栄養(人間)(読み)えいよう(英語表記)nutrition

翻訳|nutrition

日本大百科全書(ニッポニカ) 「栄養(人間)」の意味・わかりやすい解説

栄養(人間)
えいよう
nutrition

人間は誕生から発育、成長、死に至るまで、必要な物質を食物の形で摂取している。この間、身体の健康の維持、生活活動、運動、妊娠などの生命の営みを一刻も休むことなく継続していく。このように健康を維持、増進し、生活活動を営むために必要な物質を外界から身体に取り入れて利用し、生命を維持していく現象を栄養という。そのために外界から取り入れる物質を栄養素nutrientsとよぶ。栄養素は食物に含まれているので、栄養素の摂取は食物を摂取することによって行うのが原則である。栄養素が欠乏したり、病者の場合には、食品によらずに、グルコース、アミノ酸、ビタミンなどの栄養素を、経口または非経口(静脈注入)の方法で補給することも行われている。

 通常は食物を摂取し、消化吸収し、栄養素を体内に取り込む。体内に取り込まれた栄養素は、体成分に転換する(同化という)一方、分解されてエネルギーに利用される。分解していく過程を異化という。栄養素が取り込まれてから同化、異化される過程を総括して代謝あるいは新陳代謝という。代謝の現象を通じて人間は成長し、健康な身体を維持し、生活を営む。食物摂取から消化吸収、代謝に至る全過程が栄養の現象である。

 日本語では栄養と栄養素を混同していう場合があるが、栄養素は物質、栄養は体内の生命現象のことである。食物中に含まれるものは栄養素である。栄養が食物中にあるのではない。食物中の栄養素が体内に取り込まれて栄養の働きをする。

[宮崎基嘉]

栄養素

栄養素としてあげられる物質は、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、無機質の5種で、これらを五大栄養素とよんでいる。このほかに水も栄養上重要な物質であるが、水は容易に供給されるため栄養素のなかには入れていない。それぞれの栄養素はさらに細かく内容が分かれるが、タンパク質、脂質、炭水化物の3種はそれぞれ化学的に共通した性質を有する物質である。ビタミンと無機質は、その内容は種々であって、かならずしも化学的に共通した性質を有する物質ではないが、生理機能の面から分類したものである。

 五大栄養素の機能をまとめてみると、(1)身体を構成しこれを維持する(タンパク質、無機質)、(2)エネルギー源になる(タンパク質、炭水化物、脂質)、(3)身体の機能を保全し調節する(無機質、ビタミン)、の三つになる。この分類は概念的なもので、実際はこのようにはっきり区分できるものではないが、栄養の基礎を理解するためのものである。たとえば脂質はエネルギー源としてあるが、身体構成や調節にも関係がある。炭水化物、脂質、タンパク質の3種はエネルギーに利用される成分で、これらを「熱量素」とよぶことがある。これに対し、タンパク質、無機質、ビタミンの3種を「保全素」とよぶ。熱量素、保全素の区分はこれらの栄養素の機能に基づく概念的な区分である。タンパク質は熱量素であると同時に保全素でもある。熱量素の1日の必要量はかなり多いが、ビタミン、無機質の必要量は比較的少量である。このためビタミンおよび無機質の一部のものを「微量栄養素」とよぶことがある。

[宮崎基嘉]

栄養素の働き


〔1〕タンパク質 エネルギー源に利用されるが、骨や筋肉などの体構成成分として重要であり、体内での代謝に関係する酵素や、調節に働くホルモンの形で、生理機能の維持に役だつ。

〔2〕脂質 主としてエネルギー源として利用されるが、体脂肪の形で貯蔵されたり、細胞や細胞内の膜の成分として体構成にも役だつ。

〔3〕炭水化物 主としてエネルギー源として利用されるが、グリコーゲンの形で貯蔵されたり、核酸の成分としても存在する。

〔4〕ビタミン 脂肪に溶けるものと、水に溶けるものがあり、その種類は多いが、それぞれ特有の働きがあり、酵素の働きを助ける補酵素の成分となったり、広く生理機能の調節に役だつ。不足すると欠乏症状をおこす。

