木材市場(読み)もくざいしじょう(英語表記)timber market 英語

日本大百科全書(ニッポニカ) 「木材市場」の意味・わかりやすい解説

木材市場
もくざいしじょう
timber market 英語
Holzmarkt ドイツ語

木材の集荷・出荷機能を前提に、木材取引が経常的に行われる場をいう。取引形態から木材市場は、木材問屋を中心に相対取引で木材売買を行う市場と、市売市買(いちうりいちかい)(セリ方式)と称される売買方式で木材売買を行う木材市売市場とに分かれる。後者の木材市売市場は、原木を専門に取り扱う原木市売市場と、製材品を専門に取り扱う製品市売市場とに区分される。

 木材市売市場の歴史は新しく、第二次世界大戦後の国産材価格の上昇期に木材市場の近代化(正量取引、価格公開)を推進する流通事業体として開設された市場である。これに対して、相対取引の木材市場を取り仕切る木材問屋は発祥の歴史が古く、中世の材木座などにさかのぼる。平安時代の末期、中国から宗銭が輸入され貨幣経済が発達するが、それとともに商品の独占売買を特権的に扱う職業集団の「座」が結成される。木材の「座」はその一つである。鎌倉、室町時代はこの「座」が継承され、朝廷や社寺を本所にした木材商人によって材木座が結成される。現代に名称を残す「鎌倉の材木座」は鎌倉時代に結成された座であり、「京都堀川の材木座」は室町時代に結成された座である。これらの材木座のうち、江戸時代に水運の便の良い消費地に発足するのが材木問屋である。江戸時代の材木問屋は、最初は仲買(仲継取引問屋)や小売をも兼ねる総合商社みたいなものであったが、江戸中期に仲買が分かれ、現代にみられる卸・小売問屋に発展していった。

 木材市場に関する統計資料は、これまで農林水産省『木材流通構造調査報告書』に掲載されてきたが、この統計書から2001年(平成13)に事業所数の内訳卸売、小売)が、2006年に販売業者別の事業所数が削除された。それ以降、『木材流通構造調査報告書』には、国産材、外材別の製材品販売量だけが掲載される状態となっている。参考までに2001年時点の木材市場の状況を示すと、卸売、小売などの事業所数は1万0578事業所となっている。木材市売市場は、原木市売市場が425市場、原木取扱量が891万立方メートル(国産材原木流通に占めるシェア53%)、製品市売市場は274市場、製品取扱量が509万立方メートル(製品流通シェア19%)となっている。

 なお、農林水産省『農林水産統計』(2011年版)には、2011年時点の素材(丸太)、製材品の出荷先別の出荷割合などが掲載されている。それによると、素材の総出荷量は3033万立方メートル、そのうち木材市売市場には27%が出荷され、木材販売業者には31%が出荷されている。国産材については、丸太の総出荷量が2001万立方メートル、そのうちの39%が原木市売市場に出荷され、木材販売業者には20%が出荷されている。製材品(国産材製品、外材製品)については、総出荷量が943万立方メートル、そのうち木材市売市場への出荷が22%、木材販売業者等への出荷が35%となっている。このうち国産材製品は全体の出荷量が645万立方メートル、内訳では木材市売市場への出荷が29%、木材販売業者等への出荷が27%となっている。

 全体の傾向としては、木材市売市場は木材販売業者(等)に比して国産材の取扱比率が高く、国産材流通の主要施設となっている。この点を踏まえ、木材市売市場の機能、問題点等を提示しておこう。木材市売市場のうち原木市売市場は産地市場として機能し、製品市売市場は消費地市場として機能している。木材市売市場はセリ方式で価格を決める方式がとられているため、出荷者や買方が求める価格公開の機能を有している。木材市売市場は、現物熟覧のもとで取引が行われるため、材積の過小評価などを防ぐ正量取引の機能をもっている。問題点としては、木材市売市場は月を単位に市日(いちび)を固定して木材の売買を開催する方式をとっているため、緊急性のある取引がむずかしいなどの難点も抱えている。

[山岸清隆]

『岡村明達編著『木材産業と流通再編』(1977・日本林業調査会)』『村島由直著『木材産業の経済学』(1982・日本林業調査会)』


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改訂新版 世界大百科事典 「木材市場」の意味・わかりやすい解説

木材市場 (もくざいしじょう)

木材が集合的に売買取引される市場。その歴史は古く,中世に栄えた材木座はその一つである。応永年間(1394-1428)に京都,滋賀,四国,中国地方から集荷された材を扱う業者が京都に36軒あり,文明年間(1469-87)には京都堀川に材木座が結成され,木材流通を担った例がある。江戸市場では17世紀の末には材木問屋が生まれている。江戸深川の木場,大坂の立売堀(いたちぼり)は江戸時代の木材市場として有名である。さらに仲買(小売業者のことを木材業界ではこう呼ぶ)も発達し,問屋,仲買が並立して木材の集荷,販売を担っていた。問屋と仲買はその後も長く江戸(東京)市場での流通の担い手であったが,第2次大戦後は木材市売市場が広がった(大阪市場では戦前から市売市場が開設されていた)。それは1950年木材統制の解除後に始まり,53年には都内供給の約60%を上回ったとされる。その後,付売問屋(せり売りでなく相対(あいたい)売買で仲買に売る)の台頭,木材センターの開設が進み,現在に至っている。

木材は素材(丸太)と製材・合板に大別される。素材の流通経路は国産材と外材とではかなり異なる。外材は商社が輸入し,系列下の卸売業者を通じて,または直接に製材工場や合板工場に売るものがほとんどで,国産材の生産が小規模かつ分散的であるため,その流通経路が複雑多岐であるのと対照的である。製材の流通経路は素材のそれほどには国産材と外材との差異が大きくなく,主たる違いは,国産材では小売業者への直接販売よりも市売市場への販売が多いのに対し,外材ではその逆になっていることである。これは国産材が外材に比べて品質・規格が複雑で,市売市場による選別機能が有効に働くためである。また合板の流通経路は製材とはまったく異なり,商社を経由する割合が高い。
木材業
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「木材市場」の意味・わかりやすい解説

木材市場
もくざいしじょう
timber market

木材が集中的に売買取引される場所。生産地市場,集散地市場,消費地市場があるが,東京,大阪,名古屋の3市場は代表的なもの。東京の木場は有名。木材は立ち木所有者から,素材生産者,加工業者,問屋,仲買,小売商の経路で流通し,伝統的なつけ売りが行われていたが,第2次世界大戦後は市日を決めて,せり売りを行う市売りが支配的となり,現在全国に約 550の消費地市場 (市売市場) があり,原木のみを扱う市場が半分を占め,原木製品を扱うものが約 30%,残りが製材その他を扱う市場である。消費地市場は卸売市場と小売市場とに分れ,卸売市場は問屋,小売市場は仲買で構成し,木材取引には清算,先物はなく,現物取引だけが行われる。登録している小売業者は市場で,欲しいだけ,公正な値段で買うことができる。 1960年代から,新興住宅など,木材需要も多く旧来の流通機構のない地域に材木問屋の販売業務を代行して行う木材センターが設置され,全国に約 60社あり,製材品の 35%程度が扱われている。

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