有人衛星(読み)ゆうじんえいせい

改訂新版 世界大百科事典 「有人衛星」の意味・わかりやすい解説

有人衛星 (ゆうじんえいせい)

有人衛星という名称は無人人工衛星に対するものとしてつけられたものである。初期においては,地上からの打上げ,軌道上での人間の活動,そして地球への帰還という宇宙飛行の全過程において機能する万能型のものがアメリカやソ連(現ロシア)において開発され使用された。これは船室が一つで,乗組員が一つの気密室内で寝起きしているという点からカプセル型宇宙船などと呼ぶことがあり,狭義の有人衛星としてはこの種のものを意味する。

有人衛星は地球から宇宙へ,そして宇宙から地球へ無事に乗組員を輸送する機能をもっていなければならない。地球から宇宙へいくときは打上げロケットに搭載されるので,ロケットの打上げ中の加速度や振動,あるいは音響などから人間を保護し,またそれ自体ロケットの一部として組み込むことができるような形状になっている必要がある。米ソの有人衛星はいずれも人間を入れた気密カプセルをロケットの先端部に取り付けるように設計されたが,これによってロケットが地上で事故を起こした場合には緊急脱出用カプセルとして使用できる利点がある。宇宙から地上への帰還において,カプセルは独立した飛翔(ひしよう)体として非常に重要な役割を果たす。すなわち有人衛星では,人間の入ったカプセルのほか宇宙での活動のための装置を入れた機械船などと称する部分がいっしょに打ち上げられる場合が多いが,後者は通常宇宙に残し,有人カプセルのみが地球に帰ってくる。出発するときにロケットによって毎秒約7.8kmに加速されたカプセルは,地球への帰還のときは大気に突入するときに受ける空気抵抗によって減速される。カプセルの形状はこの帰還時の極超音速飛行において安定した運動をし,大気による適度な減速を与え,かつ大気から入ってくる熱エネルギーから内部の乗組員を保護するのに適した形状をしていなければならない。

 宇宙飛行中の有人衛星は,他の人工衛星と同様に電源や地上との交信や衛星の姿勢を制御する設備,移動のための推進装置などを必要とする。カプセル内は新鮮な適温の空気を保ったり,排出物を処理する生命維持装置によって人間が生存できる環境となっている。とくにこの種の有人衛星カプセルにはアメリカのマーキュリー宇宙船(1人乗り),ジェミニ宇宙船(2人乗り),アポロ司令船(3人乗り)の三つが用いられた。またソ連~ロシアではボストーク宇宙船(1人乗り),ボスホート宇宙船(1人乗り)を経てソユーズ宇宙船(2~3人乗り)とその改良型ソユーズT型を使用中である。

 しかし,宇宙飛行技術の発達によって初期の有人衛星の果たしてきた機能は分化して専門化されつつある。例えば,軌道上での活動は宇宙ステーション,地上とその間の往復はアメリカの場合スペースシャトルが行うというような方法である。ソユーズ宇宙船も宇宙ステーションへの連絡船として使用されており,これもいずれ有翼宇宙飛翔体に取って代わられるであろう。

有人衛星による事故としては,1967年4月,ソ連のウラジミール・コマロフがソユーズ1号で軌道飛行後大気に突入するときに,減速装置が働かず地上に激突して死亡したのが最初である。その後,71年6月にはソ連のソユーズ11号で帰還後3人の乗組員が死亡しているのが発見された。この事故は宇宙船の気密不良で空気が漏れたためであった。宇宙飛行中ではないが,1967年1月アメリカのアポロ1号宇宙船は地上訓練中に船内で火災を起こし,3人の宇宙飛行士が死亡している。
宇宙開発
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百科事典マイペディア 「有人衛星」の意味・わかりやすい解説

有人衛星【ゆうじんえいせい】

人間衛星とも。人間が乗ることのできる人工衛星。地上回収可能。旧ソ連のボストーク1号(1961年)が世界最初。米国ではマーキュリー計画における有人弾道飛行(人間ロケット)と有人衛星打上げ(マーキュリー6号。1962年)が最初。その後,中国は2003年10月に有人宇宙船〈神舟5号〉の打上げに成功した。

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