〔5〕無機質 多種類のものがあるが、骨、歯などの構成に役だち、ヘモグロビンの成分となり、さらに体液の浸透圧、水素イオン濃度など生理機能の維持に働く。

[宮崎基嘉]

人体の成分と食品の成分

人体を構成する成分は年齢、性別、栄養状態によって異なり、個人差があるが、水分がもっとも多く56~68%を占め、タンパク質は14~19%を占める。脂質は個人差がとくに多いがおよそ12~20%で、肥満者の場合にはさらに多くなる。炭水化物は少量で1%以下、無機質は5~6%である。人体を構成する元素は55種以上あるが、なかには生命の維持に必要であるかどうかはっきりしないものもある。現在、生命の維持に必要と認められているものは、酸素、炭素、水素、窒素、カルシウム、リン、硫黄(いおう)、カリウム、ナトリウム、塩素、マグネシウム、鉄、銅、マンガン、ヨウ素、フッ素、コバルトの17種のほか亜鉛、ケイ素などがある。

 食品の成分は栄養素のほかに呈味成分、色素、香気成分なども含まれるが、主成分は水と栄養素である。最近の新しい加工食品の一部には、消化吸収の劣る低エネルギー成分を含むものがあるが、食品本来の目的からすれば好ましいものではない。食品の栄養素の含量は食品成分表に示されている。『五訂日本食品標準成分表』(科学技術庁資源調査会編、2000年)に収載されている成分は可食部に含有されるもので、水分、タンパク質、脂質、炭水化物(糖質、繊維)、灰分、無機質(カルシウム、リン、鉄、ナトリウム、カリウム)、ビタミン(レチノール〈A〉、カロチン、B1、B2ナイアシン、C、D)の18成分である。これらの成分は食品の種類によって著しく異なるが、穀類、いも類は炭水化物が多く、魚貝類、肉類、卵類、牛乳はタンパク質、脂質が多く、野菜類、果実類はビタミン、無機質が多い。

[宮崎基嘉]

栄養素の消化吸収

消化は口腔(こうこう)内から始まり、かむことによって食物を消化しやすい形にしたのち、耳下腺(じかせん)から分泌される唾液(だえき)と混合し、唾液アミラーゼによってデンプンの部分的分解を行う。その分解は不完全なままで胃に送られる。唾液アミラーゼの作用は、胃に送られた食物が胃液と十分に混合するまで続けられ、デンプンの約75%が消化される。胃では強酸性の胃液が分泌され、消化酵素としてはタンパク質分解酵素のペプシンがその主体である。ペプシンにより食物中のタンパク質のペプチド結合が切断され、プロテオース、ペプトンのような分子量の小さいポリペプチドを生ずるが、消化はまだ不完全である。胃で行われる消化はそれほどではなく、食物を胃液と混ぜて粥(かゆ)状にし、小腸へすこしずつ送り込んでいく。小腸は消化作用のもっとも盛んなところで、食物の大部分が小腸で消化される。また小腸では吸収も行われる。小腸ではアルカリ性の膵液(すいえき)、腸液、胆汁が分泌される。小腸は十二指腸、空腸、回腸からなるが、酸性のままの胃の内容物は幽門を経て、十二指腸に達する間に中和され、各種の酵素による分解が進行する。膵液は小腸消化液のなかでもっとも強力なもので、タンパク質を消化するトリプシンキモトリプシンカルボキシペプチダーゼを含み、また脂質の分解酵素として膵液リパーゼを含む。炭水化物に作用する膵液アミラーゼマルターゼなどの酵素も含む。胆汁は肝臓でつくられ、胆嚢(たんのう)で濃縮されて十二指腸に排出される。胆汁は胆汁酸塩を含み、脂質を乳化してリパーゼの作用を受けやすくしたり、脂溶性物質の吸収を助ける。腸液は十二指腸に分泌され、トリプシンを活性化するエンテロペプチダーゼ(エンテロキナーゼ)を含む。腸粘膜にはマルターゼ、ラクターゼアミノペプチダーゼジペプチダーゼ、リパーゼ、フォスファターゼなどの酵素が含まれ、消化の最終段階をここで行う。

