新潮(読み)しんちょう

精選版 日本国語大辞典 「新潮」の意味・読み・例文・類語

しん‐ちょう ‥テウ【新潮】

[1] 〘名〙 新しい潮流。時代の新しい動き。
※菊池君(1908)〈石川啄木〉四「西山社長は、正に此新潮に棹(さをさ)して彼岸に達しようと焦慮(あせ)って居る人なので」
[2] 文芸雑誌。明治三七年(一九〇四)五月創刊。新潮社発行。同二九年創刊の文芸雑誌「新声」を前身とし、初代編集長佐藤義亮。第二次世界大戦末期の昭和二〇年(一九四五)三月から一〇月まで休刊したが、同年一一月復刊して現在におよんでいる。創刊以来、文壇の動向と密接にかかわり、常に重要な作品、批評の発表の場であった。

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デジタル大辞泉 「新潮」の意味・読み・例文・類語

しんちょう〔シンテウ〕【新潮】

文芸雑誌。明治37年(1904)5月創刊。佐藤義亮主宰の「新声」の後身。新潮社発行。一時休刊したが現在に至る。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「新潮」の意味・わかりやすい解説

新潮
しんちょう

月刊文芸雑誌。1904年(明治37)5月創刊。新潮社発行。雑誌『新声』(1896創刊)の経営に失敗した佐藤義亮(ぎりょう)(橘香(きっこう)。1878―1951)が、新たに新潮社をおこして日露戦争下に創刊。当初は『新声』の投書雑誌的性格も受け継ぎ、佐藤紅緑(こうろく)(俳句選者)・金子薫園(くんえん)(短歌選者)・高須芳次郎(たかすよしじろう)(梅渓(ばいけい)。1880―1948)・田口掬汀(きくてい)らの『新声』以来の執筆者に加えて、小栗風葉(ふうよう)・徳田秋声真山青果生田長江(ちょうこう)らが活躍。とくに青果の小説『南小泉村』(1908)や中村武羅夫(むらお)の編集した国木田独歩(どっぽ)追悼号(1909.7)が高い評価を得たあたりから文壇の有力誌の一つと目されるようになり、さらに辛口の文壇時評「甘言苦語」、人物月旦(げったん)(人物批評)、作家論特集、海外の文芸思潮の紹介などにも編集のさえをみせた。大正期には中村武羅夫が編集の中心となり、文壇の大家だけでなく白樺(しらかば)派など新時代の作家にも目配りを怠らず、志賀直哉(なおや)『好人物の夫婦』、有島武郎(たけお)『小さき者へ』、芥川龍之介(あくたがわりゅうのすけ)『藪(やぶ)の中』などを掲載。そのほかにも岩野泡鳴(ほうめい)・里見弴(とん)・近松秋江(しゅうこう)・田村俊子・広津和郎(かずお)・和辻哲郎らが小説や評論を執筆している。また匿名時評欄「不同調」、久保田万太郎・徳田秋声・菊池寛らによる座談会形式の「創作合評」などが話題をよび、ついに文芸誌の主座を占めるに至った。昭和に入ると、プロレタリア文学盛行のころには新感覚派、新興芸術派に誌面を割くことも多かったが、編集を担当した楢崎勤(ならさきつとむ)(1901―78)の「文壇の公器」という信念のもとに、党派に偏らず、川端康成(やすなり)・横光利一(よこみつりいち)・嘉村礒多(かむらいそた)・小林秀雄・堀辰雄(たつお)・宮嶋資夫(みやじますけお)・太宰治(だざいおさむ)・高見順らの作品を載せている。

 太平洋戦争末期の1945年3月休刊、終戦後の同年11月斎藤十一(じゅういち)(1914―2000)編集長、河盛好蔵(かわもりよしぞう)編集顧問で復刊。戦後のおもな作品には、石川淳(じゅん)『焼跡のイエス』、坂口安吾『堕落論』、平野謙『政治と文学』、太宰治『斜陽』、尾崎一雄『虫のいろいろ』、椎名麟三(しいなりんぞう)『自由の彼方(かなた)で』、川端康成『みづうみ』、幸田文(こうだあや)『流れる』、武田泰淳(たいじゅん)『ひかりごけ』、中野重治(しげはる)『梨(なし)の花』、伊藤整『氾濫(はんらん)』、大江健三郎『遅れてきた青年』、三島由紀夫『金閣寺』『豊饒(ほうじょう)の海』四部作、梅崎春生(うめざきはるお)『幻化(げんか)』、井伏鱒二(いぶせますじ)『黒い雨』、野上弥生子(やえこ)『森』、安岡章太郎『流離譚(りゅうりたん)』、評論では小林秀雄『本居宣長(もとおりのりなが)』、江藤淳(じゅん)『漱石(そうせき)とその時代』などがあり、そのほかにも島尾敏雄・安部公房(こうぼう)・北杜夫(もりお)・三浦哲郎(てつお)・河野多恵子・大庭みな子・津島佑子(ゆうこ)・筒井康隆(つついやすたか)・高樹(たかぎ)のぶ子・島田雅彦(まさひこ)・村上春樹・車谷長吉(くるまたにちょうきつ)など多彩な執筆陣が秀作を発表した。また、カミュ『異邦人』、カフカ『変身』の翻訳などをはじめ、広く世界の現代文学を積極的に紹介している。創刊以来、文壇の新傾向を機敏に取り入れつつも一傾向にとらわれない良識ある編集方針を貫き、1世紀に及ぶその歩みは日本の近代・現代文学の展開のうえできわめて大きな位置を占めている。

