(読み)いた

精選版 日本国語大辞典 「板」の意味・読み・例文・類語

いた【板】

〘名〙
① 薄く平らにした木材
古事記(712)下・歌謡「い寄り立たす わきづきが下の 伊多(イタ)にもが あせを」
② 金属や石、その他の薄く平らな物。「ガラスいた」「とたんいた」など。
③ 「いたじき(板敷)」の略。
※落窪(10C後)二「夜ふくるまで板の上に居て」
※枕(10C終)三六「いたのはし近う、〈略〉畳一ひらうち敷きて」
④ 「いた(板)の物」の略。
⑤ (「まないた(俎)」の略) 魚を料理する平らな木の台。
※虎明本狂言・鱸庖丁(室町末‐近世初)「いたにこいをいだす」
⑥ 料理場。台所。また、料理人をもさす。板前。板場。板元(いたもと)
※滑稽本・四十八癖(1812‐18)初「コウ板は誰だ」
⑦ 料理屋などで、その日にできる料理や魚の名などを記した板。献立表。〔模範新語通語大辞典(1919)〕
⑧ (「かみよりいた(神寄板)」の略) 古く、神を招請するときに、琴頭に立てておく杉の台。また、転じて、とくに紀州熊野神社等の巫女(みこ)の称。
山家集(12C後)下「み熊野のむなしきことはあらじかし虫垂(むしたれ)いたのはこぶあゆみは」
⑨ 板木(はんぎ)。また、出版。→板に上(のぼ)す
※浮世草子・好色破邪顕正(1687)上「板を後世に伝へん物を」
⑩ 板付きかまぼこをいう室町期の女房詞「おいた」の「お」が脱落したもの。板付き。おいた。
洒落本・まわし枕(1789)「此板アめっそう塩ッかれへゼ」
⑪ 「いたじめ(板締)①」の略。
⑫ 「いたがね(板金)②」の略。
※北野天満宮目代日記‐目代久世日記・慶長一二年(1607)一二月四日「四十三匁請取也。但いた也」
板状鬢付油(びんつけあぶら)
※洒落本・青楼昼之世界錦之裏(1791)「板(イタ)を一本とゑりつけ」
⑭ 江戸深川などの岡場所で、遊女の名をしるし、稼ぎの多い順に寄せ場に並べ掲げる板札。
※洒落本・仕懸文庫(1791)二「寄場(よせば)へいって板(いた)をみてきやしたが」
⑮ 芝居の舞台。→板に付く板に乗せる板に上(のぼ)す
⑯ 写真の乾板。

はん【板】

〘名〙
① いた。木を薄く平たくしたもの。
文中に、似かよった調子の語句が並んで、一種のいやみやわずらわしさなどが感じられるもの。また、そのような文体。平板。
③ 木製の打楽器。数枚の短冊形の板の一端を紐でつづり、両手に持って打ち鳴らすもの。びんざさら。拍板。
※随筆・撈海一得(1771)下「板は今浅草観音祭などに用るびんざさらと云ものなり」
④ (「版」とも書く) 寺院で、時刻などを告げるために打ち鳴らす板。木製と銅製の二種があり、銅製のものを雲版という。
正法眼蔵(1231‐53)優曇華「僧堂、いま版をとりて雲中に拍し」
⑤ =はん(版)
※俳諧・毛吹草(1638)四「板摺本(ハンのすりほん)

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デジタル大辞泉 「板」の意味・読み・例文・類語

はん【板】[漢字項目]

[音]ハン(漢) バン(慣) [訓]いた
学習漢字]3年
〈ハン〉
木を薄く平らに切ったもの。また、そうした形状のもの。いた。「甲板かんぱん・こうはん乾板かんぱん合板鉄板てっぱん
(「」と通用)文字を彫る木のいた。版木。「板刻開板官板かんぱん宋板そうはん
拍子をとるいた。「拍板
〈バン〉
いた。「板木ばんぎ板書看板鋼板黒板回覧板掲示板
いたのように平たくて変化がない。「平板
野球で、投手板のこと。「降板登板
(「ばん」の代用字)いたがね。「板金
〈いた〉「板前戸板胸板むないた床板羽子板
[難読]三板サンパン舢板サンパン拍板びんざさら

いた【板】

材木を薄く平たく切ったもの。「床にを張る」
金属・石または合成樹脂などを薄く平たくしたもの。「ガラス」「ブリキ
まな板
板場いたば」「板前いたまえ」の略。「さん」
板付き蒲鉾かまぼこ」の略。「わさ」
芝居の舞台。「新作をに掛ける(=上演する)」
版木はんぎ
《「掲示板」の「板」から》電子掲示板(BBS)のこと。また、掲示板サイトの中で、テーマ別に集めたスレッド2の集合。
株式などの相場で、売買注文の指値ごとの需給数量を示した表。またその情報。
10板の物」の略。
11 板敷き。板縁。
「つややかなる―のはし近う、鮮やかなる畳一枚ひとひらうちしきて」〈・三六〉

