有鬚動物(読み)ゆうしゅどうぶつ

精選版 日本国語大辞典 「有鬚動物」の意味・読み・例文・類語

ゆうしゅ‐どうぶつ イウシュ‥【有鬚動物】

〘名〙 動物分類上の一門。無脊椎動物の一つで、キチン質の細長い管中にすみ、からだは前体部、中体部、後体部、終体部の四部分に分かれる。すべて海産。頭葉には一~二〇〇本以上の触手がある。消化管は発生初期には存在するが、後に口、肛門ともに消失し、栄養は体内の共生細菌に関与している。雌雄異体環形動物に極めて近縁である。ヒゲムシ類とハオリムシ類がおり、後者には海底の熱水噴出孔周辺に生息するチューブワームなどがいる。

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デジタル大辞泉 「有鬚動物」の意味・読み・例文・類語

ゆうしゅ‐どうぶつ〔イウシユ‐〕【有×鬚動物】

動物界の一門。深海の泥中にすみ、ふつう、分泌したキチン質の管の中におり、体長約20センチ。体は前体・中体・後体・終体の4部分に分けられ、頭部の下面に触手が並ぶ。自由生活をするが、口や消化管はない。ひげむし。くだひげ動物。
[類語]無脊椎動物原生動物原虫中生動物海綿動物腔腸動物刺胞動物有櫛ゆうしつ動物扁形動物紐形動物曲形動物袋形動物軟体動物環形動物有爪ゆうそう動物舌形動物節足動物星口動物触手動物毛顎動物半索動物棘皮動物

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「有鬚動物」の意味・わかりやすい解説

有鬚動物
ゆうしゅどうぶつ

動物分類学上、1門Pogonophoraを構成する動物群。分類学上、半索動物、環形動物の貧毛類や多毛類などに近縁な動物といわれているが、まだ系統上の位置が確定されていない。この動物群は世界の海に広く分布し、一般に水深数百メートルから数千メートルの深海に生息する。

 虫体は細長く、体幅0.3ミリメートル、長さ20センチメートル内外のものが普通であって、キチン質の管の中にすんでいる。しかし、1977~1979年にガラパゴス地溝帯の水深2500メートルの深海底から、体長1.5メートル、体幅4センチメートルの巨大種が60個体ほど発見され、これをアメリカの研究者が研究し、1981年にリフチア・パキプチラRiftia pachyptilaとして報告している。この場所は海底火山噴気孔から噴出するガスによって水温が23℃にもなっている特殊な環境によるためと考えられる。

 体は前体・中体・後体・終体に区分され、体内の体腔(たいこう)もそれぞれに隔膜で仕切られている。前体の頭葉は円錐(えんすい)形で、その腹側から1~200本以上の触手が馬蹄(ばてい)形、円形、螺旋(らせん)形などに並んでいる。各触手には多くの小枝が並んでいて、これらが餌(えさ)を消化・吸収し、栄養を血液で体内の各所に運んでいるものと考えられる。なぜならば、この動物には口や胃・腸などが失われ、栄養を得る器官がないからである。寄生生活するもので消化器官が失われているのは普通なことではあるが、自由生活をする動物としてはまったく特異的なことである。中体部は短く、V字形の手綱という器官がある。後体部は非常に長く、乳頭突起や微小な剛毛からなる環帯などがあり、また雌雄いずれかの生殖孔が開いている。終体部は長さ1ミリメートルほどで、20節ほどに分かれ、各節には2、3対の剛毛がある。最末端の節はやや大きく2、3葉に分かれている。

 雌雄異体で、精巣は後体部の中央部に、卵巣は後体部の前部にある。管の中に産み出された卵は、管中に入ってきた精子によって受精され、幼生まで発達するが、卵の長径が管の直径より大きいときには斜めになって並んでいる。雄は精子の入った精莢(せいきょう)を海中に放出する。