[田中夏美]

『新潮社出版部編『新潮社四十年』(1936・新潮社)』『新潮社編・刊『新潮社七十年』(1966)』『百目鬼恭三郎著『新潮社八十年小史』(1976)』『百目鬼恭三郎著『新潮社九十年史』(1986・新潮社)』『新潮社編・刊『新潮社100年図書総目録』『新潮社100年図書総目録・索引』(1996)』

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百科事典マイペディア 「新潮」の意味・わかりやすい解説

新潮【しんちょう】

文芸雑誌。佐藤義亮(ぎりょう)により1904年5月に創刊され現在に至っている。新潮社刊。佐藤は1896年,投稿専門の文芸雑誌《新声》を出し,明治30年代の文壇にしだいに影響力を増していったが,経営に失敗し,人手にわたった。ついで佐藤は新潮社をおこしてこの雑誌を創刊,折りから自然主義隆盛期で,真山青果らの創作,生田長江らの評論を掲載し,また中村武羅夫編集の《国木田独歩追悼号》が高い評価を得るなど,《早稲田文学》などと並んで文壇に重きをなした。ついでプロレタリア文学勃興(ぼっこう)期には新感覚派を重視し,また新興芸術派を支援,創作合評,海外文学紹介などでも貢献した。おもな掲載作品に,久保栄《火山灰地》,太宰治《斜陽》,三島由紀夫《金閣寺》などの創作や,中村武羅夫《誰だ? 花園を荒す者は!》,坂口安吾《堕落論》などの評論がある。日本を代表する文芸雑誌。

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改訂新版 世界大百科事典 「新潮」の意味・わかりやすい解説

新潮 (しんちょう)

文芸雑誌。1904年(明治37)5月創刊。1896年《新声》を発刊して明治30年代の文学に重要な役割を果たしながら,新声社の経営に失敗して挫折した佐藤義亮(ぎりよう)が,義弟中根駒十郎らの力をかりて新潮社をおこし,日露戦争下に新たに創刊したもの。初めは投書雑誌的傾向をもっていたが,佐藤紅緑や高須梅渓,田口掬汀(きくてい)ら《新声》以来の執筆者をはじめ,小栗風葉,真山青果,徳田秋声,上田敏,生田長江らが活躍した。創刊3周年記念号に真山の《南小泉村》が発表され高い世評をよんだ前後からしだいに精彩をはなち,1908年,入社後間もない中村武羅夫編集の《国木田独歩追悼号》の抜群のできばえが大きな反響をよび,《文章世界》《早稲田文学》と並ぶ文芸雑誌と目されるにいたった。以後大正・昭和にかけて〈甘言苦語〉〈人物月旦〉〈作家論特集〉〈創作合評〉〈文壇新潮〉など特色ある企画を掲げ,海外文学の紹介翻訳にも力をそそいだ。一党一派に偏しない編集をつらぬいて,文壇の大家,新人の秀作を多く発表し,日本近・現代文学の展開にきわめて大きな役割を果たした。太平洋戦争末期に一時休刊を余儀なくされたが,戦後いち早く復刊し,太宰治《斜陽》,三島由紀夫《金閣寺》《豊饒の海》,坂口安吾《堕落論》等々をはじめ,小林秀雄,伊藤整,中村光夫,河上徹太郎ら評論家も力作を発表し,多くの有力新人を世に送りだすなど,日本を代表する文芸雑誌の一つとして権威をもっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「新潮」の意味・わかりやすい解説

新潮
しんちょう

新潮社発行の文芸雑誌。 1904年5月創刊。文芸誌『新声』の失敗後佐藤義亮が義弟中根駒十郎の協力を得て発刊。投書雑誌的性格をとりながら,中村吉蔵,徳田秋声,佐藤紅緑,真山青果,小栗風葉,生田長江ら文学者が次第に参加,特に真山の活躍が自然主義文壇に迎えられ,また「国木田独歩追悼号」 (1908) 発刊などにより文芸誌としての地歩を確立,中村武羅夫を編集長として明治末,大正初頭には最有力の文芸誌にまで発展した。昭和前期は新興芸術派を重視,楢崎勤が編集の中心となった。第2次世界大戦後は海外文学の紹介に特色をみせたほか,不偏不党の立場で地味な努力を続け,日本における唯一の長命な文芸誌として現在にいたっている。

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普及版 字通 「新潮」の読み・字形・画数・意味

【新潮】しんちよう

さし潮。

字通「新」の項目を見る

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デジタル大辞泉プラス 「新潮」の解説

新潮

株式会社新潮社が発行する純文学の文芸誌。1904年創刊。月刊。

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