭に入れて、食欲や食事摂取の有無をはじめとした病状を患者さんから詳しく聞いたのちに、必要な診察や検査を行って迅速に診断を行い、病態に応じた適切な治療を開始します。

菅原 明

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百科事典マイペディア 「栄養失調」の意味・わかりやすい解説

栄養失調【えいようしっちょう】

食事からの栄養素の供給が不十分,もしくは吸収障害や体内での利用障害,体組織の崩壊などによって栄養素の欠乏した状態。栄養障害と同義語。発育不良,やせ,浮腫,下痢,貧血,低血圧,体温低下,感染抵抗力低下,皮膚蒼白(そうはく)および疲労感,無気力などを伴う。
→関連項目飢餓田端義夫腹水

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栄養・生化学辞典 「栄養失調」の解説

栄養失調

 栄養失調症,ジストロフィー,異栄養,異栄養症,栄養不全,栄養不良ともいう.栄養素の摂取,栄養素の代謝などの異常.一般に食欲不振,やせ,浮腫,疲労,全身倦怠感,無気力,下痢,低血圧,徐脈,低体温などが見られる.dystrophyという語は,特定の器官や組織の栄養不全による縮退にも使う.例えば筋ジストロフィーは筋肉の縮退.

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世界大百科事典(旧版)内の栄養失調の言及

【乳児栄養障害】より

…以後おもにドイツ学派ではこの病名が用いられてきたが,アメリカ学派では乳児下痢症と栄養障害とは別々の概念でとらえる考え方が主流をなしている。また乳児栄養障害を急性栄養障害と慢性栄養障害とに分ける考え方もあるが,前者の乳児の急性栄養障害とは急性消化不良症あるいは急性乳児下痢症を指すものであり,慢性栄養障害とは乳児の栄養失調malnutritionを意味している。したがって最近では乳児栄養障害という病名を用いることは少なくなり,それぞれ乳児下痢症,栄養失調症という病名を用いる場合が多い。…

※「栄養失調」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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