時代物(読み)じだいもの

精選版 日本国語大辞典 「時代物」の意味・読み・例文・類語

じだい‐もの【時代物】

〘名〙
① 長い年月を経過した物。古びた物。古物。年数物(ねんすうもの)
※浮世草子・好色二代男(1684)三「紅梅染手拭掛は、信長の時代(ジタイ)物」
抱擁家族(1965)〈小島信夫〉二「彼は俊介に時代物の小さな扇風機をかしてくれた」
浄瑠璃・歌舞伎で、江戸時代以前の武家社会に題材をとった作品をいう。一番目狂言。時代事。⇔世話物
滑稽本東海道中膝栗毛(1802‐09)四「女方の阿仏、立役の親行、十六夜日記(いざよひのにき)、東関紀行の類、世に行るる多なれど、皆下役者の時代物、聾桟敷の耳遠きをいかにせん」
③ 演劇・映画・小説などで、江戸時代、およびそれ以前の時代を題材とした作品をいう。まげもの。
※蝴蝶(1889)〈山田美妙〉序「時代物に必ずその時代の言葉を用ゐるといふことは」

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デジタル大辞泉 「時代物」の意味・読み・例文・類語

じだい‐もの【時代物】

長い年数を経てきているもの。年代物。「時代物の時計」
演劇・映画・小説などで、主に江戸時代以前を扱ったもの。まげもの。
浄瑠璃歌舞伎で、江戸時代以前の公卿・僧侶・武家などの社会を題材としたもの。王代おうだい御家おいえも含む。一番目物。⇔世話物
[類語]古物こぶつ古物ふるもの年代物中古品

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百科事典マイペディア 「時代物」の意味・わかりやすい解説

時代物【じだいもの】

人形浄瑠璃や歌舞伎脚本の一種別。一般には世話物に対し江戸時代よりも古い歴史上の物語や武家階級の事件に取材した作品をさす。そのうち,王朝時代を描いたものを王朝物王代物),江戸時代の大名内部の事件を描いたものをお家物ともいう。また,近代以降に創作された特殊な歴史劇である〈活歴物〉も含まれる。《義経千本桜》《本朝廿四孝》など。
→関連項目仮名手本忠臣蔵出世景清菅原伝授手習鑑中村吉右衛門奈河亀輔松本幸四郎

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改訂新版 世界大百科事典 「時代物」の意味・わかりやすい解説

時代物 (じだいもの)

人形浄瑠璃,歌舞伎狂言の分類の一つ。江戸時代よりも古い時代のさまざまな事件を題材に扱って仕組みの骨格(〈世界〉)とし,人物の名も歴史上知られている名をそのまま(あるいは一部をもじって)使う狂言である。当代の市井町人社会を題材とする世話物に対して,公卿や武家の社会を扱うが,時代物でも世話の場面が含まれるのが通例。近代以降に創作された史劇である活歴物も含まれる。時代物のうち,とくに王朝時代の公卿の社会を扱った狂言を王朝物(王代物)と呼んで区別することもある。また,江戸時代の武家社会における事件やお家騒動を扱った作品はお家物と呼ぶが,当代の武家社会の出来事を生のまま劇化することを禁じられていたことから,〈時代〉の世界を借りて劇化されることが多い。たとえば《仮名手本忠臣蔵》は〈太平記の世界〉を借りている。時代物は通俗史によりながら独自に虚構された武家や公卿の抗争の悲喜劇として,風俗や歴史的事実も実際を無視している。その意味で映画などの時代劇とは意味を異にする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「時代物」の意味・わかりやすい解説

時代物
じだいもの

人形浄瑠璃(じょうるり)、歌舞伎(かぶき)脚本の一種別。江戸期からみて通俗史上の事件に取材し、武家・貴族・僧侶(そうりょ)など上層階級の人物がおもに活躍する作品をいう。江戸時代の市井の事件に取材した世話物に対する語。狭義には『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』『絵本太功記(えほんたいこうき)』など、源平時代から大坂冬夏の両陣に至る武家時代を題材にしたものだけを時代物とよび、『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』など平安朝以前の事件に取材したものを王代(おうだい)物、『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』など江戸期の大名の事件を脚色した作をお家物と分けてよぶこともある。舞台に金色の襖(ふすま)の御殿の場面が出ることが多いため、金襖(きんぶすま)物という俗称もあり、一般に時代物の場面、扮装(ふんそう)、演技は様式的であるのを特徴とするので、「時代な台詞(せりふ)回し」「時代な演出」「大(おお)時代(とくに古風で誇張の多いこと)な場面」などと形容詞のように使われもする。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「時代物」の意味・わかりやすい解説

