木幡(読み)こはた

精選版 日本国語大辞典 「木幡」の意味・読み・例文・類語

こはた【木幡】

京都府宇治市北部にある地名。古くは京都市伏見区深草のあたりまでを含み、奈良街道道筋にあたった。製茶問屋が多い。木旗。強田。
古事記(712)中・歌謡「階(しな)だゆふ 楽浪道を すくすくと 我がいませばや 許波多(コハタ)の 道に 逢はしし嬢子

こわた こはた【木幡】

謡曲。木幡左衛門は嫉妬酔狂とから妻を殺すが、のちにこれを悔いて出家し、妻の菩提(ぼだい)を弔う。廃曲

こわた こはた【木幡】

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デジタル大辞泉 「木幡」の意味・読み・例文・類語

こはた【木幡】

京都府宇治木幡こはた町を中心として山科あたりまでを含んだ地域古称。[歌枕
「山科の―の山を馬はあれど徒歩かちより我が来しを思ひかねて」〈・二四二五〉

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百科事典マイペディア 「木幡」の意味・わかりやすい解説

木幡【こはた】

京都府宇治市北部の地名。〈こわた〉ともいう。近世以来の有数の宇治茶産地。古代の木幡は山城国宇治郡から紀伊郡にかけての広域をさす地名であったが,平安時代後期には宇治郡内だけをさすようになり,近世には同郡木幡村が成立して範域が固定した。《古事記》に応神天皇が〈木幡村〉で〈丸邇之比布礼能意富美(わにのひふれのおほみ)〉の娘〈宮主矢河枝比売(みやぬしやかはえひめ)〉に会い,后としたという話がみえる。《万葉集》には〈木旗〉〈強田〉の表記で登場し,詠歌の内容などから,当地が宇治川渡河点から近江逢坂(おうさか)山へ至る当時の北陸道の要衝で,駅馬の施設があったことが推定されている。《山城国風土記》逸文には〈木幡の社〉がみえ,式内社〈許波多(こはた)神社〉とされる。当地には5〜6世紀の古墳が点在するが,その一帯をのち関白藤原基経(もとつね)が一門の墓所と定め,以降摂政・関白や入内(じゅだい)した藤原氏子女が葬られ,1005年には藤原道長が菩提(ぼだい)所として木幡三昧堂(浄妙寺)を建立している。のち藤原師実(もろざね)の別業(なりどころ)京極殿藤原基房(もとふさ)の別業松殿も造営されており,近隣の五ヶ庄(ごかのしょう)一帯(摂関家領冨家殿)とともに藤原氏に縁の深い地であった。〈木幡里〉や浄妙寺があったという〈御倉(みくら)山〉は歌枕。藤原氏の墓域一帯は近代に陵墓地とされ,宇治陵の名称で宮内庁の管理下にある。

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改訂新版 世界大百科事典 「木幡」の意味・わかりやすい解説

木幡 (こはた)

京都府宇治市の北部にある地名。〈こわた〉とも。《古事記》《万葉集》にも登場し,《万葉集》では〈木旗〉〈強田〉などと書かれている。逢坂山へ通ずる要路であり,古くは宇治郡と紀伊郡とに広がる領域を指した。現在の地域に定まったのは,平安時代後半と考えられている。山ぞいに5~6世紀の古墳が散在し,式内社の許波多(こはた)神社が座している。関白藤原基経が北家の墓所と定め,さらに1005年(寛弘2)には道長が浄妙寺を創建し,藤原氏の菩提寺となった。また同氏の別荘も営まれ,師実の京極殿,基房の松殿がある。中世のこの地の争乱で,戦火に見舞われ,浄妙寺も室町前期に衰退した。江戸期には,天領,旗本領,公家阿野家領,同橋本家領が混在していた。また茶畑の生産面積も多く,宇治茶の産地として有名である。藤原氏の墓所は宇治陵として,その面影を残している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「木幡」の意味・わかりやすい解説

木幡
こはた

京都府南部、宇治市の一地区。木旗、強田とも書く。宇治川の右岸に位置する。『古事記』や『万葉集』にもみえる古い地名で、背後に洪積層の黄檗(おうばく)丘陵が横たわり、これが茶園に利用され、茶業を営む者が多かった。現在は住宅化が急速に進んでいる。JR奈良線、京阪電鉄宇治線が通じる。

[織田武雄]

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世界大百科事典(旧版)内の木幡の言及

【木幡】より

…京都府宇治市の北部にある地名。〈こわた〉とも。《古事記》《万葉集》にも登場し,《万葉集》では〈木旗〉〈強田〉などと書かれている。逢坂山へ通ずる要路であり,古くは宇治郡と紀伊郡とに広がる領域を指した。現在の地域に定まったのは,平安時代後半と考えられている。山ぞいに5~6世紀の古墳が散在し,式内社の許波多(こはた)神社が座している。関白藤原基経が北家の墓所と定め,さらに1005年(寛弘2)には道長が浄妙寺を創建し,藤原氏の菩提寺となった。…

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