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改訂新版 世界大百科事典 「板」の意味・わかりやすい解説

板 (はん)

東アジアの体鳴楽器。地域,時代,ジャンルによって形態や名称が異なるが,(1)数枚の板を同時に打ち合わせるもの,(2)1枚の板を槌(つち)などで打つもの,に大別される。また,中国では拍子を意味する楽語としても用いられる。

 (1)はおもに中国,朝鮮にみられる打楽器で,拍板,拍ともいう。中国では唐代の散楽(雑技)に横笛,腰鼓(ようこ)とともに用いられ,8世紀以後宮廷や民間の宴饗楽に用いられるようになった。日本の笏に似た細長い板を数枚(6~9または十数枚)重ね,上部を藺(い)で結び,下部を左右に開いてから打ち合わせる。敦煌壁画などに見える。五代には両端の2枚を特に長くしてその下部を持つ型のものもあり,日本の平安朝仏画にみられる唐風の拍板は両端の2枚が長く,中にはさむ板は楕円形をなす。宋以後も宮廷宴饗楽に6枚のものが用いられ,清朝のものは,板の長さ35cm,幅6.5~7.6cm,厚さ1.2~1.5cm。明・清時代には3~4枚の拍が現れ,民間の劇楽などには宮廷用よりやや小型で3枚のものが使われた。やや薄い2枚の板ははりつけ,他の1枚を上部で結び合わせ,左手で親指を板の間に入れて板の上部を持ち,前後にゆすって1枚板を打ちつけて鳴らす。京劇では単皮鼓の奏者が同時に左手で板を打ってリズムをとる。

 朝鮮では,新羅統一時代に三絃三竹,大鼓とともに拍板が用いられ,高麗朝文宗30年(1076)の大楽管絃房には唐舞業師などとともに歌舞拍業師があった。睿宗9年(1114),宋の新楽にも拍板が用いられた。《楽学軌範》によれば,拍は唐楽にも郷楽にも使われた。朝鮮の拍板は6枚の木製の板を上端でゆるく鹿革のひもで連結し,左手で1枚を持ち,右手で残りの板を開いてから打ち合わせる。楽曲の始めに1回,終りに3回打ち鳴らす。現在も文廟祭享楽や大編の管絃合奏に用いる。

 日本でも古くは拍板が用いられ,拍子,百子といったが,のちには(ささら)の類の編木(びんざさら)のみが発達した。沖縄の三板(さんばん)/(さんば)は中国系と考えられ,日本の四つ竹(よつだけ)も竹製の拍板とみなされる。

 (2)の型は,〈ばん〉〈ぱん〉ともいい,版,梆の字も当てる。おもに仏教寺院の法具として用いる。材質,形状に従って,雲板(うんばん),木板(もつばん),魚板(ぎよばん)の3種がある。雲板は青銅または鉄製で平板状雲形をなし,雲版とも書き,火版,大版,長板,斎板,板鐘などともいう。蓮華座形の撞座を木槌で打ち,食事(じきじ)(斎食)の合図や時報などに用いる。木板は,木版とも書き,板(版),板木(版木,盤木)(はんぎ)/(ばんぎ),接版,更版とも称する。長方形の厚い木の板の上辺を隅切りしてつるしたものを木槌で打つ。作法の合図や外来者の訪問用に使うが,歌舞伎の下座(げざ)楽器として用いることもある。魚板は木製で,口に珠をくわえた長い魚形のものをつるして木槌で打つ。古くは木魚ともいい,いわゆる木魚は魚板が変形したものとみなされる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「板」の意味・わかりやすい解説


いた
board
plank

板状をした木材。広義には製材に関する日本農林規格(JAS(ジャス))の板類を、狭義にはそのなかの板をいう。板には面に現れる木目(もくめ)の形により、柾目(まさめ)と板目とがある。柾目は年輪に直交する方向に製材したもので、反(そ)り、ねじれ、収縮などの変形が小さい。板目は年輪の接線方向に製材したもので、反りなど変形に対する注意が必要である。厚さが6~9ミリメートルの薄板は天井や羽目板に、12~15ミリメートルのものは床板に、20ミリメートル以上のものは棚板として用いられる。一般には、金属や石その他薄く平らなものを板という場合がある。

[向井 毅]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「板」の意味・わかりやすい解説


はん
ban

中国の体鳴楽器。長方形の堅い板の端に穴をあけ,紐を通して数枚を結び,穴と反対側の端を開いては打合せる。唐代の宴楽や散楽に拍板の名で用いられ,のちに劇楽に使われた。京劇では単皮鼓と板とを1人が奏し,リズムをリードする。日本には清楽の楽器として輸入されたほか,沖縄地方では三板 (さんば) という名称で民俗音楽に用いられている。

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