精選版 日本国語大辞典 「松」の意味・読み・例文・類語
まつ【松】
〘名〙
[1]
① マツ科マツ属の常緑高木の総称。樹皮は赤褐色・黒褐色または灰褐色でひびわれしてはげる。葉は針状、種類によって二本・三本・五本が短枝の上に束生する。雌雄同株。雌雄花ともに花被はなく、雌花は球状に集って新芽の頂につき、雄花序は穂状で新芽の下部に密生する。果実は多数が集って球果をなし松かさと呼ばれる。アカマツ、クロマツ、ハイマツ、チョウセンゴヨウ、ゴヨウマツなど世界中に一〇〇種ぐらいある。日本では神の依(よ)る木として門松などにされ、古くから長寿や慶賀を表わすものとして尊ばれている。材は建築・薪炭用。雅名にあさみぐさ・いろなぐさ・おきなぐさ・おりみぐさ・くもりぐさ・ことひきぐさ・すずくれぐさ・たむけぐさ・ちえぐさ・ちよぐさ・ちよみぐさ・ときみぐさ・ときわぐさ・とちよぐさ・とわれぐさ・ねざめぐさ・はつみぐさ・はつよぐさ・ひきまぐさ・ひさみぐさ・みやこぐさ・めざましぐさ・ものみぐさ・ももぐさ・ゆうかげぐさ・ゆうみぐさなど。
※古事記(712)中・歌謡「尾張に 直に向かへる 尾津の埼なる 一つ麻都(マツ)」 〔淮南子‐説山訓〕
② (白氏文集の驪宮高の一節によった表現) 小松であるとも、シダ類の一種でノキシノブまたはカワラマツのことともいう。
※枕(10C終)八三「垣などもみな古りて、苔生ひてなん、など語りつれば、宰相の君、瓦に松はありつやといらへたるに」
③ 松茸をいう、女房詞。
※御湯殿上日記‐文明九年(1477)九月八日「八わたのたなかまつ二をりまいる」
④ 松の脂(やに)の多い部分を束ねて火をつけ、照明に用いたもの。たいまつ。
※大和(947‐957頃)一二五「御階のもとに、まつともしながらひざまづきて」
⑤ (「待つ」をかけて、多く和歌などに用いられる) 待つこと。
※古今(905‐914)離別・三六五「立ち別れいなばの山の峯におふる松としきかば今かへりこむ〈在原行平〉」
⑥ (松は常緑で変わらないところから) 永久であること、不変であることのたとえ。
※梁塵秘抄(1179頃)二「我が君を何によそへむ浦に住む、亀山の、いはかどに生ひたるまつによそへむ」
⑦ 紋所の名。松の幹・枝・葉または松かさを図案化したもの。一つ松、抱き松、櫛松、松葉菱など種々ある。

⑧ 「まつかざり(松飾)」の略。
※徒然草(1331頃)一九「大路のさま、まつ立わたして、花やかにうれしげなるこそ」
⑨ =まつの位(くらい)③
※評判記・色道大鏡(1678)一「大夫を松(マツ)とし、天神を梅とし、囲を鹿とせり」
⑩ 劇場で、東西前土間の行詰り。切り落としで、もっとも舞台に近い席。
※雑俳・柳多留‐一一一(1830)「松の一座頭芝居を聞てゐる」
⑪ 「松・竹・梅」などと順位をつけたものの、その最上位を表わす。
⑫ 男のたとえ。女を花にたとえるのに対していう。
※浮世草子・好色一代男(1682)八「世は物にかまはぬがよしとて、松(マツ)計(ばかり)の山にてもおもしろからず」
⑬ 花札で、一月を表わす札。松に鶴の図柄の二〇点札と、松に短冊の五点札が各一枚、一点札が二枚ある。
[2] 荻江節。四世荻江露友作曲。明治初年ごろの作。「竹」「梅」と共に三部作をなす祝賀曲。
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