本願(読み)ほんがん

精選版 日本国語大辞典 「本願」の意味・読み・例文・類語

ほん‐がん ‥グヮン【本願】

〘名〙
① 本来の願い。もとからの誓願本懐
万葉(8C後)五・七九四右詩「従来猒離此穢土 本願託生彼浄刹」 〔晉書‐涼武照王伝〕
仏語。仏・菩薩過去世において、衆生(しゅじょう)を救済するために起こした誓願。阿彌陀仏四十八願薬師如来十二願など。本誓(ほんぜい)。→彌陀の本願
※将門記(940頃か)「彼の本願を以て此の苦を脱るべし」 〔無量寿経‐下〕
③ 寺院、塔、仏像などを創立し、法会(ほうえ)を発起すること。また、その人。施主本願主
※観智院本三宝絵(984)下「本願の時よりよの人いひつたへてひひなの会といへり」
④ 中世、高野山で、念仏行者の総称。
※一言芳談(1297‐1350頃)下「宝幢院本願(ホングン)云、むかしの上人は、一期、道心の有無を沙汰しき」
⑤ 社会救済の活動を修行の一環とした半僧半俗の行者や聖のこと。

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デジタル大辞泉 「本願」の意味・読み・例文・類語

ほん‐がん〔‐グワン〕【本願】

本来の願い。本懐。「本願を達成する」
仏語。仏・菩薩ぼさつが衆生を救済するために起こした誓願。阿弥陀仏の四十八願など。本誓ほんぜい
本願主ほんがんしゅ」の略。
[類語]念願悲願本懐宿願

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改訂新版 世界大百科事典 「本願」の意味・わかりやすい解説

本願 (ほんがん)

仏や菩薩が過去世の修行の期間に立てた誓願。人々を救済しようとの根本の願い。その願いごとが弘(ひろ)いという意味で本弘(ほんぐ)誓願,略して弘誓(ぐぜい),弘願(ぐがん)ともいう。また因願(菩薩が仏になるための因としての行を修めている間におこした願の意),宿願などとも称する。すべての仏・菩薩に共通する一般的な総願と,それぞれの仏・菩薩が独自の目的でおこした固有の別願とがある。前者は四弘誓願(しぐぜいがん),四弘行願(しぐぎようがん),四弘願などといい,誓ってすべてのものをさとりの彼岸に渡そう(衆生無辺誓願度(しゆじようむへんせいがんど)),誓ってすべての煩悩を断とう(煩悩無量誓願断(ぼんのうむりようせいがんだん)),誓ってすべての仏の教えを学ぼう(法門無尽誓願学(ほうもんむじんせいがんがく),または法門無尽誓願知(せいがんち)),誓ってこの上ないさとりに至ろう(仏道無上誓願証(せいがんしよう),または仏道無上誓願成(せいがんじよう))の四つをいう。この原形は《心地観経》に認められるが,智顗(ちぎ)に至ってこのような形になったとされ,宗派によって字句に多少の異同がある。後者には,《無量寿経》に説く阿弥陀如来の四十八願,《悲華(ひけ)経》に説く釈迦如来の五百大願,《薬師本願経》に説く薬師如来の十二大願,《華厳(けごん)経》に説く普賢菩薩の十大願などがある。仏・菩薩の本願は生きとし生けるものの救済を本意として立てられているが,おのおのの仏国土(ぶつこくど)を浄(きよ)めて衆生を救済しようとする浄仏国土(じようぶつこくど)の本願と,現実のこの穢土(えど)で成仏して衆生を済度しようとする穢土成仏の本願とがあり,たとえば弥陀の四十八願は前者,釈迦の五百大願は後者にあたる。諸仏諸菩薩の本願のうち,弥陀の四十八願は浄土教の発展とともに古くからよく知られ,とくに〈一切の生あるものが,至心に信楽(しんぎよう)して私(弥陀のこと)の浄土に生まれようと欲し,わずか十声の念仏でも唱えた人を救済できないならば,仏とはならない〉という第十八願は古来念仏往生の願ともいわれ,最も重要な本願なので王(おう)本願と称されている。浄土教では,弥陀が本願を立てて救済しようとしている対象,すなわち悪人や凡夫を本願の実機(じつき),本願の正機などという。また弥陀を,本願によってはかりしれない功徳をつんでいるとみて,本願功徳聚(くどくじゆ)とたたえる。本願は衆生を浄土によぶ弥陀の勅命だとして,本願招換の勅命と称することがあり,信者が弥陀の本願のはたらきにあまえてつけあがることを本願誇りという。このほか,仏像・堂塔などをつくり,法会などを催す発起人を本願ということがあるが,これは本願主(ほんがんしゆ)を本願と略称しているのである。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「本願」の意味・わかりやすい解説

本願
ほんがん

仏陀や菩薩が修行中に立てた衆生救済の誓願。薬師仏の十二願,釈迦仏の五百大願などがあるが,特に阿弥陀仏が過去世で法蔵比丘であったときに立てた四十八願が著名。浄土教では,このなかの第十八願 (念仏往生の願) を本願と呼び,教義の根本においている。

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