 吸収の機構には2種類あり、単なる物理的な拡散による吸収と、能動輸送とよばれる積極的な吸収がある。前者は濃度の高いほうから低いほうへの移動であり、後者は濃度の低いほうから高いほうへの移動である。消化物は胃ではほとんど吸収されず、大部分は多数のしわと絨毛(じゅうもう)をもつ小腸粘膜で吸収される。水溶性のもの(糖類、アミノ酸、グリセリン、低級脂肪酸、ミネラルなど)は絨毛細胞から吸収されて毛細血管に入り、門脈、肝臓を経て血液により全身の循環に入る。脂溶性のもの(脂肪酸、モノグリセリドなど)は、胆汁酸塩の働きで粘膜細胞で吸収され、リンパ管に入り、胸管を経て全身循環に入る。大腸では主として水のみが吸収され、ミネラルも吸収される。

 消化吸収の機構を巧みに支配し、調節する働きをしているものに消化管ホルモンがある。消化管ホルモンは主として胃、十二指腸および小腸上部において生産されるもので、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、パンクレオザイミンなどの存在が知られている。

[宮崎基嘉]

エネルギー代謝

食物中に含まれる炭水化物、脂質、タンパク質は吸収され、体内で酸化するときにエネルギーを発生する。酸化分解されたものは最終的に炭酸ガス、水、尿素など窒素化合物になって排泄(はいせつ)される。エネルギーの面から代謝の様相を調べることをエネルギー代謝という。

[宮崎基嘉]

エネルギーの単位

水1キログラムを1℃(14.5℃から15.5℃)高めるのに要するエネルギーが1キロカロリー(kcal)であり、栄養で使用するエネルギーの単位である。最近ジュールを単位とすることもあるが、カロリーとジュールの関係は1キロカロリーは4.184キロジュール(kJ)に相当する。

[宮崎基嘉]

基礎代謝

基礎代謝は、安静時に消費する生理的最少のエネルギーをいう。基礎代謝量の測定は、早朝空腹時に安静仰臥(ぎょうが)の状態で行う。基礎代謝は体重よりも体表面積によく比例するので、体表面積当りの代謝量が用いられてきた。これは、熱エネルギーの放散が主として皮膚の表面を通して行われるためである。しかし最近は、基礎代謝を体重当りで表してもそれほど大きな誤差を生じないという考えで、体重当りの基礎代謝量を基礎代謝基準値(kcal/kg/日)としている。基礎代謝基準値は性別、年齢別によって異なり、女性より男性のほうが、また成人より発育期のほうが大きい。

[宮崎基嘉]

特異動的作用

寒いときにタンパク質の多い食事をとると身体が暖まったり、また暑いときに食事をとると汗をかいたりする。このように食物をとることによってエネルギー代謝の高進することを特異動的作用specific dynamic action(略してSDA)という。特異動的作用による発生エネルギーは筋肉労作などには利用されず、浪費エネルギーとなるため、1日の必要エネルギーを算定する際に加算する必要がある。特異動的作用は食物の質や量によって違い、タンパク質では大きく、炭水化物、脂質では小さい。日本人の日常食事では平均して摂取エネルギーの約10%が特異動的作用に使われる。

[宮崎基嘉]

エネルギー代謝率

仕事や運動をするとその分だけ余分のエネルギーを必要とする。これを労作代謝という。労作に必要なエネルギーは、その労作の強度とその人の基礎代謝量によって異なる。労作強度によるエネルギー量を比較するために、エネルギー代謝率relative metabolic ratio(略してRMR)という指標がある。RMRは、労作時の消費エネルギー量から安静時代謝量を差し引いたエネルギーを、基礎代謝量で除した数値として表される。すなわち、労作のために増加するエネルギー量が基礎代謝量の何倍にあたるかという値である。なおRMRはわが国独特の表記法で、国際的には通用しない(国際的には安静代謝resting metabolic rateの略号となっている)。

