(読み)きょく

精選版 日本国語大辞典 「曲」の意味・読み・例文・類語

きょく【曲】

〘名〙
① (形動タリ) まがっていること。また、そのさま。⇔
※中華若木詩抄(1520頃)下「曲たる渚、回たる塘なんどを〈略〉藜杖に扶かりて、終日あそぶぞ」
② 正しくないこと。よこしまなこと。⇔
※今昔(1120頃か)二七「実(まこと)の鬼神と云ふ者は道理を知て、不曲(きょくなら)ねばこそ怖しけれ」
※西洋事情(1866‐70)〈福沢諭吉〉二「人間の交際なければ曲を蒙るとも之を訴るに所なく私有を得るとも之を保つに道なかる可し」
面白み。興味。また、愛想(あいそ)
※十問最秘抄(1383)「諸人面白がらねば、いかなる正道も曲なし」
※俳諧・犬子集(1633)一一「つもるうらみをかたり申さん 白雪のふりこころこそきょくなけれ〈慶友〉」
④ (変化のある面白みの意から) 音楽、歌謡の調子や節(ふし)。また、そのまとまった一段や作品。楽曲。
※続日本紀‐天平勝宝八年(756)五月壬申「令下二笛人行道之曲
方丈記(1212)「松のひびき秋風楽をたぐへ、水のおとに流泉の曲をあやつる」 〔宗玉‐対楚王問〕
⑤ 芸能などで、面白みをもった技(わざ)の変化や工夫。また、曲芸。
※中華若木詩抄(1520頃)下「上竿奴と云は、竿を十丈も二十丈もついで、其上へのぼりて、種々の曲をして、銭をとる也」
能楽で、基礎的な技の上に、演者の個性によって加えられた演出上の妙味。
至花道(1420)闌位の事「上手の闌(たけ)たる手の、非却って是になる手は、これ、上手にはしたがふ曲(キョク)なり」
⑦ 漢詩の一体。思うことをつぶさに述べるもの。〔滄浪詩話‐詩体〕
⑧ 中国の演劇で歌詞のこと。転じて、中国の演劇。また、広く演劇の意。
読本・曲亭伝奇花釵児(1804)序「夫梨園の曲(キョク)俳優の技、彼我その趣異なることなし」
浮世草子傾城色三味線(1701)大坂「さまざまの曲(キョク)を好(このみ)、色々の床姿」

まが・る【曲】

〘自ラ五(四)〙
① まっすぐなものが湾曲する。たわむ。ゆがむ。曲線を描く。
※彌勒上生経賛平安初期点(850頃)「眉は長くして曲(マカラ)ず」
② 折れる。屈曲する。屈折する。
出雲風土記(733)巻末記「北に枉(まが)れる道は、北のかたに去ること四里二百六十歩」
③ 向きを変える。進行方向を変える。
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉二「魚店から左へまがり、横山町を直路に」
④ うずをまく。とぐろをまく。わだかまる。
※大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)九「鳳のごとくに翥り、龍のごとくに盤(マカリテ)、将に衆瞽を開かむ」
⑤ 道理からはずれる。心がねじける。ひがむ。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「次に其の枉(マカレ)るを矯(なほ)さむと将(し)て生める神を、号けて神直日(かみなほひの)神と曰す」
⑥ 位置がねじれる。また、受け取り方がまともでなく、ひねくれる。「ネクタイが曲がる」
※星座(1922)〈有島武郎〉「云ひ切ってしまった時に感じるだらう心のすがすがしさと、それを曲って取られはしないかといふ不安とが」
⑦ 一方に傾く。傾斜する。ななめになる。「柱がまがる」
⑧ 衰える。衰微する。「身代が曲がる」
※金(1926)〈宮嶋資夫〉九「どんなに智慧があって利口だって、曲(マガ)った日にゃ、鼻も引っかける奴はありませんや」
⑨ 取引相場で、予想がはずれる。あてがはずれて損をする。〔取引所用語字彙(1917)〕

