旗国法(読み)きこくほう(英語表記)law of flag

精選版 日本国語大辞典 「旗国法」の意味・読み・例文・類語

きこく‐ほう ‥ハフ【旗国法】

〘名〙 船舶が所属する国の法律。船舶の本国法。国際私法上、海商関係の問題について準拠法として選ばれることが多い。

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デジタル大辞泉 「旗国法」の意味・読み・例文・類語

きこく‐ほう〔‐ハフ〕【旗国法】

船舶の所属国の法律。船舶の本国法。国旗法。

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改訂新版 世界大百科事典 「旗国法」の意味・わかりやすい解説

旗国法 (きこくほう)
law of flag

船舶をめぐる国際的な法律問題に関する用語で,船舶が所属する国の法律をいう。国際的に運航される船舶には国旗掲揚の義務があり,国旗掲揚によってその船の所属する国つまり国籍を示すべきこととされる。他方,ある国の国旗を掲げることのできる権利は,その船がその国の登録を受けその国から船舶国籍証明書を交付されることによって生ずるので,船の掲げる国旗はその船の登録国を示す,ということができる。さらに日本の場合,登録できるのは日本船舶に限られ,日本船舶とは概してその所有者が日本人である船をいうため,船の掲げる国旗はその所有者の国籍をも表すことになる。このように船が国旗によって示す国=旗国はその船の国籍や登録の所在する国または船主の国籍のある国である。これを船舶の〈本国〉ということもあるが,それは人にその所属する本国があるように船にも所属する本国がありそれは旗国である,と考えるからである。違った角度からみると船は〈浮かぶ領土floating territory〉であり,その動く領土がどの国のものかを示すために国旗を掲げている,ということになる。船上での結婚式はその旗国の領域内でのものと同じであり,公海上からの無免許放送(いわゆる海賊放送)に対する取締りの権利・義務も旗国がもつ。旗国はその国の旗を掲げる船に対する監督義務をもつのである。ところが,この旗国の税制・労働法制その他の行政的監督・統制を逃れるため,船主は自己に有利な法制をもつ国を選んで登録をすることがある。いわゆる便宜置籍便宜置籍船)であって,この場合の国旗はflag of convenienceという。こうした便宜置籍を受けいれることで有名なのはパナマ,リベリア,ホンジュラスの諸国である。近時の条約等(国連公海条約(1958)4~6条,国連海洋法条約(1982採択。1996年発効)91~92,94,109条3項a号など,船舶法1,2,5~7条)で旗国と当該船舶との間には真正な関係が存在しなければならない,と規定しているのは便宜置籍の弊害に対する国際的な評価のゆえである。

 以上のような旗国の法律=旗国法は船舶に関する債権的または物権的な法律関係の準拠法として援用されることが少なくない。たとえば,船主の責任,船長の権限・責任,船長と船主との関係,海員の権利・義務,海上運送契約,海上保険契約,共同海損,船舶衝突,海難救助,船舶所有権,船舶先取特権船舶抵当権,運送品に対する先取特権留置権などに関する諸問題である。

 もっとも,さきに述べた便宜置籍との関連や近時における通信手段の発展,国際的統一基準の整備などに伴い,旗国法の重要性は少なくとも債権契約的諸問題については減少する傾向にあり,むしろ船主の営業本拠地法という概念に包み込まれようとしている。旗国がどこか,どこの国の旗を掲げているかは営業本拠地がどこにあるかを探し出す一つの要素としてのみ機能するにすぎなくなりつつあると解される。

 国際的に運航される自動車,航空機,人工衛星等をめぐる国際的な法律問題について述べると,まず,自動車は登録地を,車体後方に横長の楕円形標識板を付け,白地に黒の3文字以内のラテン大文字でA(オーストリア),NL(オランダ),CH(スイス)などのように表示する義務があり,日本はJを標識とする(道路交通条約(1949,ジュネーブ)20条,同付属書4)。航空機の場合は登録によって定まる国籍をローマ字の大文字による国籍記号(日本はJA)で,登録記号とともに,主翼と尾翼または胴体に掲げねばならない(国際民間航空条約(1944,シカゴ)18条,20条,航空法3条の2,同施行規則133~140条)。いずれの場合も国旗は用いず,厳密な意味では旗国法はなく,登録地国法というべきである。宇宙船や人工衛星など〈宇宙空間に発射された物体〉も登録によって国籍が定まる(宇宙条約(1967,ワシントン-ロンドン-モスクワ))。事柄の性質上,国際航空運送に関する規則は,運送に関するワルソー条約(1929)などの多数国間条約のほか,関係の2国間の条約など国際的な合意によって取り決められる。民間航空の安全に対する不法行為の防止に関するモントリオール条約(1971),航空機の不法な奪取(ハイジャック)の防止に関するハーグ条約(1970)などもその例である。登録地国法はこれらの条約に定めのないかぎりで補充的に機能する。国際陸上交通から生ずる不法行為責任に関しては交通事故の準拠法に関するハーグ条約(1971)などがあり,事故発生地国法を原則とし,例外的に一定の範囲内で登録地国法が基準とされることが定められている(同条約3条以下参照)。
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百科事典マイペディア 「旗国法」の意味・わかりやすい解説

旗国法【きこくほう】

船舶の所属する国(旗国)の法律。国旗法とも。海商に関する法律関係は,公海における船舶について生ずることが多く,その場合は当該船舶および他国民でも船内にいる限り旗国法の適用下におかれる。海洋法条約は,船舶は一つの国のみの旗を掲げて航行するものとし,原則として公海においてはその国の排他的管轄権に属するとした。他国の領海内では原則として沿岸国の管轄に属するが,船舶内の犯罪の裁判権は一般に旗国に属する。
→関連項目国籍

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「旗国法」の意味・わかりやすい解説

旗国法
きこくほう
law of flag; loi du pavillon

船舶や航空機が所属する国の法律。船舶や航空機はいずれかの国で登録されなければならず,その登録国に国籍があるものとされ,その国籍は国旗によって船舶のマストや航空機の翼に表示される。旗国法は船舶や航空機に関する渉外的法律関係の準拠法として国際私法上重要であり,それを適用する考え方を旗国主義という。日本の法例には明文の規定はないが,判例や学説で承認されている。公海における海難救助の成否や効力,公海を航行中の船舶内で生じた不法行為の成否や効力のように,法律のない地域で生じた船舶や航空機をめぐる法律問題の準拠法として旗国法が援用される。

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世界大百科事典(旧版)内の旗国法の言及

【国際商法】より

… 日本の従来の国際私法理論では,条約や特別法のある場合,あるいは事柄の性質上適用することが妥当でない場合を除いて,商事についても一般原則である法例3条以下の規定によるものとされる。特別法としては,手形法88条以下,小切手法76条以下の規定があり,事柄の性質上特別の考慮を必要とする場合としては,船舶所有権など海上企業の法律関係につき,後で述べるいわゆる旗国法を準拠法とする場合,あるいはひろく商事活動においては,住所より営業所の観念が重要性をもつというような場合が考えられる。例えば,1966年ポーランド国際私法9条3項,27条,78年オーストリア国際私法36条,38条,39条,80年のEC契約準拠法条約4条,86年ドイツ民法施行法28条,87年スイス国際私法117条,126条,135条,136条,139条などでは,営業所の観念に基づいて準拠法を定めている。…

※「旗国法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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