木挽(読み)こびき

精選版 日本国語大辞典 「木挽」の意味・読み・例文・類語

こ‐びき【木挽】

[1] 〘名〙
樹木を伐採すること。また、材木を大鋸(おが)で挽き割って、角材、板などに製材すること。また、その人。きこり。おがひき。おおがひき。
山家集(12C後)中「嶺渡(ねわた)しにしるしのさをや立てつらんこびき待ちつる越(こし)の名香(なか)山」
② 木で作ったもの。木製
読本椿説弓張月(1807‐11)残「湯もよきほどに沸かへるを、木挽(コビキ)の碗に、汲みならべてさし出せば」
[2] 「こびきちょう(木挽町)(一)」の略。
浮世草子男色大鑑(1687)六「木挽(コビキ)草滋林の患」

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改訂新版 世界大百科事典 「木挽」の意味・わかりやすい解説

木挽 (こびき)

古く杣(そま)(杣人(そまびと)/(そまうど))と呼ばれた人たちは,その後技術的に分化して,その伐材にあたるものを先山(さきやま)といい,造材にかかわるものを木挽というようになる。その分化は江戸時代初期から顕著になったといわれている。先山が組織的な活動が多いのにくらべ,木挽はほとんど単独で就労した。彼らは先山の伐採した材木を玉(たま)に切り,さらに板,垂木(たるき)の角材に仕上げることを仕事とした。のこぎりの改良にともなって盛んとなったのであるが,製材所の機械のこぎりの普及とともに衰微した。それでも大割(おおわり)といって,大木を山から搬出できるようにひき割るのが,なお,木挽仕事として残っている。のこぎりは目立(めたて)がもっとも肝心で,その巧拙切れ味が定まるので,それにいちばん努力を集中した。仕事場リンバなどと呼ばれるが,木をひくための台をリンといったからである。マエビキという大鋸(おが)で,リンに載せた材木を縦にひき割るのであるが“木挽の一升飯”というくらい,精力を消耗する重労働とされている。彼らが一人前となる条件は,彼らの間に〈山小屋3年,白木屋(しろきや)3年〉のことわざがあるように,山のリンバで3年間,里の白木屋で3年間というような長期の修業が必要とされていた。白木とは,スギ,ヒノキなどの黒皮をむいた建築用材のことで,白木屋とはそれを扱う材木屋の別称である。集材地には地元出身の専業者も多かったが,サイギョウ(西行)という渡(わたり)職人が各地の親方をたよりにして,転々と一種の旅職として全国を放浪した。このほか,山村農民農閑期の副業としてこれに就労するものもいて,ノキバコビキ(軒場木挽)と呼んだりした。労働歌としての木挽唄が各地に残っていて,民謡の一分類にもなっている。歌詞に全国共通のものが多く見られるが,そのことから彼らの行動圏が意外と広かったこと,作業形態がほとんど同様であったことを知るのである。
木樵(きこり) →木割
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「木挽」の意味・わかりやすい解説

木挽
こびき

大鋸(おが)で原木を挽(ひ)き割り、造材にあたる職人。大鋸挽(ひき)ともいう。木材生産における杣(そま)(伐採)、日用(ひよう)(運材)、木挽(造材)という3職の分化はかなり古くからで、木挽は山林から伐採搬出された原木の造材作業にもっぱらあたってきた。都市の木材商の配下に働く木挽職人もかなりあって、その統制にあたる棟梁(とうりょう)のたぐいもあったが、嵩高(かさだか)の原材運搬に利便の乏しかった旧時は、むしろ伐木原地の山村で造材にあたる木挽が多かった。農家の建築用材調製などの依頼を受けながら転々と滞留の場を変えつつ仕事にあたる「渡り職人」の木挽もあり、また用材特産地には、山中の小屋住まいで木挽に専念する者も多かった。これらの木挽たちは、伐採職人のように特異な仲間組織は一般につくらず、個別仕事が通例であったらしい。「木挽唄(うた)」にはそうした山中孤独の作業生活の素朴な感懐を表現するものが多く、その囃子(はやし)文句にも大鋸の音調によるものがみられる。製材には柱材、桁(けた)材の造出もあったが、板材の「挽出し」がむしろ多く、その用具にも二人挽きの大鋸以下多種多様の鋸(のこぎり)型があって、民具としても注目すべき特徴をもっていた。しかし「動力鋸」による機械製材の導入で、伝統の木挽作業はまったく廃絶した。

[竹内利美]


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山川 日本史小辞典 改訂新版 「木挽」の解説

木挽
こびき

伐採した材木を角材や板に製材する職人。杣(そま)が,江戸初期には伐材を行う先山(さきやま)と製材を行う木挽に分化した。斧(おの)で割って板にする方法からマエッピキとよぶ大鋸(おが)(たて挽)の普及で,作業能率があがった。近代に機械鋸による製材が行われるようになって衰微した。木挽歌は,木挽の作業に歌われた労作歌。

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世界大百科事典(旧版)内の木挽の言及

【大鋸】より

…大鋸の出現は製板および木材加工技術に一大革新をもたらしたが,大型であるため鋸身の製法が難しく,一般に入手困難であったらしい。15世紀ころには,大鋸引,小引(木挽)という材木加工の工匠が現れてくる。16世紀後半になって,刃渡りの短い一人びきの前びき大鋸(別名,木挽鋸)が現れ,明治半ばに製材機械が普及するまで,主要製板用の鋸となった。…

【職業神】より

…それが日本の木地業のはじめだといい,こうした由緒をもって惟喬親王を木地屋の職祖神,轆轤の神としてあがめるようになり,小椋谷は木地屋の本拠として親王をまつる神社や宮寺が建立され,崇敬の中心とされた。猟師,炭焼き,木樵(きこり),木挽(こびき)など山稼ぎ職の信ずる山の神は,農民のいう山と里を去来する山の神と信仰を異にし,山の神は一年中山に鎮まると考え,特殊な形をした木を山の神の木としてとくに神聖視する風がある。 木樵や木挽は山の神をオオイゴと呼んだところから,それに大子,太子の字をあててダイシ,タイシと読まれ,弘法大師や元三(がんざん)大師,智者大師などに付会した話に語り伝えられ,太子様すなわち聖徳太子とも混同して信仰するようになった。…

※「木挽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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