教会史(読み)きょうかいし

改訂新版 世界大百科事典 「教会史」の意味・わかりやすい解説

教会史 (きょうかいし)

教会史学とも称し,キリストが創立した教会の歴史の中での内的外的な歩みを,史学的神学的観点より把握し考究する学問をいう。歴史の中での神の働きと人間の信仰・救済体験とを重視する新約聖書の中に,すでに教会史への関心が芽生えているが,2世紀には,教会を異端から守る必要性もあって,使徒時代の伝承要点が書き留められ,歴代司教の目録や教会の年代記が作成されはじめた。やがて〈教会史の父〉と称されるカエサレアのエウセビオスが,広範な史料の収集検討後,325年までの《教会史》10巻をローマ皇帝史と関連させて詳述。彼の後を受けて,ギリシア語圏でもラテン語圏でも,教会と国家を重ねて眺める同様の年代史作成が続けられた。アウグスティヌスはこれに対し,国家と対峙する教会像を,《神の国》の中で歴史的に描写した。中世前期には教会の全体像が薄れ,まず個々の民族,修道院司教区等の年代史が作成されたが,11世紀以降の各種改革運動が教会全体の実態とあるべき姿とに対する関心を高めると,教会全体の年代史も作成された。フライジングオットーは,アウグスティヌスの《神の国》に似た立場から《両国史》8巻を書き,中世的教会観からの脱皮を望む15~16世紀の人文主義者らは,種々の批判的教会史研究を著した。プロテスタントのフラキウス・イリュリクスMatthias Flacius Illyricus(1520-75)は,これをさらに進めて,古代教会の伝統を継承しているのがルター派であることを立証する著作に努めた。しかしカトリックのバロニウスCaesar Baronius(1538-1607)は,いっそう多くの史料による総合的研究に基づいて,1198年までの《教会年譜》12巻を公刊し,この見解を反駁した。

 学術的教会年譜の作成は,その後他の歴史家によって継続され,教会史への新たな興味を喚起したので,17~18世紀には,イエズス会のボランドゥス学派やベネディクト会のマウリーニ学派らによる膨大な年譜が作成され,数多くの教会史家が輩出した。古代,中世の年代史家chroniclerが多少自分の見解を入れたのに比べ,16世紀以来の年譜作者annalistは,史実にできるだけ忠実であろうとする客観性を重視した。マビヨンJean Mabillon(1632-1707)らのマウリーニ学派により古文字学,古文書学,年代学も創始され,膨大な教会保管文書の組織的研究が進められたが,これらの研究を土台にして19世紀前半のドイツには,チュービンゲン大学のメーラーJohann Adam Möhler(1796-1838)らを中心として,一種の歴史神学や教会論が盛んになった。しかし,教皇庁が新スコラ学を支持してこれを危険視したため,この流れはプロテスタント側に受けつがれ,各研究者の多少主観的観点からの教会史解釈が20世紀前半まで流行した。20世紀中葉以降は,神学界の新動向と並行して,教会史学の使命もいっそう明確に自覚されてきている。それによると,教会史学は一般史学とまったく同様の研究方法を手段としているが,同時に,教会とは何かを経験的aposteriori,実証的に考究する神学的学問であり,従来の教理神学とは対照的に異なる側面から教会論を形成発展させる,一種の歴史神学をも包含している。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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