日本大百科全書(ニッポニカ) 「整形外科」の意味・わかりやすい解説
整形外科
せいけいげか
orthopedics
臨床医学の専門分科の一つ。姿勢の保持と身体運動にかかわる器官、すなわち脊柱(せきちゅう)、四肢の骨、関節、筋肉系の疾患を取り扱う。整形外科という名称は、1741年にパリ大学医学部長で内科医のアンドレNicolas André(1658―1742)が『L'Orthopédie』という著作を公にしたときに始まる。このなかでアンドレは「小児の身体の変形を予防し矯正する技術」と定義している。その後、麻酔法、無菌法、X線の発達などに伴って外科的治療を積極的に応用し、とくに第一次世界大戦後に急速な発展を遂げた。
日本では、8世紀初頭の大宝律令(りつりょう)で身分階級が定められた按摩(あんま)師・按摩生が、四肢の外傷や疼痛(とうつう)の治療を行っていた。また、江戸後期の医学者各務文献(かがみぶんけん)(1765―1829)は1810年(文化7)に『整骨新書』を著した。1874年(明治7)に大学でドイツ学派の医学が採用されるまでのいわゆる正骨科は、非医師である接骨師に受け継がれた。
1906年(明治39)に東京帝国大学医科大学に初めて整形外科学講座が設けられたが、そのときの初代教授田代義徳(たしろよしのり)(1864―1938)により、ドイツ語のOrthopädieが初めて「整形外科」と訳された。第二次世界大戦後にはアメリカの整形外科も多く採用され、また全国の各医科大学に整形外科が設けられるに至り、多くの整形外科専門医が育成されて普及した。
整形外科の領域としては、主として四肢や体幹の各種疾患と外傷が対象となる。すなわち、骨、関節、筋肉、腱(けん)、靭帯(じんたい)の運動器官をはじめ、それらを支配する血管、脊髄、末梢(まっしょう)神経の奇形、変形、炎症、腫瘍(しゅよう)、代謝疾患などの諸疾患、および骨折、脱臼(だっきゅう)、捻挫(ねんざ)、断裂、挫傷(ざしょう)などの外傷の病理を追究し、それらの診断と治療を行っている。また、運動器官の機能障害を回復させ、社会生活へ復帰させることを最終目的とするので、リハビリテーション医学と密接な関係がある。
なお、主として身体表層の形態異常を対象とする形成外科は、当初に成形外科とよばれたことから一般に混同されやすい。
[永井 隆]