未進(読み)ミシン

デジタル大辞泉 「未進」の意味・読み・例文・類語

み‐しん【未進】

租・庸・調などの賦課物をまだ納めていないこと。また、その未納のもの。
まだ果たしていない義務約束

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精選版 日本国語大辞典 「未進」の意味・読み・例文・類語

み‐しん【未進】

〘名〙
① 租・庸・調、またその代物など、ひろく賦課物を納入していないこと。また、その未納分の物。
日本後紀‐大同三年(808)五月庚子「庸並雑穀等未進、其数不少」
② 転じて、解消されていない不足。かねてからの不満。
※歌舞伎・毛抜(1742)「互ひに御待かねなされたみしんを、一時にうめさっしゃれまする様に」

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改訂新版 世界大百科事典 「未進」の意味・わかりやすい解説

未進 (みしん)

古代中世近世社会で,年貢夫役(ぶやく),公事くじ)など賦課物を納入しないこと,または未納分の物をさす。もちろん,領主は年貢などの未進を簡単に認めたのではなく,未進があれば〈付使〉といって使を派遣して催促したし,〈発向〉といって武力で弾圧することもあった。興福寺や春日社では未進のある田地神木をたてて田地の耕作を停止させたり,近世初頭には妻子や牛馬を差し押さえたりした。また江戸時代には未進を防ぐために,年貢などを村単位で納めさせ,個々の百姓の未進を村で負担させている。中世では百姓や下人が未進をしたまま他領に移ることが禁止されていた。それでも正当な理由が認められたときには,次の収穫期まで,未進年貢等の納入延期が認められることがあったが,その場合には請文(うけぶみ)の提出が必要であった。たとえば,1306年(徳治1)4月7日に,東寺領若狭国太良荘(たらのしよう)の預所は,同荘の百姓たちの未進年貢の請文7通を領主に送っている。これは同年3月9日付で作成された年貢未進百姓の目録に従って作成された請文を,領主のもとに送付したものである。注目されるのは,このとき送付された請文に,期日までに納入しないときはその額を2倍にして納入することが誓われている点である。しばしば未進年貢には利子が付されている。請文の提出によって未進年貢額が確定すると,荘官は当該年次の荘園の収支を計算した算用状を作成したが,それとともに未進百姓別の未進額を記した未進徴符を作成するのが通例であった。1428年(正長1)興福寺が奈良に発布した徳政令では,昨年以前の未進年貢が徳政令の対象となっているが,これは未進年貢に利子が付されたことと関係があるものと考えられる。
執筆者: 近世では,年貢などの賦課物を納入することを上納(じようのう)といい,領主からの割付(わりつけ)額を全部上納することを皆済(かいさい)といった。年貢を最初から少しも上納しないことを不納(ふのう)といい,一年間不納を続ければ田畑を没収して村中に預け,村総作(むらそうさく)にさせた。これに対し,一部分が未納になったまま皆済期限をこえることを未進といった。未進の場合は田畑を取り上げず,次年から納めさせたが,未進のままで3年間は見のがし,それを過ぎると糾明された。百姓のほうから田畑を差しだすことを願いでれば,いったん取り上げて小作地にし,未納分の年貢が完納されると地主へ戻した。犯罪などで没収する場合とちがい,年貢の不納・未進の場合は完全に所持権を奪うことはなかった。年貢皆済ということが領主の目標だったから,年貢を不納にして逃散(ちようさん)する百姓や未進のままになっている百姓がでるのを警戒し,捜索を村中の責任でやらせたり,未進分の弁済を村中や五人組に命じたりした。初期には年貢を皆済させるための厳しい法令が多くだされている。近世の年貢徴収の原則は,村請(むらうけ)制といって村高に対して一括賦課し,村役人がそれを村内の個々の百姓の名請(なうけ)高に応じて割りふった。実際には年貢を上納できない百姓がいる場合でも村役人が立て替えたり,他所から借りたり,あるいは領主から拝借のかたちにして皆済するということが行われた。そのため,村のなかではつねに金融が行われていたが,そのような年貢村請の方法がうまく機能しない場合に,個々の百姓の年貢不納,未進が表面にあらわれたのである。それは同時に質地小作の増大ということであった。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「未進」の意味・わかりやすい解説

未進
みしん

年貢(ねんぐ)・公事(くじ)・夫役(ぶやく)など貢納賦課物を納入しないこと。近世では、納むべき年貢を一部だけ納入して残りを完納できないことを年貢未進といった。初めからまったく納めない場合は年貢不納である。

[編集部]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「未進」の解説

未進
みしん

未済(みさい)とも。領主への貢納物を期限までに納入しないこと。古代では租庸調などの未納をいった。中世,荘園公領における年貢・公事(くじ)などの未進に対しては,未進分を記載した未進徴符がだされてきびしくとがめられた。未進がたび重なると名(みょう)や耕地から追われた。近世でも,未進に対する領主の処分はきびしく,完済のために家屋などを売却させられたり,手鎖や入牢などの刑罰も科された。

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世界大百科事典(旧版)内の未進の言及

【潰百姓】より

…禿百姓とも書き,江戸時代,年貢の未進や負債の累積などにより破産した百姓をいう。年貢諸役の過重取立て,商品経済の農村への浸透などによって農村が疲弊し,災害・凶作・飢饉などを契機にして潰百姓が激増した。…

※「未進」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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