日本大百科全書(ニッポニカ) 「暗渠」の意味・わかりやすい解説
暗渠
あんきょ
地下に設けられていて外からは見えない水溝(すいこう)。流水面が見える水路を開渠または明渠とよぶのに対する語で、目的、構造の異なる排水暗渠under drain、集水暗渠collecting channel、通水暗渠closed conduitの総称。排水暗渠は、地面に深さ1メートル弱の溝を掘り、底に吸水渠を敷設して埋め戻したもので、土壌中の過剰水を吸収排除して、農地、グラウンドなどの土壌水分を適正値に制御するために、あるいは、下向きに土中浸透水流を生じさせて土壌中の塩分を洗い流すために用いられる。近年灌漑(かんがい)農業の普及によって塩類蓄積による土壌資源の破壊が世界的に問題になってきて、後者の役割がとみに重視されている。吸水渠を粗朶(そだ)、石礫(せきれき)などの粗積みで形成したものを簡易暗渠といい、紀元前約3000年のウル遺跡(イラク南部)にさかのぼる歴史をもつが、現在は土管、多孔プラスチック管などによる完全暗渠や、穿孔(せんこう)機を用いて土中に孔を穿(うが)つのみの無材暗渠(モグラ暗渠ともいう)が主であり、長尺可撓(かとう)プラスチック管の連続埋設機が普及している。
集水暗渠は、河川伏流水など比較的浅い地下水を用水として取水するために埋設される横形式の井戸で、構造的には排水暗渠と大差はない。中近東でオアシスの水源施設として名高いカナート(地下水路)は、これのきわめて大きなものにほかならない。
通水暗渠は、種々の目的で地下に設けられる水路である。下水管渠が代表的なものであるが、最近は都市内の街路沿いの排水溝に蓋(ふた)をして暗渠とし、街路の拡幅にあてる例も多い。
[冨田正彦]