林家正蔵(読み)はやしやしょうぞう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「林家正蔵」の意味・わかりやすい解説

林家正蔵
はやしやしょうぞう

落語家。4代目までは「林屋」と書いた。


初代
(1780―1842)初代三笑亭可楽(さんしょうていからく)門下怪談噺(ばなし)(妖怪(ばけもの)ばなし)の祖。噺本(はなしぼん)や合巻の著作を残す。


2代
生没年不明。もと托善(たくぜん)という曹洞(そうとう)宗の僧。『野ざらし』『こんにゃく問答』をつくる。


3代
初代門人の林正(りんしょう)が継いだといわれるが不詳。


4代
(?―1872)麻布我善坊(がぜんぼう)に住んだので「我善坊正蔵」といわれた。


5代
(?―1923)本名吉本庄三郎(しょうざぶろう)。怪談噺の名手晩年沼津に住み、100歳まで生きたということから「沼津の正蔵」「百歳正蔵」といわれる。


6代
(1888―1929)本名今西久吉。2代目談洲楼燕枝(だんしゅうろうえんし)門下。桂枝(けいし)、春輔(はるすけ)、小燕枝(こえんし)を経て6代目正蔵を継ぐ。怪談噺を得意とした。


7代
(1894―1949)本名海老名(えびな)竹三郎。柳家三語楼(さんごろう)門下。柳家三平から小三治を経て7代目正蔵襲名。『源平』『相撲(すもう)風景』『反対車』『素人鰻(しろうとうなぎ)』などを得意とした。昭和30年代、40年代の人気落語林家三平(1925―1980)の父。


8代
(1895―1982)本名岡本義(よし)。三遊亭三福門下から出発し、4代目橘家円蔵(たちばなやえんぞう)、3代目柳家小さん一門に加わる。福よし、金八、二三蔵(ふみぞう)、円楽、馬楽(ばらく)を経て1950年(昭和25)8代目正蔵襲名。『火事息子』『淀(よど)五郎』などの落語のほか、人情噺、怪談噺、正本芝居噺に優れ、三遊亭円朝(えんちょう)の芸風を昭和50年代まで伝えた。著書も多い。晩年、林家彦六(ひころく)と名のった。


9代
(1962― )本名海老名泰孝(やすたか)。7代目正蔵の孫。1978年(昭和53)父である林家三平に入門、林家こぶ平を名のる。三平の死後は林家こん平(1943―2020)門下。1987年真打ち昇進。テレビタレントとして活躍する一方で、古典落語にも精力的に取り組む。2005年(平成17)3月、9代目正蔵襲名。[関山和夫]

『麻生芳伸編『林家正蔵随談』(1967・青蛙房)』『東大落語会編『林家正蔵集』上下・別巻「正蔵一代」(1974・青蛙房)』『林家彦六著『正蔵世相談義』『噺家の手帖』(1982・一声社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「林家正蔵」の意味・わかりやすい解説

林家正蔵 (はやしやしょうぞう)

落語家。4代までは林屋と書く。(1)初代(1780-1842・安永9-天保13) 初代三笑亭可楽門下。怪談噺の創始者。戯作も書き,2代鹿野武左衛門(しかのぶざえもん)を名のった。(2)2代 生没年不詳。前身は托善(たくぜん)という禅僧。落語《野ざらし》《こんにゃく問答》の作者。(3)3代は2代の養子が継いだが,のちに離別して2代左楽(さらく)となった。(4)4代は麻布我善坊(がぜんぼう)に住んでいたので,〈我善坊の正蔵〉と呼ばれた。(5)5代(1824-1923・文政7-大正12) 本名吉本正三郎。晩年に沼津に住んだので〈沼津の正蔵〉と呼ばれ,また,百歳の長寿を保ったので〈百歳の正蔵〉ともいわれた。怪談噺の名手として知られる。(6)6代(1888-1929・明治21-昭和4) 本名今西久吉。2代目談洲楼燕枝(だんしゆうろうえんし)門下。やはり怪談噺の名手。(7)7代(1894-1949・明治27-昭和24) 本名海老名(えびな)竹三郎。柳家三語楼門下。柳家三平,小三治を経て襲名。滑稽軽妙な話術の人気者であった。(8)8代(1895-1982・明治28-昭和57) 本名岡本義(よし)。5代三遊亭円遊門下から5代橘家円蔵,3代柳家小さん門に移り,4代蝶花楼馬楽(ちようかろうばらく)から8代を襲名。晩年は彦六と改名。堅実綿密な芸風で,人情噺を得意とし,芝居噺,怪談噺にも意欲を見せた。
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百科事典マイペディア 「林家正蔵」の意味・わかりやすい解説

林家正蔵【はやしやしょうぞう】

落語家。4代までは林屋と書いた。初代〔1780-1842〕は道具入り怪談噺(ばなし)の祖で,文政から天保にかけての名手。4代〔?-1879〕,5代〔1824-1923〕,6代〔1888-1929〕も怪談噺をよくした。7代〔1894-1949〕は本名海老名竹三郎。軽妙な語り口で人気があった。8代〔1895-1982〕は本名岡本義(よし)。三遊亭円朝の芸風を伝えた人情噺,怪談噺が得意。晩年は林家彦六を称した。9代〔1962-〕は7代の孫で本名海老名泰孝。前座名の林家こぶ平を経て2005年襲名。

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世界大百科事典(旧版)内の林家正蔵の言及

【狂言謡】より

…狂言の中でうたわれる謡の総称。狂言は,能に比べると相対的には写実的なせりふ劇だが,筋の展開上,歌謡を挿入することも多く,現行曲の60%以上は,なんらかの形で歌舞の要素を含む。また,狂言師の演技は,せりふやしぐさの稽古から入るのではなく,謡によって声の訓練,舞によって体の動きの基礎がつくられる。狂言謡は多種多様にわたるが,劇的用途の上から劇中歌と特定狂言謡とに分けられる。劇中歌とは,狂言の演目から独立している小曲で,複数の演目に自在に流用される謡をさす。…

【風流】より

…華やかな趣向のある意匠をいう。〈風流(ふうりゆう)〉は,《万葉集》では〈みやび〉と訓じ,〈情け〉〈好き心〉などの意も含んでいたが,平安末期から中世にはもっぱら〈ふりゅう〉と読まれ,祭りの山車(だし)や物見車に施された華美な装飾,その警固者の奇抜な衣装,宴席に飾られた洲浜台(すはまだい)の趣向などを総称するようになった。これら貴族社会の風流は,しばしば朝廷から禁令が出るほどに華美なものであったが,南北朝期に入ると力をつけてきた町衆や地方の有力農民層にも浸透し,とくに彼らが担い手となった祭礼の芸能の中で大きく花開いた。…

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