文無(読み)あやない

精選版 日本国語大辞典 「文無」の意味・読み・例文・類語

あや‐な・い【文無】

〘形口〙 あやな・し 〘形ク〙
① 筋が通らない。理屈に合わない。不条理なことである。無法である。
古今(905‐914)春上・四一「春の夜のやみはあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる〈凡河内躬恒〉」
※増鏡(1368‐76頃)二「いかでか三皇今上あまたおはします都の、いたづらに亡ぶるやうはあらんと、頼もしくこそ覚えしに、かくいとあやなきわざの出で来ぬるは」
② そうする理由がない。そうなる根拠がない。いわれがない。
※古今(905‐914)恋一・四七七「知る知らぬなにかあやなくわきていはん思ひのみこそしるべなりけれ〈よみ人しらず〉」
うたたね(1240頃)「憂きを忘るるたよりもやと、あやなく思ひ立ちぬ」
③ 無意味である。あっても意味がない。かいがない。とるにたりない。
※後撰(951‐953頃)恋二・六二三「思へどもあやなしとのみ言はるればよるの錦の心ちこそすれ〈よみ人しらず〉」
源氏(1001‐14頃)明石「さすがに、心とどめて恨み給へりし折々、などて、あやなきすさび事につけても、さ思はれ奉りけむ」
④ 物の判別もつかない。あやめもわからない。不分明である。
浄瑠璃・八百屋お七(1731頃か)下「向ふの方より久兵へは歎きにかるい思ひとも、いづれあやなししばらくも宿に独はいられづと」
⑤ (副詞的に用いて) あっけないさま。
※幸若・つるき讚談(室町末‐近世初)「かくあやなくもわかれておもひをせむとしらずや」
[語誌](1)会話文に用いられる場合、女性が話者であることはないという。女性の語としては、和歌の中で機知をきかせるのに留まったようである。
(2)和語として上代用例が見いだせないのは、漢語に由来する可能性を示唆するとも考えられる。「本朝文粋‐三・立神祠〈三善清行〉」に「無文之秩紛然」とあり、この「無文」は形容詞「あやなし」の語義に近いものがある。
あやな‐さ
〘名〙

もん‐なし【文無】

〘名〙
① (形動) (「いちもんなし(一文無)」の略) 所持金がまったくないこと。また、そのさま。
※歌舞伎・日月星享和政談(延命院)(1878)六幕「文(モン)なしでは仕様がねえ」
② 並みはずれて大きい足袋。一二文より大きい足袋。

あや‐な【文無】

(形容詞「あやない」の語幹) あやないと感じること。多く感動表現に用いられる。
※古今(905‐914)春下・一二三「山吹はあやなな咲きそ花見んと植ゑけん君がこよひこなくに〈よみ人しらず〉」
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)道行「あやなやきのふけふ迄も、よそにいひしが明日よりは」

あや‐な・し【文無】

〘形ク〙 ⇒あやない(文無)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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