既に・已に(読み)すでに

精選版 日本国語大辞典 「既に・已に」の意味・読み・例文・類語

すで‐に【既に・已に】

〘副〙
① 少しも残るところなくすべてにわたるさま、完全にそうなるさまを表わす語。全く。すっかり。
古事記(712)序「已(すでに)訓に因りて述ぶれば詞心に逮ばず」
万葉(8C後)三九二三「天の下須泥爾(スデニ)覆ひてふる雪の光を見れば貴くもあるか」
※仮名草子・浮世物語(1665頃)三「御鷹師すでに赤面し、頭を地に付け、その人の名を申さんとしける」
② (下に完了、過去を表わす語を伴って) 事が終わった状態を表わす。以前に。先に。とっくに。もう。また、過程を経て、ことが現実に至るさまを表わす。とうとう。
※万葉(8C後)一七・三九三一「君により吾が名は須泥爾(スデニ)立田山絶えたる恋のしげき頃かも」
平家(13C前)五「旧都をばすでにうかれぬ、新都はいまだ事ゆかず」
③ (下の文を断定の表現で結んで) 動かしがたい事実であるさまを表わす。まぎれもなく。まさに。ちょうど。現に。ほとんど。
今昔(1120頃か)一〇「寄て見るに、射たる所の虎、既に虎に似たる岩にて有り」
徒然草(1331頃)九三「生あるもの、死の近き事を知らざる事、牛、既にしかなり。人、また同じ」
④ (多く下に推量の語を伴って) 事が近づいた状態を表わす。もう少しで。すんでの事に。もはや。まもなく。
※今昔(1120頃か)九「月満て既に産するを待つ程に」
※俳諧・奥の細道(1693‐94頃)平泉「金の柱霜雪に朽て、既頽癈空虚の叢と成べきを」
[語誌]上代は①②の語義に限られている。中古に入ると、もっぱら漢文訓読体の語として用いられ、和文では「はやう」が用いられた。後に和漢混淆文契機として広く使われるようになり、③④の語義も見られるようになる。

すんで‐に【既に・已に】

〘副〙 (「すでに」の変化した語) もうちょっとのところで。すんでのこと。
※杜詩続翠抄(1439頃)八「すんてにとがめうとしたよ」
歌舞伎独道中五十三駅(1827)二幕「宿(しゅく)もすんでに十一宿、その道のりも二十五里」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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