時代物
じだいもの

人形浄瑠璃,歌舞伎作品の一分類。世話物 (せわもの) に対する称。歌舞伎では時代狂言ともいう。その作品の時代背景,主要人物の社会的地位による分類で,時代的には江戸より以前の史実に基づき,百姓町人より上の階級である武士,僧侶,公卿などの人物を中心とした作品をいう。狭義には近世以前の武将の事跡を脚色したものをさすが,広義には平安時代以前を扱った王朝物 (王代物) ,大名の家督争いを主題とした御家物をも含める。また『新うすゆき物語』など,御家物を加味した3巻形式の時代物を「時代世話 (物) 」と称することもある。明治 10年代以後に特に歴史的事実や時代考証を重視して作られた作品を活歴物 (かつれきもの) といい,これも時代物のなかに包含する。演出上からは,世話物に比べて様式性が強い。

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知恵蔵 「時代物」の解説

時代物

時代物とは、江戸時代に公家や僧侶、武士階級に起きた出来事を劇化する時に、時代を中世以前に置き換えた幻想性の濃い歌舞伎脚本。平安朝以前に置き換えた脚本は王代物とも言われる。興行の一番目に上演されるため一番目物と言う。世話物は町人社会の出来事を素材にした、写実的で現実性の高い歌舞伎脚本。二番目に上演されたので二番目物とも言われる。鶴屋南北が得意にした生世話(きぜわ)は、下層社会の人々の生活実感を描いた、当時の現代劇。生とは、生粋や純粋という意味。「仮名手本忠臣蔵」のように、時代物の中に勘平切腹のような世話味の濃い部分を含む脚本を時代世話とも言う。

(山本健一 演劇評論家 / 2007年)

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「時代物」の解説

時代物
じだいもの

人形浄瑠璃・歌舞伎戯曲の一区分。狭義には武家の歴史を題材とする戯曲をいうが,一般にはこれに王代物・御家物を加えて,世話物と対立する戯曲をさす。本来叙事詩的性格をもつ浄瑠璃では,世話物以外はすべて時代物といえる。一方当代を描く歌舞伎には時代の概念は希薄で,過去の歴史に仮託して当世を描く傾向が強く,とくに江戸では時代物と世話物との綯交ぜ(ないまぜ)が行われた。時代物という概念は流動的で,明治の活歴物もその一つといえる。

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とっさの日本語便利帳 「時代物」の解説

時代物

歌舞伎や人形浄瑠璃で、武士、貴族、僧侶など支配階級の人物を扱った狂言。「義経千本桜」「絵本太功記」「伽羅先代萩」など。「曽根崎心中」「新版歌祭文」など町人、農民の生活を描いたのが世話物。さらに、これらをより写実的にしたものを生世話(きぜわ)、能、狂言から取材し、能舞台を模したものを松羽目物(まつばめもの)という。

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旺文社日本史事典 三訂版 「時代物」の解説

時代物
じだいもの

江戸時代,歌舞伎・浄瑠璃・小説の分類
世話物に対し,江戸およびそれ以前の武将の軍記などを描いたもの。たとえば近松門左衛門『国性爺合戦』,竹田出雲『菅原伝授手習鑑』など。

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世界大百科事典(旧版)内の時代物の言及

【一番目】より

…一番目狂言の略。武士や公卿等の世界を題材とした時代物の狂言のことをいう。江戸では1日の狂言は一つ,題名も一つというのがきまりで,特に元禄期(1688‐1704)は全編を4場に分け,一番目,二番目,三番目,四番目としたが,全体としてまとまった筋になっていた。…

【語り】より

…いずれの場合も,所作の点からは,動きを伴わない素語りと,写実的な動作を添えながら語る仕方語りとがある。三味線音楽の義太夫節では,時代物において,やはり1人の登場人物が過去の物語を述べる部分がある。これは語りとも物語ともいい,勇壮な合戦のありさまを語る軍物語(いくさものがたり)がその典型である。…

【歌舞伎】より


[演出と型]
 古典的な歌舞伎の演出には,特定の作品ごとに固定した〈型〉と呼ぶものがある。とくに丸本歌舞伎系の時代物では,〈型〉の固定が著しく,〈型物〉と呼ばれる作品群もある。〈型〉は,歌舞伎が長い期間にわたり幾多の俳優たちによって繰り返し上演された結果,くふうにくふうが重ねられ,洗練に洗練が加えられ,さらに厳しい取捨選択が行われて現代に伝承した,いわば決定版的な性格を持つ〈演出〉のことである。…

【義太夫節】より

…そして,84年には,大阪に国立文楽劇場が開場した。
[義太夫節の種類と構成]
 (1)時代物と世話物 義太夫節は時代物と世話物に大別される。主流をなす時代物は,江戸時代以前の公家や武家社会の事件を扱った物語を指し,世話物は江戸時代の市井の出来事を仕組んだもの。…

【用明天王職人鑑】より

…義太夫節の曲名。時代物近松門左衛門作。…

※「時代物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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