木造建築(読み)もくぞうけんちく

改訂新版 世界大百科事典 「木造建築」の意味・わかりやすい解説

木造建築 (もくぞうけんちく)

建築の主要構造部分である骨組みや壁体に木材を使用したものをいう。ふつうは屋根を支える小屋組材,床版を支える床組材,これらを支える柱や壁の軸組材がすべて木材からなっている建築をいい,壁などが石造や煉瓦造の場合は,たとえ床や小屋組みが木でできていても木造とはいわない。日本をはじめ,東アジア南部,東南アジア,ヨーロッパの北東部や山間部,それに北アメリカなどで,いまだに純粋な木造建築がひろく建てられ,その種類もきわめて多い。

骨組みや壁のつくり方によって,木造建築には架構式,軸組式,そして組積式の三つの構造方式がある。

(1)架構式 柱や束(つか)を鉛直に建て,それに梁や桁のように細長い材を水平に組み合わせることで強固な骨組みをつくる方式で,柱・梁構造ともいう。通し柱を2層以上立ち上げる場合もあり,間仕切壁の少ない開放的な建物が得られるが,それだけに太くて長い材木を多く必要とする。建物の支持地盤を掘って柱を立てる掘立方式と,石やコンクリートの基礎の上に直接柱を載せる石場建て方式とがある。

(2)軸組式 基礎の上に土台をおき,その上に柱を立て,その柱を桁や梁,胴差(どうざし)でつなぎ,さらにこれらの骨組みの間に間柱や貫(ぬき),筋違(すじかい)を加えた壁を配することで建物全体の強度を得る方式で,日本や欧米の木造建築の大部分はこの構造方式である。柱を先に立てる構法のほかに,あらかじめ壁面全体の枠組を地表で組み立てておき,それを鉛直に立ち上げて建物をつくる枠組壁工法にも,間柱をしげく入れたこの軸組式の手法がよく用いられる。主要な軸組材の間を塗壁や煉瓦壁で充てんする方法と,骨組みの上に仕上材をかぶせる方法とがあり,その結果柱や梁が露出した場合を真壁造,露出しない場合を大壁造という。

(3)組積式 丸や四角の断面をした太い木材を水平に組み合わせて壁をつくる方式で,井楼(せいろう)造ともいう。三角形の断面をした校木(あぜき)を積んだ日本の校倉造もこの一種である。木材の加工がたやすく,堅牢で断熱性の高い建物が得られるが,木材の消費量が多く,校木の長さで建物の形や規模が制約されてしまう欠点がある。

柱や梁,枠材や板類には直材で狂いの少ない針葉樹が多く用いられ,日本ではとくにヒノキ,スギ,マツが主で,ツガ,モミ,サワラなどがこれに加わる。広葉樹にはカシやクリのように堅くて耐久性にすぐれている樹種が多いが,構造用材としては狂いやすく,また長い直材が得にくい。だが,その美しい木目を生かして,ケヤキ,サクラ,タモ,ナラなどが装飾的な仕上材料として愛用され,またラワン材のように合板に加工される樹種も多い。

人類が地上に住居を営むようになってから,木材は住居の建設に欠くことのできない材料となった。もっとも原始的な木造建築は,細い垂木(たるき)を円錐状に立てかけて屋根の骨組みとした狩猟採集民の住居であろう。地表の住居や竪穴住居を含めてその次の段階は,掘立柱を数本立てて屋根を支えた定着型の架構である。新石器時代の石斧から青銅器,鉄器と木材を加工する道具が進歩するにつれ,より太い木を切り倒し,部材の長さを調整し,仕口を加工するようになった。枘(ほぞ)と枘穴を用いて柱の上に棟木や桁が載せられ,それを梁でつなぐようになる。柱の根もとが腐りやすい掘立柱は,やがて石場立てや土台の上に立つ柱に替わった。土台や敷居を下にし,その上の柱を頭つなぎで固めるようになると,それまで屋根だけであった建物から壁が独立するようになる。この壁の骨組みの間には,細い枝や草を編み込んだり,その上から土を塗った壁をはさんだり,丸太や板をはめ込んで仕上げとした。