[宮崎基嘉]

栄養所要量

栄養所要量はエネルギーおよび栄養素の摂取標準を示したもので、健康な生活を営むために1日に摂取することが望ましい量を示している。わが国では厚生省(現厚生労働省)が5年おきに『日本人の栄養所要量』を改定、編集している。以下昭和59年(1984)改訂版による。栄養所要量は年齢別、男女別、生活活動強度別に作成されている。年齢は、20歳までは1歳刻みに、20歳以上は10歳刻みになっている。生活活動強度は、Ⅰ(軽い)、Ⅱ(中等度)、Ⅲ(やや重い)、Ⅳ(重い)の4区分になっている。妊娠期は生活活動強度Ⅰ(軽い)の区分のところに入り、前期と後期に分けている。栄養所要量は「体位基準値」を設定し、それに相当する所要量を掲げているので、同一年齢層でも体位が基準値からかけ離れている人は、所要量を増減して考える必要がある。

[宮崎基嘉]

エネルギー所要量

エネルギー必要量は、生命維持に必要な基礎代謝、生活活動に必要な活動代謝、食物摂取に伴う特異動的作用の和とみなされる。エネルギー必要量は、1日のエネルギー必要量(kcal/日, A)、1日の基礎代謝量(kcal/日, B)、生活活動指数(x)、食物摂取によるエネルギー代謝の増加量(SDA, A/10)から、次式で算定される。


 生活活動強度中等度の20代男性は1日、2500キロカロリー、女性は2000キロカロリーである。エネルギー所要量は生活活動強度によって異なり、その加減量も示されているので注意する必要がある。生活活動強度は個人によって異なるが、一般的にいえば、近年は労働が軽くなってきており、Ⅱ(中等度)よりもⅠ(軽い)のほうが多い傾向にある。職種による強度の差はあるが、それはおよその目安であり、個人の生活活動強度は各人各様である。エネルギー所要量は肥満との関係でとくに注意が必要である。現在では、エネルギー摂取の過剰は、日常生活における身体活動量の不足、すなわちエネルギー消費量の不足と相まって肥満をもたらし、生活習慣病(成人病)につながるおそれがあると指摘されている。そのために、積極的に体を動かし、エネルギーを消費することが要求されるが、一つの目安となるのが、日常生活活動と運動のエネルギー消費量の関係を示した表である。

[宮崎基嘉]

脂肪の所要量

脂肪(脂質)の所要量はかなり幅があるので、グラムで示さず、エネルギーのうちのパーセントで示している。成人ではエネルギーの20~25%が脂肪の所要量である。これをグラムに換算するには、パーセントに相当するエネルギーを計算し、それを9で割ればグラムの量になる。20代生活活動強度Ⅱ(中等度)の男性を例にすると500~625キロカロリー、脂肪で55~69グラムとなる。

[宮崎基嘉]

タンパク質の所要量

成人のタンパク質所要量の算定は、良質タンパク質を規準にした平均必要量を求め、これを日常食において摂取する混合タンパク質の質に応じた補正を行い、さらに、国民大多数に適用しうる安全な目標量とするため、ストレスなどに対する補正、個人差変動による補正を行って求めている。20代男性で1日70グラム、女性で60グラムである。生活活動強度によるエネルギー増加分の10~15%はタンパク質で供給することが望ましい。タンパク質の加減は意識しなくともよく、所要量を上回って摂取しても、エネルギー量が過剰でなければ肥満する心配はない。

[宮崎基嘉]

ミネラル、ビタミンの所要量

とくに重要なものについて所要量が定められている。最少必要量に対してかなりの安全率を含めて算定されているが、調理等により損失しやすい成分であるため注意する必要がある。カルシウムの所要量は20代の男女とも0.6グラム、鉄の所要量は男性で10グラム、女性で12グラムとなっている。ビタミンはビタミンA、B1、B2、C、Dについて設定されている。

