日本の大学院(読み)にほんのだいがくいん(英語表記)Japanese graduate school

大学事典 「日本の大学院」の解説

日本の大学院
にほんのだいがくいん
Japanese graduate school

日本の大学院は学校教育法(日本)を根拠とする制度的存在で,「学術理論及び応用教授研究し,その深奥をきわめ,又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い,文化の進展に寄与することを目的とする」(同法99条)とされている。大学院のうち,「学術の理論及び応用を教授研究し,高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培うことを目的とするものは,専門職大学院とする」(99条2項)としているので,専門職大学院(日本)以外の大学院は,「学術の理論及び応用を教授研究し,その深奥をきわめ」ることを目的とするものということになる。その設置に必要な最低の基準は,大学院設置基準および専門職大学院設置基準に定められている。

 大学院の課程は,修士課程(日本),博士課程(日本)および専門職学位課程とされ,その全部を置く場合と一つだけを置く場合がある。修士課程の入学資格は大学を卒業した者,または文部科学大臣の定めるところにより,これと同等以上の学力があると認められた者で,標準修業年限は2年である。博士課程の入学資格も修士課程と同様で,標準修業年限は5年である。ただし博士課程は前期2年と後期3年の課程に区分することができ,多くの大学ではこの区分制の博士課程を置いて,後期課程に修士学位取得者を入学させている。この場合,前期2年の課程は修士課程として取り扱われる。

 専門職学位課程(日本)は,標準修業年限は2年または専攻分野の特性に応じて1年以上2年未満とされるが,もっぱら法曹養成のための教育を行うことを目的とするものを置く専門職大学院である法科大学院(日本)の課程は3年,もっぱら幼稚園,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校および特別支援学校の,高度の専門的な能力および優れた資質を有する教員の養成のための教育を行うことを目的とする教職大学院(日本)は2年とされている。

 専門職大学院を除く大学院の課程を修了した者に対しては修士または博士の学位,専門職大学院の課程を修了した者のうち,法科大学院の課程を修了した者には法務博士(日本)(専門職),教職大学院の課程を修了した者には教職修士(日本)(専門職),その他の専門職大学院の課程を修了した者には修士(専門職)の学位が授与される。

 大学院は,専門分野に応じて教育研究上の目的から組織される研究科(日本)を置くことを常例としているが,「教育研究上の目的を達成するため有益かつ適切である場合においては,文部科学大臣の定めるところにより,研究科以外の教育研究上の基本となる組織を置くことができる」(学校教育法100条)とされており,実際,教育部と研究部を分けて置くもの,前者にあたる組織を学環や学府とし,後者にあたるものを学府や研究院と称しているものなどがある。

 第2次世界大戦前の大学制度を定めていた大学令は,「大学ニハ数個ノ学部ヲ置クヲ常例トス」(2条)として,学部を大学の構成単位とし,「学部ニハ研究科ヲ置クヘシ」「数個ノ学部ヲ置キタル大学ニ於テハ研究科間ノ聯絡協調ヲ期スル為之ヲ綜合シテ大学院ヲ設クルコトヲ得」(3条)と規定していた。つまり,大学院は学部に置かれた研究科の連絡調整組織にしかすぎなかったが,戦後の制度では「大学には,大学院を置くことができる」(学校教育法97条)と規定しており,大学に置かれるものの,大学とは別の機関という位置づけとなっている。同時に,この規定の違いは,戦前の制度では大学院(研究科)が必置であったのに対して,戦後は必置ではなくなったことを意味する。そして学校教育法によれば,「大学には,学部を置くことを常例とする」(85条)が,「学部を置くことなく大学院を置くものを大学とすることができる」(103条)ので,大学院だけの大学が存在することになり,一般にこの種の大学を大学院大学(日本)と称している。このことは現在の日本の大学概念が,博士レベルの最高学位までの学位授与権を有する高等教育機関のみをユニバーシティとするヨーロッパ型の大学概念から離れ,およそ学位たるものを授与する機関を一括して扱うアメリカ合衆国のユニバーシティ・アンド・カレッジ概念に対応するものとなっていることを示している。

[現状]

2016年現在,日本には777の大学があり,そのうち627大学(80.7%)に大学院が置かれている。また,そのうちの599大学に修士課程,446大学に博士課程,133大学に専門職学位課程が置かれている。専門職学位課程のみを置く大学は14大学である。国立では86大学のすべてに大学院が置かれているが,公立では91大学のうち79大学(86.8%),私立では600大学のうち462大学(77.0%)に置かれているにすぎない。大学院の学生数は,総数24万9588人のうち国立15万0724人(60.4%),公立1万6108人(6.5%),私立8万2756人(33.2%)で,国立が過半を占めている。これは学部学生の総数256万7030人のうち国立44万4204人(17.3%),公立13万1406人(5.1%)に対して,私立199万1420(77.6%)と私立の割合が高いことと対照をなしている。
著者: 舘 昭

参考文献: 舘昭『原点に立ち返っての大学改革』東信堂,2006.

参考文献: 舘昭『改めて「大学制度とは何か」を問う』東信堂,2007.

参考文献: 文部科学省「平成26年度学校基本調査」

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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