教行信証(読み)きょうぎょうしんしょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「教行信証」の意味・わかりやすい解説

教行信証
きょうぎょうしんしょう

鎌倉初期の仏教書。親鸞(しんらん)の著。1224年(元仁1)成立とする説など多くの説があるが、弟子尊蓮(そんれん)の書写をいちおうのめどとすれば、1247年(宝治1)にはできあがっていたとみられる。この書は、教、行、信、証、真仏土(しんぶつど)、化身土(けしんど)の6巻からなる。初めに総序を置いて阿弥陀仏(あみだぶつ)の絶対他力を論じ、信巻にも序を設けて信の重要性を示し、最後の結びに後序を記して法然(ほうねん)(源空)門下の罪科に処せられたことや、師法然より受けた恩恕(おんじょ)などに触れている。彼はこの書においてまず浄土(じょうど)に往生(おうじょう)する往相(おうそう)も、浄土よりこの土に帰って世の人に救いを与える還相(げんそう)も、ともに仏の本願力の回向(えこう)によると断じた。したがって、教えも念仏信心も悟りもすべて仏よりの回向によることを経典や論疏(ろんしょ)などに証拠を求めて論証しているが、とくに疑心の混じらない真実の信心によって、これを浄土往来の正因(しょういん)とした。ついで、さとりの果(か)としての真実の仏とその浄土を説明し、さらに、これに真、化があるとして、その化身土にも仏の救いがあることを示した。この書は親鸞鏤骨(るこつ)の書で、親鸞の宗教の骨髄であるから、浄土真宗においては立教開宗の書とされるのも当然である。

[石田瑞麿]

『『日本思想大系11 親鸞』(1971・岩波書店)』『石田瑞麿著『注訳親鸞全集 教行信証』上下(1976、79・春秋社)』


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「教行信証」の意味・わかりやすい解説

教行信証
きょうぎょうしんしょう

親鸞著書。6巻。正しくは『顕浄土真実教行証文類』。『教行信証』と略称されるようになったのは,親鸞の曾孫の本願寺第3世覚如からのようである。著作年代には,越後時代,関東時代,帰洛時代など諸説があるが,関東時代の元仁1 (1224) 年 (親鸞 52歳) 頃には,一応脱稿していたようである。しかし,親鸞が死ぬまで補訂しており,未完成の書といえる。親鸞真筆の国宝,坂東本『教行信証』 (真宗大谷派本願寺) は草稿本であって,初稿本ではない。教,行,信,証,真仏土,化真土の6巻から成る。多くの経典や論書,釈書などからの引用をもとに,親鸞みずからの信仰と思想とを体系的に論じたものといえよう。親鸞は本書序文で念仏の信仰を得たことを喜び,嘆じるのであるといっているが,題号にもいっているように,真実を開顕しようという意図もあったことは疑えないであろう。浄土真宗では立教開宗の聖典としている。中央でなく辺境東国で一応脱稿したというところに,日本の宗教,文化史上,独自の位置にある。

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百科事典マイペディア 「教行信証」の意味・わかりやすい解説

教行信証【きょうぎょうしんしょう】

親鸞(しんらん)著。6巻。正称《顕浄土真実教行証文類》が示すように,広く経論(きょうろん)などの文証(もんしょう)を引いて,独自の,本願他力回向(えこう)の念仏を明らかにした。《大無量寿経》を浄土往生を説く代表作とし,特に阿弥陀仏を信ずる信心を往生の正因としたことに特色がある。浄土に真仮を立て,他力に自力・他力を分けて絶対他力の念仏を強調した。
→関連項目正信偈浄土真宗

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精選版 日本国語大辞典 「教行信証」の意味・読み・例文・類語

きょうぎょうしんしょう ケウギャウシンショウ【教行信証】

鎌倉前期の仏書。六巻。親鸞著。正称「顕浄土真実教行証文類」。元仁元年(一二二四)の成立とされる。浄土真宗の根本聖典。教、行、信、証、真仏土の五巻で、諸教典や高僧解釈集積、検討して、自己の教義を明らかにし、第六巻の化身土で、方便教を説いたもの。

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デジタル大辞泉 「教行信証」の意味・読み・例文・類語

きょうぎょうしんしょう〔ケウギヤウシンシヨウ〕【教行信証】

鎌倉前期の仏教書。親鸞しんらん撰。6巻。広く経典や解釈論の中から念仏往生の要文を抜粋・編集し、浄土真宗の教義を組織体系化した書。すべてを阿弥陀仏回向えこうの働きと捉え、信心に中心を置いて説く。顕浄土真実教行証文類。

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旺文社日本史事典 三訂版 「教行信証」の解説

教行信証
きょうぎょうしんしょう

鎌倉中期,親鸞の著書。浄土真宗の根本聖典
正しくは『顕浄土真実教行証文類』という。1224年成立と伝えられるが不明。6巻。教・行・信・証・真仏土・化身土の6部からなり,他力本願極楽往生を説いたもの。

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世界大百科事典 第2版 「教行信証」の意味・わかりやすい解説

きょうぎょうしんしょう【教行信証】

浄土真宗の開祖親鸞の主著。くわしくは《顕浄土真実教行証文類》。教・行・信・証・真仏土・化身土の6巻で構成されている。釈尊の経典やインド,中国,日本の高僧たちの著書から,浄土に生まれる教えとその修行法を明らかにした部分をぬきだして類別したもので,著述年時は不明。第6巻目の末法年時計算の基準に元仁元年(1224。親鸞52歳)をおくところから,これを著述の年にあてる説もある。本書は親鸞が東国伝道のとき,身辺に持ち,たえず訂正を加えていたようで,その一応の完成は京都に帰って以後,1247年(宝治1)ごろであろう。

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世界大百科事典内の教行信証の言及

【親鸞】より

…そしてまた法然の,現世を過ごすには念仏の妨げとなるものはすべて捨てさるべきであり,聖であって念仏ができなければ妻帯し,妻帯して念仏ができないなれば聖になって念仏せよとの意向によるものでもあった。流罪に関して,親鸞は後年《教行信証(きようぎようしんしよう)》に〈真宗興隆の大祖源空法師ならびに門徒数輩,罪科を考えず猥しく死罪に坐す。或は僧儀を改め姓名を賜うて流罪に処す。…

※「教行信証」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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