日本大百科全書(ニッポニカ) 「教皇庁」の意味・わかりやすい解説
教皇庁
きょうこうちょう
Curia Romana ラテン語
Roman Curia 英語
Apostolic See 英語
法王庁、聖庁ともいう。カトリック教会の首長たるローマ教皇を補佐して、全カトリック教会を統治する中央機関。同時にバチカン市国の行政府でもある。
その起源は、ローマ在住の聖職者のなかから教皇の補佐役が選ばれたところにあり、やがて11世紀にはその役割は枢機卿(すうききょう)が担うところとなった。この枢機卿会の権限や規則が明確化され、教会統治のための諸機関が設けられたところに、現在の教皇庁の原型が形成された。とくに16世紀のシクストゥス5世による組織の整備は教皇庁の発展史上重要であり、そこで定められた枢機卿を長とする聖省の制度は、その後長い間、基本的機構として保たれてきた。20世紀初頭のピウス10世による改組は、聖省を整理統合し、裁判所と事務局を整理するもので、1917年の教会法典により確認され、その後の半世紀間の基本線を定めた。第二バチカン公会議後の1967年にはパウルス6世(パウロ6世)により機構が「現代化」され、さらにヨハネ・パウロ2世(ヨハネス・パウルス2世)による改組により、次のような機構となった。
[梅津尚志]
国務省
従来は諸官署の末尾に位置づけられていたものであるが、パウルス6世の改革により教皇庁機構の筆頭にあげられ、1988年以降は内部を総務局と外務局に分けた。省の長は国務長官枢機卿であり、その任務は、教皇の意を体して教皇庁全機構を統率することにあり、また外交関係もつかさどる。
[梅津尚志]
省
枢機卿を長官とする次の9省が中央行政機関として置かれている。(1)教理省(従来の検邪聖省にあたるが、その任務の重点は、異説・異端の審査から信仰の奨励へと移されている)。(2)東方教会省。(3)司教省(従来の教区聖省、枢機卿会議聖省にあたる)。(4)典礼・秘蹟(ひせき)省(典礼、秘蹟の2省が合併して成立した)。(5)列聖省。(6)聖職者省(従来の公会議聖省にあたる)。(7)奉献・使徒的生活会省。(8)教育省。(9)福音宣教省。
[梅津尚志]
裁判所
最高の裁判権を有する教皇を補佐するものとして、最高裁判所、控訴院(ロータ)、内赦(ないしゃ)院が置かれる。
[梅津尚志]
事務局
秘書局としての実務を担当する諸官署のうち、従来の尚書院、掌璽(しょうじ)院は廃止され、1988年以降は財務局、会計局(教皇空位期間事務局)、管財局が設置されている。
これらの諸部門のほかに、新たに評議会として、信徒評議会、キリスト教一致推進評議会、諸宗教評議会、正義と平和評議会、家庭評議会、開発援助促進評議会、移住・移動者司牧評議会、医療使徒職評議会、法文解釈評議会、文化評議会、広報評議会が設置され、時代の要請にこたえようとする教会の姿勢を示している。
[梅津尚志]
『P・プパール著、小波好子訳『バチカン市国』(1979・中央出版社)』▽『上智学院新カトリック大事典編纂委員会編『新カトリック大事典』(1996~・研究社)』▽『マシュー・バンソン著、長崎恵子・長崎麻子訳『ローマ教皇事典』(2000・三交社)』