[宮崎基嘉]

食塩、リン、カリウムの目標摂取量

日本人の食生活に対する注意事項として、目標摂取量が示されている。食塩は過剰にとると高血圧を引き起こすので1日10グラム以下に、リンはカルシウムの量とバランスがとれないとカルシウムの利用率を悪くするので、カルシウムの量と等量に、カリウムはナトリウムとの比率を考慮して2~4グラムに、とされている。

[宮崎基嘉]

食品のエネルギー

栄養素を空気中で燃焼させたときに発生するエネルギーを燃焼熱という。1グラム当りの燃焼熱は、炭水化物4.10キロカロリー、脂質9.45キロカロリー、タンパク質5.65キロカロリーである。炭水化物と脂質は、空気中で燃焼した場合も体内で酸化分解された場合も、最終的には二酸化炭素と水になるので同じである。タンパク質は窒素成分を含むため、体内では完全に酸化分解されず、生体では最終的に尿素、クレアチン、尿酸などのエネルギーを含んだ形の窒素成分を排泄する。その排泄分のエネルギーはタンパク質1グラムにつき1.25キロカロリーである。したがってタンパク質の生理的エネルギーは燃焼熱から排泄分を差し引いた4.40キロカロリーである。しかし実際には食品中の栄養素は体内で完全に吸収されることはなく、消化吸収率を考慮する必要がある。アトウォーターAtwaterらはアメリカ人の平均的食事の実験から、栄養素の平均的消化吸収率を求め、炭水化物は98%、脂質は95%、タンパク質は92%が消化吸収されるとして、この消化率を計算に入れると、食品中の栄養素の利用エネルギーは1グラム当り、炭水化物は4キロカロリー、脂質は9キロカロリー、タンパク質は4キロカロリーとなることを提唱した。これが有名なアトウォーター係数で、4・9・4係数とよぶ場合もある。この係数は覚えやすく便利であるため、食品のエネルギー換算係数として広く用いられている。その後、個々の食品について栄養素の消化吸収実験が行われて、食品ごとに消化吸収率の定められるものについては食品ごとのエネルギー換算係数を用いるようになった。食品ごとの係数には、国連食糧農業機関(FAO)換算係数(1973)と、科学技術庁資源調査会編の『五訂日本食品標準成分表』(2000)に採用された日本人の消化吸収実験に基づくエネルギー換算係数がある。食品のエネルギー値は、食品中の炭水化物、脂質、タンパク質の含量に、食品のエネルギー換算係数を乗じて求められる。

[宮崎基嘉]

食生活と栄養

われわれが健康で生活するために重要な因子は、(1)栄養、(2)運動、(3)休養の三つである。このなかでもっとも基本的に重要な因子は栄養である。栄養は食物を食べることによって得られるので、よい食事をとることがたいせつである。栄養素必要量の根拠は栄養所要量にその標準が示されている。一方、食物に含まれている栄養成分については、食品成分表にその量が示されている。しかしこれを組み合わせて毎日の食事を構成するためには諸種のくふうが必要である。栄養の理論は平均的な標準と考えればよい。実際の食生活は個人個人の食生活であるから、標準を目安として個人に適用することをくふうしないといけない。個人は身体の大きさも、健康状態も、日常の生活活動も、食物の嗜好(しこう)もそれぞれに異なるので、一般原則を念頭に置きつつ、バランスのとれた食事をすることがたいせつである。乳幼児、妊産婦、授乳婦、成人、老人、病者などそれぞれの状態にあわせた食事がたいせつである。

 原則的にいえば、(1)3食を規則的にとること、(2)過食しないこと、過食は肥満を招き生活習慣病の原因になる、(3)栄養のバランスをよくするために偏食をしないこと、できるだけ多くの種類の食品材料を取り入れること、(4)市販の加工食品に過度に頼らないこと、(5)生活のリズムにあわせて、運動も取り入れ、つねに身体の状態をみながら食事を調節すること、などが要点である。日常食事の目安として、食品をその栄養上の特長によってグループに分けて食事を考える方法が提唱されている。