 1900年にオランダの探検船がインドネシア海域から採集したのが最初であるが、その後、ソ連の研究船が北太平洋の深海から多くの種類を採集した。現在、世界で150種ほどが知られているが、体が糸状に細長いものが大部分なために、終体部までの完全な形態がわかっているのは現在15種ほどにすぎない。

 日本では相模(さがみ)湾や駿河(するが)湾の500メートル以深の海底からシボグリナム属Siboglinumの個体が多数得られているが、いずれも不完全個体ばかりで種までは同定されていない。この動物は一般に深海性のものであるが、能登(のと)半島九十九(つくも)湾の水深20~25メートルの浅海底から、マシコヒゲムシOligobrachia mashikoiが1973年(昭和48)に報告されている。

[今島 実]

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改訂新版 世界大百科事典 「有鬚動物」の意味・わかりやすい解説

有鬚動物 (ゆうしゅどうぶつ)
Pogonophora

無脊椎動物の1動物門。1944年にベクレミシェフV. N. Beklemishevによって設けられた門であるが,それ以前には環形動物門の多毛綱に含められていたこともあった。一般にはヒゲムシと呼ばれる。ふつう100~数千mの深海底までにすむ体幅0.1~1mmくらいの糸のような細い動物体であるが,最近,能登半島九十九湾の水深20mの海底からも発見されており,またガラパゴス地溝帯(水深2450~2500m)から体長150cm,体幅4cmの巨大な種類ガラパゴスハオリムシRiftia pachyptilaが発見されている。

 体は円筒状で,前体,中体,後体,終体に分かれ,体内の体腔もそれぞれ隔膜で仕切られている。前体の腹側から触手が生じ,1本,2本,6本,10~18本,200本以上のものがあり,そして数の多いものは馬蹄形,円形,らせん形などに並んでいる。おのおのの触手の側方には短い小枝が2列に並んでいる。中体部は短く,腹側にV字形の手綱があって,その一部は背側にものびている。後体部は非常に長く,前方の腹面には縦に深い溝があって,乳頭突起が1列に並び,さらに後方にも,さまざまな形の乳頭突起が並んでいる。また多くの微小な剛毛からなる環帯があり,雌雄いずれかの生殖孔が開いている。終体部は長さ1mmほどで,20節内外に分かれ,各節に2~3対の剛毛がある。最末端の節はやや大きく,2~3葉に分かれている。有鬚動物は現在150種ほど知られているが,終体部までの完全な形態がわかっている種類は15種ほどにすぎない。この動物には消化器官が失われていて,口,腸や肛門は見られない。自由生活性の動物で消化器官をもたない動物は特異的なことである。触手の小枝の腺細胞から消化液を分泌して微小な餌を消化し,その栄養を小枝の表面から吸収しているものと考えられる。しかし,なかには触手に小枝がないものもあり,このような場合では不明である。

 雌雄異体で精巣は後体部の中央部に,卵巣は後体部の前部にあって,生殖輸管が外に開いている。棲管(せいかん)中に産卵し,幼生にまで発達するが,卵の長径は棲管の直径より大きいため,斜めになって並んでいる。

 相模湾駿河湾の500m以深の泥中からは,Siboglinum属の個体がかなり採集される。九十九湾の水深20~25mから新種のマシコヒゲムシOligobrachia mashikoiが1973年に報告された。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「有鬚動物」の意味・わかりやすい解説

有鬚動物
ゆうしゅどうぶつ
Pogonophora; beardworm

有鬚動物門に属する動物の総称で,一般にヒゲムシ類と呼ばれている。体長 10~35cm,体幅 0.5mm内外。体はきわめて細長く,左右相称で,前体,中体,後体の3部に分れ,各部分には体腔がある。前体の腹側から1~200本の触手が出る。発達した閉鎖血管系をもつが,消化管は退化し消失している。雌雄異体。キチン質と蛋白質から構成された細長い円筒形の棲管を分泌して,その中にすんでいる。すべて海産で,多くは深海砂泥底にすむが,水深 20mほどのところからも発見されている。世界に 100種近くが知られている。

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