まがり【曲】

〘名〙 (動詞「まがる(曲)」の連用形の名詞化)
① まがること。まがっているところ。まがりかど。
播磨風土記(715頃)賀古「此の川の曲り、甚(いと)美哉(うるはしきかも)とのりたまひき。故(かれ)、望理(まがり)と曰ふ」
② 状態、状況が変化すること。
※国語のため第二(1903)〈上田万年〉形容詞考「第二期 即ち形容詞に一種のまがり生ぜし場合にて、此のまがりは文字にては『し』と書かれ居れど実は ch のフォームなるべし」
③ 馬の手綱のなかほどの部分。
太平記(14C後)三一「小手の手覆を切ながさるる太刀にて、手綱のまかりをづんと切れて」
④ 油で揚げた菓子。中世、春日社の社前に供物として捧げられたもの。
※春日社司祐維記‐大永元年(1521)三月七日「今日のまかり、以外になまいりにして備申之間」
⑤ 「まがりがね(曲尺)」の略。〔易林本節用集(1597)〕

きょく・る【曲】

〘他ラ四〙 (名詞「きょく(曲)」の動詞化。「きょぐる」とも)
① 種々曲芸をする。
※常磐津・勢獅子劇場花籠(1851)「えものは三味線、どんちゃんの、音に驚き裾野の猿が、三番(さんば)ふみふみ逃出す、鹿へ飛乗る曲る馬」
② おかしく言いまわす。また、なごやかに言う。
※浄瑠璃・関八州繋馬(1724)道行「アなまみだ仏と詞できょくり、頼平とは白波の、直下に見るぞはまり成る」
③ 人をからかう。ちゃかす。ばかにする。また、皮肉を言う。
※杜詩続翠抄(1439頃)一五「此四句は謂漢武目出事而下は玄宗をきょくった也」
※寛永刊本蒙求抄(1529頃)七「是はきょぐって答たやら、又うつけて答たやらぞ」

くせ【曲】

[1] 〘名〙 (「くせ(癖)」と同語源)
① 能で、章節の部分の名称。謡曲では、曲舞(くせまい)からとったといわれる節で謡う部分をいい、一曲の中心となる内容を説明する。
※大観本謡曲・羽衣(1548頃)「地クセ 春霞、たなびきにけり久方の」
② 文楽で、太夫の語りの手法の一つ。アクセントの位置や音の長さを変えることによって、その文句を耳立たせようとするもの。
[2] 〘語素〙 正しくないこと、かたよったことを表わす語。「曲者」「曲事」など。

わだ【曲】

〘名〙
① 地形の入り曲がっているところ。入江などにいう。
※万葉(8C後)一・三一「ささ波の滋賀の大和太(ワダ)淀むとも昔の人に又もあはめやも」
② 形が曲がりくねっていること。
※枕(10C終)二四四「ななわたにわだかまりたる玉の」

きょく‐・す【曲】

〘他サ変〙 音楽を奏す。節にあわせて歌ったり演奏したり踊ったり演じたりする。
※浄瑠璃・四天王女大力手捕軍(1678)四「はるばるの御しんらうに、ゆうくんにまいひとつきょくさすべし」

ごく【曲】

〘名〙 古代の音楽で、声楽曲に対して器楽曲をいう。ごくのもの。
※宇津保(970‐999頃)蔵開上「ごくを音高く弾くに」

ま・ぐ【曲】

〘他ガ下二〙 ⇒まげる(曲)

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デジタル大辞泉 「曲」の意味・読み・例文・類語

きょく【曲】[漢字項目]