[宮崎基嘉]

六群法の食事

厚生労働省が普及に努めている「六つの基礎食品」がこれである。

〔1〕1群(魚、肉、卵、大豆) これらは良質のタンパク質の給源であり、食事の主菜となるものである。タンパク質のほか脂質、カルシウム、鉄、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2が含まれる。

〔2〕2群(牛乳、乳製品、骨ごと食べられる魚) 牛乳、乳製品は比較的多種類の栄養素を含む。とくにカルシウムの給源として重要。良質タンパク質、ビタミンB2の給源となる。小魚類はタンパク質、カルシウムを多く含み、また鉄、ビタミンB2の給源である。

〔3〕3群(緑黄色野菜) 主としてカロチンの給源となるほか、ビタミンC、カルシウム、ビタミンB1、ビタミンB2の給源となる。

〔4〕4群(その他の野菜、果物) 主としてビタミンCの給源のほか、カルシウム、ビタミンB1、ビタミンB2の給源となる。

〔5〕5群(米、パン、麺(めん)、いも) 炭水化物(デンプン)エネルギー源食品である。この群には大麦、小麦などの加工品、砂糖、菓子も含む。いも類はビタミンB1、ビタミンCを含む。

〔6〕6群(油脂) 脂質エネルギー食品で、大豆油、とうもろこし油などの植物性油、マーガリン、バター、ラード、マヨネーズ、種々のドレッシングなどを含む。

[宮崎基嘉]

四群法の食事

四群法では食品を次の4群に分けている。

〔1〕1群(牛乳と乳製品、卵)
〔2〕2群(魚貝と肉、豆と豆製品)
〔3〕3群(野菜、いも、果物)
〔4〕4群(穀類、砂糖、油脂)
 この分類は、2群がタンパク質、3群がミネラルとビタミン、4群がエネルギーの給源となっているほか、特色は1群の分類である。1群は日本人の食生活で不足しがちな良質タンパク質と、カルシウムや鉄などのミネラル、ビタミンAやビタミンB2などの栄養素を補給するための食品群で、栄養を完全にする食品群として設定されている。四群食事法はそれぞれの食品の単位を日常食べる量にあうようにくふうし、80キロカロリーに相当する食品の量を1点と決めて、点数で食品を組み合わせていく方式をとっている。四群食事法の基本型を20点(1600キロカロリー)とし、この基本型を中心にして個人個人の加算を行えば、25点(2000キロカロリー)、30点(2400キロカロリー)などの食事が構成できる。

 なお、栄養は食生活の変遷と不即不離の関係にあるが、栄養の対象を個人から家族へ、さらに集団、地域社会集団、国民、全人類と広げていくと、栄養の問題の奥行の深さがわかる。

[宮崎基嘉]

『満田久輝・宮崎基嘉編『栄養化学』(1975・朝倉書店)』『小池五郎・福場博保編『栄養学事典』(1977・朝倉書店)』『内藤博・吉田勉編『栄養学(1)』(1979・有斐閣新書)』『細谷憲正編『栄養学(2)』(1980・有斐閣新書)』『健康・栄養情報研究会編『第六次改定 日本人の栄養所要量――食事摂取基準』(1999・第一出版)』『野口忠・伏木亨・門脇基二他著『最新栄養化学』(2000・朝倉書店)』『Barbara A. Bowman, Robert M. Russell編、木村修一・小林修平監修『最新栄養学――専門領域の最新情報』第8版(2002・建帛社)』『吉川春寿・芦田淳編『総合栄養学事典』第4版新装版(2004・同文書院)』『文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会編『五訂増補 日本食品標準成分表』(2005・国立印刷局)』『江指隆年・中嶋洋子編著『基礎栄養学』改訂第3版(2005・同文書院)』『吉田勉編著、稲井玲子・山内有信・笠原賀子他著『応用栄養学』改訂版(2005・学文社)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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