未熟児貧血(未熟児早期貧血、未熟児後期貧血)(読み)みじゅくじひんけつ(みじゅくじそうきひんけつ、みじゅくじこうきひんけつ)

六訂版 家庭医学大全科 の解説

未熟児貧血(未熟児早期貧血、未熟児後期貧血)
みじゅくじひんけつ(みじゅくじそうきひんけつ、みじゅくじこうきひんけつ)
Anemia of Prematurity (Anemia with Erythropoietin-deficiency, Anemia with iron-deficiency)
(子どもの病気)

どんな病気か

 胎児は母親の子宮のなかでは、胎盤(たいばん)を通して母親から酸素供給を受けています。肺呼吸と違い、少ない酸素をしっかり受け取り、体内に運ばなければならないので、胎児の血液は大変濃く、ヘモグロビン血色素(けっしきそ))も酸素と固く結びつく性質をもっています。

 ところが、出生後、私たちと同じ肺呼吸を始めると、酸素の供給が十分になるため、赤血球産生をコントロールするエリスロポエチンというホルモンの量が減り、急に赤血球が作られなくなります。約1カ月間、このような状況が続きます。

 その間にも赤ちゃんの体は大きくなり、血液の全体量は増えるため、赤血球濃度は薄まります。これがいわゆる新生児貧血です。普通、貧血がある程度ひどくなると、再びエリスロポエチンが産生され、骨髄(こつずい)で赤血球が作られて自然回復が図られます。

 しかし、未熟児においては生まれた時の体重が少ないわけで、当然、赤血球の量も少ないことになります。その一方で、生後の体重増加の割合は大きく、血液の薄まり方もひどくなり、貧血がひどくなります。これが未熟児の早期貧血といわれるものです。

 また、生後3カ月~1年ほどたってから未熟児にみられる貧血は、未熟児の後期または晩期(ばんき)貧血と呼ばれるもので、後述の鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)です。母体から十分な鉄をもらう前に、早めに産まれたために発症します。

 そのほかに、葉酸(ようさん)ビタミンE欠乏による特別な貧血もまれに存在し(表9)、2~3カ月のころに発症します。

症状の現れ方

 表8に示した症状が現れます。新生児の場合、哺乳力低下が前面に現われます。

検査と診断

 末梢血液の検査と血清鉄(けっせいてつ)のチェックが重要です。早期貧血では正球性正色素性(せいきゅうせいせいしきそせい)貧血で、血清鉄値は低くはありません。一方、後期貧血は小球性低色素性(しょうきゅうせいていしきそせい)貧血で、血清鉄値は低下します。

治療の方法

 未熟児早期貧血には輸血しか方法がなかったのですが、近年、エリスロポエチンの使用が可能となりました。そのほかの後期にみられる貧血には鉄剤を与えます。葉酸欠乏による巨赤芽球貧血(きょせきがきゅうひんけつ)、ビタミンEの不足による溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)には、それぞれ不足物質の補充を行います。

細谷 亮太


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 の解説

未熟児貧血(赤血球系疾患)

定義
 従来は出生体重2500 g未満の児を在胎週数にかかわらず,未熟児とよんできたが,現在は低出生体重児と定義されている.未熟児貧血は,成熟新生児にみられる生理的貧血が,出生時体重が小さいために高度に出現したものである.未熟児貧血には,生後4~8週頃にみられる早期未熟児貧血と生後3~4カ月頃にみられる晩期未熟児貧血がある.
疫学
 多くの未熟児にみられるが,特に1500 g未満の極低出生体重児,1000 g未満の超低出生体重児ではほとんどの例でみられる.
病態生理
 早期未熟児貧血のおもな原因は赤血球造血のおもな調節因子であるエリスロポエチンの分泌機構の未熟性にある.すなわち,エリスロポエチンは胎児では肝でおもに産生されるため,在胎期間の短い新生児ほどその産生は肝臓に依存している.しかし,肝でのエリスロポエチン産生放出機構は腎臓に比べて低酸素刺激に対する反応が鈍い.このため,未熟児では,貧血のレベルに見合うだけの内因性のエリスロポエチンの血中濃度の上昇が期待できない.さらに,これに加えてさらに以下の要因が加わる.①出生時より赤血球総数・ヘモグロビン総量が成熟児より少ない.②成熟児より未熟児の方が,体重増加が著明であり,これに伴い循環血液量が急激に増加するために血液が希釈される.③成熟児の赤血球寿命は60~70日であるが,未熟児は35~50日とさらに短い.④未熟児では採血の影響を成熟児より大きく受けやすい.
 晩期未熟児貧血の原因は鉄欠乏性貧血である.胎児は胎盤を通して母体より鉄を供給されるが,それは妊娠後期3カ月間が最も盛んである.このため,未熟児では成熟児に比べ鉄の備蓄量が少ない.成熟新生児は外来鉄の供給を受けなくても体重が出生時の2倍になれるだけの鉄を保有しているため,生後6カ月頃から鉄欠乏性貧血が起こりやすい.これに対して,未熟児では保有鉄量が少なく,生後3~4カ月に鉄欠乏性貧血が起こる.
臨床症状
 早期貧血では,頻脈・無呼吸・体重増加不良・哺乳力不良・不活発・蒼白などを呈する.
検査成績・診断
 早期貧血では,正球性正色素性貧血を呈する.後期貧血では,小球性低色素性貧血で血清鉄低下,血清フェリチン低下などの鉄欠乏性貧血の検査所見を呈する.
治療
 貧血の程度が高度であれば,輸血は避けられない.呼吸障害のない未熟児の場合,貧血によると思われる臨床症状がなければヘモグロビン濃度が8 g/dL未満で輸血の適応となるが,臨床症状があれば8 g/dL
以上でも輸血の適応となることがある.
 わが国では1991年から多施設共同研究が行われ,現在では,エリスロポエチンを200 IU/kg/回,週2回皮下注で早期貧血の予防治療が行われている.鉄が不足するとエリスロポエチンの効果が期待できないため,鉄剤の経口投与を併用する.[伊藤悦朗]
■文献
Brugnara C, Platt OS: The neonatal erythrocyte and its disorders. In: Nathan and Oski’s Hematology of Infancy and Childhood, 7th ed (Orkin SH, Nathan DG et al eds), pp 21-66, WB Saunders, Philadelphia, 2009.
長尾 大:未熟児貧血.血液症候群I(日本臨牀別冊):405-407, 1998.
中山英樹:未熟児貧血.小児疾患診療のための病態生理(小児内科増刊号),41
:199-202, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

家庭医学館 の解説

みじゅくじひんけつ【未熟児貧血 Anemia of Prematurity】

[どんな病気か]
 生まれたときの体重が2000g以下の低出生体重児は、大部分が生後数週間たつと貧血になります。
 これは、旺盛(おうせい)なからだの成長に、造血機能が追いつかないことが原因のこともありますし、造血機能がまだ未熟なことが原因のこともあります。
 特別な症状はありません。体重の増加不良などで気づくことがあります。
 このような貧血は心配ありません。生後10~12週になって貧血がある程度ひどくなると、造血機能が追いついてきて、貧血は自然に治ります。
 しかし、未熟児は、生後3か月以降になって鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ)がおこってくることが多く(未熟児後期貧血(みじゅくじこうきひんけつ))、鉄剤の使用が必要となります。
 また、下痢(げり)のために巨赤芽球性貧血(きょせきがきゅうせいひんけつ)がおこることもあり、このときには、下痢の治療とともに、葉酸(ようさん)の使用が必要です。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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