 やがて木材が乏しくなった地域では,壁全体が土壁や煉瓦壁,石壁に置き換えられていったが,細くて強い広葉樹材が得られた中世のヨーロッパなどでは,柱と桁に間柱や土台を加えた軸組式が,太いが柱や梁にするには弱い針葉樹が豊かな山岳地帯や北辺の森林地帯では組積式が,それぞれ独自な木造建築として分離していった。一方,古代から東アジアや東南アジア,そしてヨーロッパの一部にあった高床の住居や倉庫の技術は,その他の地域の掘立式の柱と梁だけの開放的な建築の伝統とあいまって,壁の少ない架構式の木造建築へと発展していく。高床の方式では,屋根を支えるための骨組みのほかに,床を支える部材が重要な役割を占め,胴差や床梁の使用で,平屋だけでなく多層の木造建築がつくられるようになった。

 日本では中世初期に中国から柱の中途を水平に補強する通貫(とおしぬき)の技法が伝えられ,これに塗壁の技術が加わることで,柱・梁の架構式でありながら地震や台風に耐える独特な木造技術が発達することになる。柱を多く用いる木造建築の小屋組みは,はじめは棟持柱の上に棟木が載る切妻型の建物が多かったが,壁の骨組みが発達するにつれ,内部空間の中央に柱がこない合掌の小屋組みが使いやすさの点で好まれるようになった。長方形の平面を軸組式または組積式の壁でかこみ,その上に太い垂木を斜めに交叉して架けるこの構造は,日本では扠首(さす)組みといわれ,近世以降の農家の寄棟屋根の基本的構造であった。同じ時期にヨーロッパで発達した合掌組みの技法は,トラスとして近代日本に輸入され,金物で節点を固める技術とともに日本建築の洋風化を推進した。しかし日本では書院造以来,柱の上に小屋梁を載せ,その上に数本の束を立てて母屋を支える小屋束組みの技法が町家を中心に発達していて,扠首組みに比べて平面の形や間取りが自由であり,増改築が簡単にできる利点があった。従来の急こう配の草葺屋根に比べ,この小屋束組みはこう配がゆるくでき,板葺を石で押えたり,本瓦を改良した桟瓦を使うことで,山村や都会でもいろいろな屋根仕上げが可能であったので,近世以降日本を代表する和小屋として定着した。

 最近では国産材の不足とともに輸入材の活用が問題とされ,間柱を多用した軸組式の枠組壁工法としてツーバイフォー工法が欧米から導入されたが,日本の木造建築の現状は,伝統的な架構式に軸組式の耐震・耐風性を加えた柱・梁中心の構造方式と緩こう配の屋根とが依然として主流を占めている。

木造建築の特徴は,木材の強さとすぐれた耐久性,木目の美しさ,質感の豊かさや温かさが生かせるうえに,多様な部材の組合せと仕上げの方法が可能なことにある。加工は容易で建てやすく,増築や模様替え,改築もしやすい。森林資源を有効に使えば,安い木材が繰り返して得られ,古材の再使用もできる。このように人間の生活環境を整えるに最適な有機的材料でありながら,木材は燃えやすく,湿気や細菌,害虫などによって腐りやすく,また環境によっては材の伸縮がはなはだしいがために,これらの欠点を補うだけの材質的な処理,構造上のくふう,施工や管理上の配慮が必要である。

 鉄やコンクリートに比べ木材の許容引張力と圧縮力は,単位重量あたりにすればかえって強い。そのため,建築の材料としては木造はもっとも軽くてじょうぶで,しかも経済的な構造と考えられる。しかし,木造建築の大部分は,架構式や軸組式のように,直線的な部材を直交して組み合わせた四角形の骨組みにならざるを得ない。そのため,風や地震のように強い横力を受けると,そのままでは不安定で転倒しやすい。そこで筋違や方杖のような斜材を入れて,骨組み全体を安定させるか,壁全体を版として補強するかしたうえ,土台と基礎とをアンカーボルトで緊結して建物の浮き上りを防ぐ必要がある。ただし木造の骨組みの節点は完全に剛とすることができない。木材を互いに欠き込んだり,枘と枘穴を組み合わせたり,木栓を用いた継手や仕口は変形しやすいが,急に横力が加わったときかえってこれらの柔らかい接合部がエネルギーを吸収することになり,復元力も強いという利点がある。

