暖流(岸田国士の小説)(読み)だんりゅう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「暖流(岸田国士の小説)」の意味・わかりやすい解説

暖流(岸田国士の小説)
だんりゅう

岸田国士(くにお)の長編小説。1938年(昭和13)4月19日~9月19日『朝日新聞』に連載。同年12月、改造社刊。東京の大病院志摩病院は経営の危機にあった。院長に恩義を感じる日疋祐三(ひびきゆうぞう)は、前途ある立場を捨てて再建に尽力し、成功する。日疋は院長の娘啓子(理想に生きる女性)に求婚する。啓子は、看護婦として働いている旧友石渡(いしわた)ぎんが日疋を愛していることを知って断る。日疋は石渡ぎん(現実に生きる女性)と婚約して、大陸に新天地を求めて出立してゆく。現実と理想との相剋(そうこく)から生まれる人生の美醜を描き、暗に、西欧的合理主義が受け入れがたい日本の風土性を示すというこの作家特有の近代日本の社会批判が込められている。発表翌年に映画化(吉村公三郎(よしむらこうざぶろう)監督)され評判となった。

[加藤新吉]

映画

日本映画。岸田国士の新聞小説を原作とし、松竹が1939年(昭和14)に吉村公三郎監督で初映画化。現存作は戦後編集版の2時間強だが、オリジナルは前後編あわせて3時間を超える大作。私立の大病院を舞台に、その再建に奔走する事務長(佐分利信(さぶりしん)、1909―1982)と、彼に惹(ひ)かれる院長令嬢(高峰三枝子(たかみねみえこ))と看護婦(水戸光子(みとみつこ)、1919―1981)の恋愛模様が描かれる。大胆なカット割りと新鮮な演出手法、二人の対照的な女性像が話題になり、若手監督・吉村公三郎の出世作となった。1957年(昭和32)に、新人監督の増村保造(ますむらやすぞう)が大映で再映画化し、看護婦の石渡ぎん(左幸子(ひだりさちこ)、1930―2001)を、愛を強く求め自己主張する行動的な女性として大胆に造型。東京駅の改札で「二号でも情婦でもいい」とカラッとした大声で求愛するなど、新しい日本映画のキャラクターを鮮烈に描き出した。1966年にはふたたび松竹で、野村芳太郎(のむらよしたろう)が山田洋次(やまだようじ)との脚本で映画化し、院長令嬢(岩下志麻(いわしたしま)、1941― )と看護婦(倍賞千恵子(ばいしょうちえこ)、1941― )の葛藤を中心にした女性映画に仕上げた。

[冨田美香]

『『暖流』(『昭和文学全集30』所収・1954・角川書店)』『吉村公三郎著『キネマの時代――監督修業物語』(1985・共同通信社)』『山根貞男著『増村保造――意志としてのエロス』(1992・筑摩書房)』『吉村公三郎著『わが映画黄金時代』(1993・ノーベル書房)』『増村保造著、藤井浩明監修『映画監督増村保造の世界――《映像のマエストロ》映画との格闘の記録1947―1986』(1999・ワイズ出版)』

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