[音]キョク(漢) [訓]まがる まげる くせ
学習漢字]3年
まがる。まげる。「曲折曲線曲面迂曲うきょく婉曲えんきょく屈曲湾曲
ねじまげる。こじつける。「曲解曲学曲言曲筆私曲邪曲歪曲わいきょく
入りくんで細かい。くわしい。「委曲
曲がって入りくんだ所。くま。「河曲かきょく
音楽のふし。音楽作品。「曲調音曲おんぎょく歌曲楽曲作曲序曲新曲選曲箏曲そうきょく舞曲編曲名曲浪曲
詩。歌。「春風馬堤曲」
脚本。「戯曲元曲
変化のある技巧。「曲技曲芸
[名のり]くま・のり
[難読]浦曲うらわ曲尺かねじゃく曲彔きょくろく曲瀬くせ曲事くせごと曲者くせもの曲輪くるわ曲玉まがたま

きょく【曲】

楽曲の調子。ふし。「詞にをつける」
音楽の作品。能・狂言や舞踊などにもいう。「バッハのを演奏する」
まがっていること。また、正しくないこと。不正。「を正す」
おもしろみ。愛想。「のないことをいう」
軽業・手品・曲馬・曲独楽きょくごまなど、変化に富んでいておもしろみのある技芸。また、趣向を凝らした技。
「―ヲツクス」〈日葡
漢詩の六体の一。心情を詳しく述べるもの。
[類語](2楽曲/(4醍醐味持ち味味わい

くせ【曲】

《「くせ」と同語源》
(ふつう「クセ」と書く)謡曲で、曲舞くせまいから取り入れたといわれる部分で、1曲の謡所うたいどころ・舞所のこと。能ではシテの動きから居曲いぐせ舞曲まいぐせに分ける。
他の名詞の上に付いて複合語をつくり、偏った、正しくない、などの意を表す。「くせもの」「くせごと

わだ【曲】

入り曲がっていること。また、その所。
楽浪ささなみの志賀の大―淀むとも昔の人にまたも逢はめやも」〈・三一〉

み【曲/回/×廻】

《動詞「み(回)る」の連用形から》川・海・道などのぐるっと回り込んだ地形。「浦み」「里み」「くまみ」など、複合語として用いられる。

ごく【曲】

ごくの物」に同じ。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「曲」の意味・わかりやすい解説


きょく
Qu

中国の戯曲の総称。中国では演劇は歌曲を主とするところからきた名。中国の演劇は宋代にようやく形式を整え,「雑劇」と呼ばれたが,元代に入って飛躍的に発展し,関漢卿,馬致遠らの作家を生み,元代を代表する文学ジャンルとなって,「元雑劇」とも「元曲」とも呼ばれた。これらは北方系の歌曲を主体とする「北曲」に属する。明代には南方系の歌曲が流行し,戯曲にも用いられて演劇界の主流となり,「南曲」とも「伝奇」とも呼ばれた。湯顕祖,高明らをその代表作家とする南曲の楽曲のなかでは,「崑曲」と呼ばれるメロディーが最もよく用いられたが,清に入ると,北京で西皮,二黄という2つの曲調が大流行して崑曲を圧し,それを用いた演劇が発達して「京劇」と呼ばれ,今日にいたっている。

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【歌謡】より

…声楽曲の総称。うた,または,うたう,という行為を示す語としての歌謡は,中国においては古くから使われ,たとえば,《史記》《漢書》あるいは阮籍の音楽論にすでに見られる。…

【詩】より

…ほぼ同じ時期に最後の宮廷詩人シャルル・ドルレアンもいて,ともにバラードやロンドーといった定型詩の代表作を残した。 いちはやくルネサンスに入ったイタリアでは,すでに14世紀にダンテが《神曲》《新生》を,ペトラルカがソネット形式による甘美な抒情詩を書いていたが,16世紀までには他のヨーロッパ諸国にもその影響がひろがる。フランスではC.マロがペトラルカを翻訳,この新しい抒情のもとにセーブらのリヨン派,ロンサールらのプレイヤード派が活動,豊麗なバロック詩がやがてマレルブによって厳密な詩法に整頓される。…

※「曲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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