新規株式公開(読み)シンキカブシキコウカイ(英語表記)initial public offering

デジタル大辞泉 「新規株式公開」の意味・読み・例文・類語

しんき‐かぶしきこうかい【新規株式公開】

株式公開

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「新規株式公開」の意味・わかりやすい解説

新規株式公開
しんきかぶしきこうかい
initial public offering

上場の企業が、不特定多数の投資家が参加できる株式市場に自社株式を上場し、自由に売買できるようにすること。英語の頭文字をとって、IPOと略称される。新規公開した企業が多い市場を新興株式市場という。新規株式公開には、創業者一族などが保有する株式を放出する「売り出し」と、株券を新規発行する「公募」の2形態がある。新規株式公開は増資などと並ぶ、エクイティファイナンス新株発行を伴う資金調達)の代表的手法であり、市場から広く資金を調達できるほか、企業の知名度が向上し、有能な人材を確保しやすくなるなどの利点がある。一方、定期的な業績開示や投資家への説明といった義務が生じる。また、ライバル社や友好的でない株主から敵対的買収を迫られるリスクもあり、これを嫌って上場企業がMBO(経営陣による買収)により、ふたたび非上場企業となるケースもある。なお、一度経営破綻(はたん)した企業がふたたび上場する場合も、新規株式公開に含めることがある。

 2000年前後にアメリカのIT(情報技術)企業を中心に新規株式公開が相次ぎ、世界のIPOによる資金調達額が2000億ドルを超える第一次IPOブームとなった。その後、2005~2007年の第二次ブームや、2020~2021年の第三次ブームは、アメリカのほか中国などの新興国牽引(けんいん)。とくに第三次ブームでは、新規公開を期待される未上場企業はスタートアップ企業とよばれ、スタートアップ企業のなかでも時価総額が10億ドルを超える有望企業がユニコーン企業とよばれるなどして、世界的な関心を集めた。新規株式公開による資金調達額では、2019年に上場したサウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコが最大で256億ドルに達し、2014年に上場した中国のアリババ(資金調達額250億ドル)がこれに続く。日本では、1998年(平成10)のNTTドコモ(183億ドル)が最大である。なお、世界のおもな株式取引所には、過去1年以内に新規株式公開した企業の株価動向を示すインデックス指標がある。

 公開後に最初についた株価を初値とよぶ。公開価格の決定方法には、仮条件の範囲内で需要を聞き取って価格を決める「ブックビルディング(需要積上げ)方式」と、財務内容が似た上場会社を参考に下限価格のみを設定して入札で決める「入札方式」の二通りがあり、ブックビルディング方式が一般的である。新興企業の成長を促すため、日本では2022年(令和4)、投資家の需要に応じて仮条件の範囲などにとらわれず、公開価格や売出し株数を変更できるようにしたほか、従来1か月かかった上場承認から上場までの期間を約21日に短縮した。新規株式公開をめぐっては、上場前の情報開示や株式配分のあり方が問題になるケースが多い。日本では、2005年(平成17)ごろから「未公開株は確実にもうかります」などと高齢者らに公開予定のない株式を売りつけるなどの特殊詐欺(金融商品詐欺)が増えた。

[矢野 武 2022年9月21日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android