…日本のサイレント映画の最高峰に立つ不朽の名作と評価されている。《東京の合唱》(1931)に続いて,子もちの若いサラリーマン夫婦の家庭に題材をとった〈サラリーマン喜劇〉の1本で,小津的ナンセンス喜劇の一方の雄である斎藤達雄(1902‐68)の演ずる〈おとな〉の不自由な会社員生活と,小津喜劇とともに育った子役スター,突貫小僧の演ずる〈子ども〉の屈託のないいたずらの対照を通して,昭和初期の社会に差し始めた暗い影を軽妙さと深刻さの巧みなあんばいによって描く。1932年度キネマ旬報ベストテン第1位。…
…子どもっぽい正義感から失職したサラリーマン(岡田時彦)が妻(八雲恵美子)と2人の子どもをかかえて苦労するさまを描いた。〈小市民映画〉の最初の成功作で,冒頭に田舎で過ごした中学時代の挿話を置き,その時の教師(斎藤達雄)が東京でカレーライス屋を開いていて,主人公一家の窮状を救うという構成は,同級生の交歓(このカレー屋で先生を囲んでクラス会が開かれる)という主題とともに,中期の小津作品が完成に近づいたことを示している。娘(子役時代の高峰秀子)の入院という悲痛な場面と,彼女の口の中から丸薬を戻してのみこんでしまう兄(菅原秀雄)といった爆笑ギャグの取合せが,小津独特の魅惑的な語り口となっており,翌年の傑作《生れてはみたけれど》を予告するすべての要素が出そろった記念すべき佳作といえる。…
※「斎藤達雄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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