日本大百科全書(ニッポニカ) 「普通教育」の意味・わかりやすい解説
普通教育
ふつうきょういく
general education
一般社会人として生活するうえに必要な基礎的な知識、技能、態度を、すべての人々に習得させる教育を意味し、専門教育、職業教育に対置して用いられる。この点で、「一般教育」と概念的にはっきり区別することはむずかしい。しかし一般教育の概念が古代ギリシア以来の自由教育の伝統から生まれ、その貴族主義的、教養主義的性格が近代的な修正を受けたのに対して、「普通教育」は一般民衆のための教育という意味合いが強い。
日本では、憲法、教育基本法および学校教育法に普通教育という用語が出ているが、この用語はすでに1879年(明治12)の「教育令」第3条に「小学校ハ普通ノ教育ヲ児童ニ授クル所」とあるように、明治以来の教育諸法令において使用されてきたものである。
[林 忠幸]
内容
第二次世界大戦後のわが国の学校教育の目的および普通教育の内容を明記している学校教育法(1947)によると、小学校は初等普通教育を、中学校は中等普通教育を施すことを目的とし、高等学校は高等普通教育および専門教育を施すことを目的としている。そして、この目的を達成するために、目標としてそれぞれの内容が示されている。
[林 忠幸]
小学校
小学校教育の目標は8項目からなり、おもなものをあげると、日常生活に必要な衣・食・住、産業等についての基礎的な理解と技能、日常生活に必要な国語の正しい理解と使用能力、日常生活に必要な数量的関係の正しい理解と処理能力、日常生活における自然現象の科学的な観察と処理能力などを養うこと、である。これらの目標は、国語・算数・理科・社会などの各教科および道徳、特別活動といった学校における教育活動諸領域の構成原理をなしている。
[林 忠幸]
中学校
中学校教育の目標には、さらに「社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」とある。これは、いわゆる職業教育を意味するものではない。義務教育終了の段階にあり、また卒業後は社会に出て職業につく者がいる中学校教育において、職業についての基礎的な理解と技能、将来の進路を選択する能力を身につけさせることは、中学校での普通教育の重要な内容をなす。
[林 忠幸]
領域の拡大
近代国家は、わが国に限らず義務教育の内容として普通教育を重視してきた。つまり、普通教育は国民の相互理解を深め、国民の思想、信条、価値観および行動様式の一致をもたらす一般化、同質化の役割を担ってきたからである。それによって、国家はその統一と秩序と安寧とを維持しようと努めてきたのである。また、近代産業社会の発展に伴って、これまで相対立するかのように考えられてきた職業的知識や技能を与える教育も、普通教育の内容として受容されてきた。さらに、今日のような高度な情報化社会においては、普通教育の内容はますます高度化し、複雑、多岐にわたっている。このように、社会の発展とともに、国民として共通にもつべき基礎的教養としての普通教育の内容は著しく変化した。先進諸国における教育内容の精選といったカリキュラム改革の動きは、これに対応した一つの現れであった。
近代国家の成立以来、普通教育は義務教育制度の確立とともに、学校教育という狭い枠内に押し込められてきたが、高度に発達し、急速に変化する今後の社会に適応できる国民の教育のためには、普通教育は学校教育の枠に縛られず、生涯教育の観点から見直されなければならないであろう。
[林 忠幸]
『前田博著『教育の本質』(1979・玉川大学出版部)』▽『兼子仁他編『教育小六法』(1982・学陽書房)』