旋光性(読み)せんこうせい(英語表記)optical rotation

精選版 日本国語大辞典 「旋光性」の意味・読み・例文・類語

せんこう‐せい センクヮウ‥【旋光性】

〘名〙 固体液体気体あるいは溶液の状態でその中を通りぬける光の偏光面を右あるいは左に回転させる性質をいう。蔗糖、酒石酸、水晶などに見られる。〔稿本化学語彙(1900)〕

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デジタル大辞泉 「旋光性」の意味・読み・例文・類語

せんこう‐せい〔センクワウ‐〕【旋光性】

ある種の物質直線偏光を通過させたとき、物質がその偏光面を左右いずれかに回転させる性質。右回転を右旋性、左回転を左旋性という。

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改訂新版 世界大百科事典 「旋光性」の意味・わかりやすい解説

旋光性 (せんこうせい)
optical rotation

光学活性の一種で,ある種の物質(旋光性物質)が,その中を通過する直線偏光の偏光面を回転させる性質をいう。他の光学活性の一つである円偏光二色性クラマース=クローニヒの関係(クラマースの法則)で密接に関係づけられ,両者は互いに裏腹の関係にあるので,旋光性を光学活性と同義に用いることもある。進む光に向かって観測するとき,直線偏光の偏光面が旋光性物質(光学活性物質ともいう)を通過後に,右(時計の針の回る方向)に回る場合を右旋性dextrorotatory,左に回る場合を左旋性levorotatoryという。これは,(1)直線偏光が,右回りの右円偏光左回りの左円偏光の和(重ね合せ)で表され,しかも(2)この二つの円偏光に対して旋光性物質の屈折率が異なるために起こると説明されている。

 旋光現象は,1811年D.F.J.アラゴーにより水晶の中を光軸方向に偏光を通したときに発見され,さらに15年にJ.B.ビオによりショ糖と酒石酸の水溶液について見いだされた。水晶や塩素酸カリウムのように,不斉原子を有するように配列した結晶状態では旋光性を示すが,溶融または溶液にしたときには旋光性を失う場合もある。しかし分子内に不斉原子をもつ酒石酸やショ糖などでは,結晶のみならず溶液,気体および溶融状態でもその活性を失わない。旋光性を示さない物質でも,光の進む方向に強い磁場をかけたときに旋光性を示す現象(ファラデー効果)と区別して,通常の旋光性を自然旋光ということもある。

旋光性の大きさを旋光能または旋光度という。これは物質に固有な値を示し,不斉原子をもつ有機化合物,金属錯体や有機金属化合物などの分子構造を研究する有力な量となる。旋光度は偏光面の回転した角度(旋光角)で表すが,一般に旋光角は旋光性物質の層の厚さ,ないしは旋光性物質の分子数に比例するので,物質に固有な量として比旋光度specific rotatory powerを用いる。

(1)比旋光度は,旋光角をα度として,で表される。l′は10cm単位で測った試料の厚さ,dは試料1㏄中にある光学活性物質の重さ(g)である。比旋光度は,光の波長λや温度t,溶媒の種類や濃度によっても変化する。たとえば20℃におけるショ糖のナトリウムD線に対する比旋光度は[α]20D=66.5°として示す。

(2)比旋光度[α]λtに光学活性物質の分子量Mをかけた量は分子旋光度molecular rotatory power,またはモル旋光度molar rotatory powerといい,溶液1000㏄中に旋光性物質を1mol含む溶液が1mの液層に示す旋光角であり,分子固有の旋光度を比較するのに便利な量である。(3)結晶の旋光度は,ふつう1mmの厚さの層についての旋光角で表す。

 なお右旋性か左旋性かを示すのに,比旋光度を示す数値にそれぞれ正および負の符号を付すか,または数値の後にdおよびlの記号を付すことがある。
光学異性 →偏光
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「旋光性」の意味・わかりやすい解説

旋光性
せんこうせい
optical rotatory power

物質に直線偏光を入射したとき、物質がその光を左右いずれかに回転させる現象。このような性質をもつ物質を旋光性物質といい、組成が同じでも構造が異なる物質であることから、光学異性体または光学活性体ともいう。代表的な例は酒石酸である。

 旋光性を測定するには旋光計(偏光計ともいう)を用いる。光源の後ろに偏光子を置き、直線偏光にする。これを試料に照射すると、物質によってはこの偏光成分が回転するために、出射光が暗く見える。しかし、測定者の側にある偏光子を左右いずれかに回転すると明るくなる。この回転角度をα(アルファ)とする、ただし、αは測定者から見て右回り(右旋性)のとき+、左回り(左旋性)のとき-とする。

 旋光性を示す物質には糖類、塩素酸カリウム、一部の錯化合物などがある。+の旋光をd、-の旋光をlで表し、また絶対配置を示すdlに対応させてD-、L-が用いられる。はアラニンの光学異性を示す。

[下沢 隆]


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百科事典マイペディア 「旋光性」の意味・わかりやすい解説

旋光性【せんこうせい】

ある種の物質が,その中を通過する直線偏光の偏光面(偏光)を回転させるとき,この性質を旋光性といい,このような物質を旋光性物質という。旋光性の大小は比旋光度で表され,光が旋光性物質を通過後に,偏光面を右(時計回り)へ回すものを右旋性,左へ回すものを左旋性という。→光学異性
→関連項目検糖計

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化学辞典 第2版 「旋光性」の解説

旋光性
センコウセイ
optical rotatory power

直線偏光の偏光面を回転させる性質,光学活性の一種.光のくる方向に向かって時計の針の方向に回転させるものを右旋性,反対のものを左旋性といい,それぞれdまたは+,lまたは-で表す.直線偏光を左右の円偏光に分解して考えるとき,左右の円偏光に対して屈折率が異なるとき旋光性が現れる.微視的には,旋光性物質には立体的な異性体があり,異性体どうしは鏡像関係にあり,回転させても重なり合わない.このような物質による旋光を,磁場をかけたときにファラデー効果で現れる磁気旋光と区別して自然旋光ということもある.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「旋光性」の意味・わかりやすい解説

旋光性
せんこうせい
optical activity

直線偏光をもつ光がある種の物質中を通るとき,その偏光面が回転することがある。このような物質は旋光性をもつ,あるいは光学的に活性であるという。偏光面の回転方向が光の進行方向からみて右回りか左回りかによって,右旋性,左旋性という。水晶には右旋性,左旋性の両方があり,ショ糖水溶液は右旋性,果糖水溶液は左旋性である。偏光面の回転角は旋光性物質の長さに比例し,溶液では濃度にも比例する。また用いる光の波長によっても変化する。

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