日本大百科全書(ニッポニカ) 「杭州」の意味・わかりやすい解説
杭州
こうしゅう / ハンチョウ
中国、浙江(せっこう)省北部にある副省級市(省と同程度の自主権を与えられた地級市)。同省の省都で、1927年に市となった。旧称は臨安(りんあん)、銭塘(せんとう)。北京(ペキン)、西安(せいあん)などと並んで六大古都に数えられる。銭塘江の下流域、大運河の南端に位置し、余杭(よこう)、富陽(ふよう)など10市轄区と2県を管轄し、建徳(けんとく)市の管轄代行を行う(2018年時点)。人口753万9000、市轄区人口615万2000(2017)。
年平均気温は17.0℃、年降水量は1100~1600ミリメートル。狭山(さやま)市、上尾市、福井市、浜松市、岐阜市、向日(むこう)市、松江市と姉妹都市提携を結ぶ。また岩国市とは、同名の歴史的な橋があることから、2004年に錦帯橋(きんたいきょう)友好橋提携を結んだ。
[周 俊 2018年3月19日]
歴史
秦(しん)、漢以来銭塘県として登場するが、初めは地方都市にすぎなかった。隋(ずい)が大運河を開いてその終点となり、一躍杭州という地域都市になった。杭州から北は上塘河、下塘河という運河で蘇州(そしゅう)方面に達し、銭塘江を経て南は浙江、江西(こうせい)、福建(ふっけん)に通じ、浙東河(せっとうが)を東進すれば海港寧波(ニンポー)で海洋船により日本、朝鮮、東南海岸、東南アジアと結ばれた。南宋(なんそう)は杭州を国都臨安(行在(あんざい))と定め、人口は100万を超え、絹織物、漆器、陶磁器を産した。都市生活や文化の繁栄は日本僧の成尋(じょうじん)やマルコ・ポーロ、イブン・バットゥータなどが記録し、ポーロは『東方見聞録』で世界でもっとも優美な都市と絶賛している。郊外の西湖(せいこ)は白楽天(はくらくてん)(白居易(はくきょい))、蘇東坡(そとうば)(蘇軾(そしょく))らの地方官が堤をつくったもので景勝に富む。
元代でも大都会であり、明(みん)、清(しん)では省都であり、絹織物で栄えたが、上海(シャンハイ)が急成長して商業は衰え、開港場となったのは下関(しものせき)条約以後である。
[斯波義信 2018年3月19日]
産業・交通
かつては上海の発展により経済は衰退し消費都市であったが、中華人民共和国成立後、絹織物工業が急速に発展し、冶金、化学、ゴム、電子、精密機械、製紙など各種工業も新たにおこった。改革開放以降は、軽工業や電子部品、金融などの産業を中心に経済成長が著しい。外資誘致のため、優遇措置を受けられる杭州経済技術開発区、蕭山(しょうざん)経済技術開発区、余杭経済技術開発区、富陽経済技術開発区などが設置され、パナソニックなど、日本企業も数多く進出している。電子商取引大手アリババの本拠地としても有名。伝統工業としては錦織(にしきおり)、絹張り傘、白檀扇子(びゃくだんせんす)、鋏(はさみ)などが知られる。周囲の農村では水稲のほか、野菜、ジュート(コウマ)、茶の生産が多く、養蚕業も盛んで、とくに竜井(ロンチン)茶は世界的に有名である。
滬昆(ここん)線(上海―昆明(こんめい))、杭甬(こうよう)線(杭州―寧波)、宣杭線(宣城(せんじょう)―杭州)などが通じるほか、滬杭高速鉄道(上海―杭州)、寧杭高速鉄道(南京(ナンキン)―杭州)、杭甬高速鉄道、杭長旅客専用線(杭州―長沙(ちょうさ))などの高速鉄道も開通した。2012年には地下鉄が開業し、公共のレンタサイクル拠点の整備も進んでいる。港は水深が浅いため外航商船は停泊できず、沿岸や河川、運河を通う小汽船が寄港するにすぎない。市街近郊には2000年開港の杭州蕭山国際空港があり、国内主要都市のほか、東京、大阪、ソウル、シンガポールなどとも結ばれる。
[林 和生・編集部 2018年3月19日]
文化・観光
市西部にある西湖は、2011年に「杭州西湖の文化的景観」として世界遺産の文化遺産(世界文化遺産)に登録され、中国有数の景勝地として内外の観光客でにぎわう。北岸の堤には錦帯橋が架かり、南岸には、民間伝説『白蛇伝』の舞台として著名な雷峰塔がある。西湖の西に広がる山々は以前武林山と総称されていたので、杭州は武林ともよばれる。その山麓には、禅宗五山の霊隠寺(りんにんじ)、浄慈寺(じんずじ)がある。霊隠寺は、かつて空海(くうかい)が参拝したと伝えられ、2002年日中国交正常化30周年を記念して空海の像が建立された。市郊外には、径山寺(きんざんじ)みそで知られる禅宗五山の径山寺がある。
[周 俊 2018年3月19日]