 建物に使用された木材を長持ちさせるためには,まず構造上のくふうとして雨仕舞をよくし,外部からの水分が浸透して木部が直接腐食するのを防ぐとともに,床下や壁下地などの換気をよくして,部材を適正な乾燥状態に保ち,カビなどによる腐朽や,シロアリなどの食害を避けねばならない。それでも不十分な個所には,防腐材を木材の表面に塗布したり,内部に加圧注入する。とくに木造では,基礎と土台との間や,結露しやすい壁の内側,乾燥と湿潤の状態を繰り返す軒先や窓台,敷居まわりの部材には,あらかじめ腐りにくいヒバやヒノキ,クリなどの木材を使用することが望ましい。また仕上げに使用する木材には,水分を吸収したり放出したりすることで,居住空間の湿度条件を調整する役割がある。そのために通気性のない塗料や部厚い防火材料で部材の表面をおおわないほうがよく,木材の寿命も長い。

 こうした構造的配慮のもとに,材質とその部材寸法を適当に選びさえすれば,木材は鉄やコンクリートも及ばない耐久性を示し,継手や仕口を腐食しやすい釘や金物で不用意に補強すると,かえって骨組み全体の寿命を縮め,木造部材の再利用を妨げる結果となる。ただし,耐火性能に関しては,木造は石造やコンクリート造に比べはるかに劣るので,火災を起こしやすい個所や延焼のおそれのある部分では,他の防火材料との併用が望ましく,木材のみの場合でも燃焼がそれ以上持続しないように構造部材の断面を極度に大きくしたり,木材を処理して防火性能をあげたり,防火塗料を利用する必要がある。近年では,これらの木材の欠点を修正し,単一材では及ばない大規模な空間の構造材として,木材の細片を接着材で固めた長大で太い部材を作り,防火や防湿の性能も付与した集成木材の開発が進められている。
建築構造
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「木造建築」の意味・わかりやすい解説

木造建築
もくぞうけんちく
wooden building

主要構造部に木材を使った建物。木材は手近で得やすく,加工が容易なため,木造建築は住居の歴史とともに古い。北ヨーロッパ,中国,朝鮮,東南アジア,日本など材木の豊かな地域で発達した。日本では,飛鳥・奈良時代に大陸から仏教建築が伝来して以来,独自の建築様式を確立,今日にいたる長い技術の伝統をもっている。木材は造形,加工の自由さと工期の短さから,住宅用には広く用いられるが,耐火,耐久性に欠点があり,近代においては大規模建築に適さないとされてきた。しかし集成材の開発などによって新しい架構の可能性が開け,また木造建築のもつ暖かさ,親しみやすさが再評価されて,大規模な公共的な建築にも盛んに木造が用いられるようになりつつある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「木造建築」の意味・わかりやすい解説

木造建築
もくぞうけんちく

木構造

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世界大百科事典(旧版)内の木造建築の言及

【近代建築】より

…第1に,西欧様式の移植が前近代の日本的伝統に対するなんらの顧慮も評価も伴わずに達成されたこと,すなわち伝統を完全に無視した地点に新しい文明が接木されたこと,そして第2に,近代建築の成立期には日本もまた過去からの〈分離〉をうたうのであるが,その過去というのは,明治時代の移植が創造を伴わない安易な模倣の姿勢に終始したことを指すのであって,ここでも日本的伝統に対してどのように対処するかという視点は欠落したままであったこと。こうしたことの結果として,日本の木造建築の伝統は建築家の意識の外で生き残る一方,近代建築の成立・発展の途上で様式上の行きづまりが自覚されると,日本的個性をよみがえらせるものとして,つねに伝統が想起されるという現象が生じた。1890年代には早くも木造建築の技法によって造られた公共建築が出現する。…

【社寺建築構造】より

…しかし日本で始められたものもあり,また細部の取扱い,曲線の性質,意匠の洗練さなどの面で,日本独自の様式をつくっている。日本古来の木造建築のうちでも,社寺建築はながく建築界の主流を占め,その構造もまた和風木構造のなかで最も高度な技術をもつものへと発達した。
【一般的特徴】
 社寺建築は,煉瓦造,石造のように多くの部材を積み重ねて骨組みをつくるのではなく,垂直に立つ柱と,これを水平につなぐ材がそのおもな骨組みとなる。…

【朝鮮美術】より

…これは土間床のみの中国と板敷床の発達した日本の民家の性格を兼ね備えたものともいえよう。 朝鮮の木造建築に最も多く使用されている木材はアカマツで,日本のヒノキやスギのような良材は得られない。アカマツには大材が少なく,樹脂を多く含み,屈曲材が多いために加工精度が悪いなどの欠点がある。…

※「木造建築」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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