新しいことわざ

ことわざを知る辞典 「新しいことわざ」の解説

新しいことわざ

ことわざには、古くから言い習わされ、いまも使われるものもあれば、いつのまにか消えていくものもあります。また、まったく新しい表現がしだいに定着することもあります。「溺れる者は藁をもつかむ」などの西洋起源のことわざは、後者のわかりやすい例ですが、日本語の枠内でも、少しずつ新たなものが出てきています。ここでは、そのいくつかを紹介しながら、現代のことわざの発生するメカニズムについて考えてみましょう。

■一つ目は「熱いがごそう」。せっかく揚げ物などの熱い料理が出されても、話に夢中になったりアルコールを飲んでいて、なかなか箸をつけないのは、よくある光景です。そんなときは「熱いがご馳走(よ)」と一言そえると効果的でしょう。地味ですが洒落た表現で、なるほどと思わせるものがあり、料理関係者には一九八〇年代から知られていたようです。

■次に、七〇年代のテレビアニメから爆発的にひろまった「豚もおだてりゃ木に登る」。凡人もおだてられると、思ってもみなかった能力を発揮する意で、比喩的に使われています。表現に意外性があり、繰り返し放映されてイメージが浮かびやすく、子どもから浸透したようです。

■ちなみに、英語の新しいことわざ「タンゴを踊るには二人いる」(It takes two to tango.)は、二〇世紀半ばのポピュラーソングからひろまりました。恋人や夫婦の間の問題は一方だけの責任ではないという意で、背景には、ヨットもうたた寝も一人でできるけど、タンゴを踊るには……という、少しコミカルな歌詞がありました。

■最後に「津波てんでんこ」。津波のときは、てんでんに一刻も早く逃げろというもので、何度も津波に襲われてきた三陸の防災運動から生まれ、東日本大震災の後で全国的に広まったものです。悲劇を避けるために、みんなでという発想を転換し、方言を取り入れたシンプルな表現にことわざらしさが感じられます。

■以上の具体例を振り返ってみると、いずれも誰が言い出したかよくわかりませんが、多くの人が漠然と思っていることをはっきりことばに表して、共感を呼んでいます。また、その表現はごく簡潔で、伝統的なことわざに劣らず洗練されています。そして、その伝播にメディアが小さからぬ役割を果たしているところが現代的ですね。

 ことわざは滅びゆく一方ではなく、いまも新陳代謝を繰り返しているようです。

出典 ことわざを知る辞典ことわざを知る辞典について 情報

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