本態性頭蓋内圧亢進症

内科学 第10版 「本態性頭蓋内圧亢進症」の解説

本態性頭蓋内圧亢進症(髄液循環異常)

(2)本態性頭蓋内圧亢進症(spontaneous intracranial hypotension:SIH)
定義・概念
 本態性頭蓋内圧亢進症とは,水頭症や空間占拠性病変がなく,髄液の性状は正常にもかかわらず,頭蓋内圧が高く,かつ,頭蓋内圧亢進症状を有する症候群である.
分類
 分類としては,原因の明らかな二次性と,原因の不明な本態性とに大別される.原因としては,①内科的疾患によるもの(Addison病,副甲状腺機能低下症,慢性閉塞性肺疾患,肺高血圧を伴う右心不全,睡眠時無呼吸,腎不全,高度の鉄欠乏性貧血),②薬物に関係したもの(テトラサイクリン,ビタミンA,蛋白同化ステロイド,コルチコステロイド長期投与からの離脱,成長ホルモン,ナリジクス酸リチウムなど),③静脈還流障害(脳静脈・静脈洞血栓症,頸静脈血栓症)の3つに大別される.しかし,原因を特定できない場合も多く,これらを本態性とよぶ.
病態生理
 一般的には,脳静脈あるいは静脈洞の閉塞あるいは肥満による静脈圧の上昇が髄液吸収を低下させ,頭蓋内圧上昇をきたすと考えられている.一方で脳静脈圧上昇は原因ではなく結果とする説もあり,未解決である(Kingら,2002).
臨床症状
 頭蓋内圧亢進症状として,頭痛,悪心,嘔吐,耳鳴,複視,一過性霧視などがある.徴候としては,うっ血乳頭,外転神経麻痺などの所見を認める.
検査成績
 側脳室は左右対称で,サイズは正常か縮小している.造影CTやMRIで水頭症,空間占拠性病変(mass),静脈閉塞などの異常所見を認めない.脳血管撮影の静脈相,造影CTやMR動脈造影で静脈洞,特に横静脈洞の狭窄・閉塞を検討する.
診断
 以下の診断基準が用いられる(Friedman,2002).①頭蓋内圧亢進やうっ血乳頭による症状がありうる.②頭蓋内圧亢進やうっ血乳頭による徴候がありうる.③側臥位の測定で頭蓋内圧亢進確認(250 mm水柱).④髄液性状は正常.⑤典型例ではMRIや造影CTのみ,それ以外のすべての例では,MRIとMR静脈撮影で,水頭症,空間占拠性病変,形態的病変,血管病変を認めない.⑥頭蓋内圧亢進の原因が不明.
治療・予防・リハビリテーション
 最もよく行われるのは副腎皮質ホルモン投与である.腰椎穿刺の繰り返し,高張液や利尿薬も行われるが,これらが効を奏さない場合には腰椎くも膜下腔腹腔吻合術が行われる.腰椎くも膜下腔腹腔吻合術はシャント機能不全をきたしやすいので,定位手術的に脳室穿刺を行う脳室腹腔吻合術がすぐれているとする意見もある(McGirtら,2004).[石川正恒
■文献
Friedman DI, Jacobson DM: Diagnostic criteria for idiopathic intracranial hypertension. Neurology, 59: 1492-1495, 2002.
King JO, Mitchell PJ, et al: Manometry combined with cervical puncture in idiopathic intracranial hypertension. Neurology, 58: 26-30, 2002.
McGirt MJ, Woodworth G, et al: Cerebrospinal fluid shunt placement for pseudotumor cerebri-associated intractable headache: predictors of treatment response and an analysisi of long-term outcomes. J Neurosurg, 101: 627-632, 2004.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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