政治的無関心(読み)せいじてきむかんしん(英語表記)political apathy

精選版 日本国語大辞典 「政治的無関心」の意味・読み・例文・類語

せいじてき‐むかんしん セイヂテキムクヮンシン【政治的無関心】

〘名〙 政治権力やその象徴に対して、積極的な忠誠を尽くすのでもなく、また、とくに反抗も示さないような態度ないし状況。ノンポリ。〔国民百科新語辞典(1934)〕

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デジタル大辞泉 「政治的無関心」の意味・読み・例文・類語

せいじてき‐むかんしん〔セイヂテキムクワンシン〕【政治的無関心】

政治に対して関心がないこと。また、その状態。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「政治的無関心」の意味・わかりやすい解説

政治的無関心
せいじてきむかんしん
political apathy

無関心アパシーapathy)とは、元来精神分析学の用語で、その対象に対して強い欲求をもちながら充足されないために、かえって対象に対する関心を失うことによって精神的不安定を解消しようとする心理的メカニズムの一つをさす。政治的無関心とは、現代社会において、政治に対するさまざまな要求が達成されず、政治的無力感不信感に陥り、政治への関心を失ってしまった人々のことをさす。近代以前の社会においては、社会の成員の多くはもっぱら統治の対象としてのみ取り扱われ、政治的意思決定から排除されていた。このような生活に慣れて、政治は「お上」の仕事と考え、政治参加への意欲も関心ももたない人々の政治的無関心=indifferenceを伝統的政治的無関心とよぶ。現代社会は、このような伝統的無関心ばかりではなく、政治的無力感や不信感に起因する現代的無関心層増大によって特色づけられる。

 現代社会においては、不況インフレーションなど経済的危機到来や、戦争の脅威や平和の危機が迫った場合、人々の政治的関心はにわかに高まる。しかし、平和と経済的繁栄の下では、人々の関心は多様化し、相対的に政治的関心は低下してくる。政治的知識をもちながら、ほかに関心を奪われて政治的関心を示さない無関心層が増えてくる。政治を自分が主体的に参加すべき対象とせず、自分自身を政治の圏外に置いて、単なるゲームの観客としてこれを楽しむといった態度も現代の特色の一つである。

 最近のわが国では、大都市の20代の若者において、政治的アパシーや単純な政治的無関心層が急速に増大している。これら無関心層は、選挙直前に政治指導者の腐敗が暴露されるといった事件が生じたり、選挙戦中に総理大臣が急逝するといった政治的危機に臨むと、にわかに投票に出動する。また、その選挙区が有力候補者のひしめき合う激戦区であるといった、選挙の劇的性格が強い場合にも、投票率は高まる。いわゆるイメージ選挙によって影響を受けやすいのもこの層である。これら無関心層が投票に出かけるか否かによって選挙結果が左右され、当落が逆転するというキャスティング・ボートを握っているという点で、これら無関心層の存在は現代政治における大きな不安定要因になっているといってよい。

[堀江 湛]

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改訂新版 世界大百科事典 「政治的無関心」の意味・わかりやすい解説

政治的無関心 (せいじてきむかんしん)
political apathy

広く政治上の問題や政治的活動一般に対する無関心な態度を指し,アパシーapathyともいう。このような態度は,行動の面では政治参加への消極性,選挙における棄権,政治的情報獲得への消極性などとして現れてくる。現代民主制が国民による選挙を前提としている以上,棄権の問題は重要であり,政治的無関心が棄権の原因として論じられることが多い。政治的無関心にはいくつかの類型がある。

 まず,近代以前の伝統的社会においては,政治は少数の支配者層だけのものであり,一般民衆は政治に参加する機会がなかった。ここに生ずる〈伝統型無関心〉は,政治とは無縁の生活感覚であり,政治は他人の仕事であるという意識である。近代以降の社会では選挙権が拡大し,国民の政治参加が保障されることになるから,伝統型無関心は姿を消す。しかしながら,個人にとって政治は中心的な関心事とはなりにくく,〈素朴型無関心〉が生じる余地がある。すなわち,生活のための職業や専門が個人のもっとも重要な関心事であるため,政治は周辺的な事柄でしかないわけである。この型の無関心は,したがって,伝統型無関心と類似した側面をもっている。現代社会における無関心は,さらに複雑な〈屈折型無関心〉をも生じている。政治に対する関心はあり,政治的問題に関する知識も備えており,また,政治参加に対する市民的義務感をもっていながら,なお政治に背を向け,政治に参加しようとしない無関心である。この背景には,政治参加することに意味を見いだせず,大衆社会の中で政治に影響を及ぼせないという無力感があり,巨大化した官僚組織や政治制度そのものに対する不信感と焦燥感がある。屈折型無関心はこのような政治不信によって生じたものであり,政治体制の安定にとっては危険な要素をはらんでいる。
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百科事典マイペディア 「政治的無関心」の意味・わかりやすい解説

政治的無関心【せいじてきむかんしん】

政治に対して興味・関心を持たないこと。ただし,これにはいくつかの類型がある。第一に,政治についての知識や情報を持たないことからくる〈伝統的無関心〉。近代社会以前には一般的にみられたが,現代では社会参加から疎外された底辺層などの一部にみられる程度。第二は〈選択的無関心〉で,政治以外のものに価値を見出すか,または政治に背を向ける積極的な無関心。個人活動の自由を原則とする近代社会以降にみられるタイプ。第三は,現代にもっとも広範にみられる〈現代的無関心〉。これは,社会が高度に組織化・管理化され,政治も複雑化・専門化した巨大なメカニズムを形成しているため,国民一般の興味や関心を引きにくいものとなってしまったことが原因とされる。〈現代的無関心〉の典型が政治的アパシー(無感動)といわれる態度で,その特徴は政治についての主体的行動を起こす実践的能力を失っていることにある。その一方で,高学歴化,情報化により人々の政治意識はかなり高く,そうした人々の多くがいわゆる無党派層を形成している。
→関連項目福祉国家

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「政治的無関心」の意味・わかりやすい解説

政治的無関心
せいじてきむかんしん
political apathy

政治的な現象に対する一般国民の関心が低いこと。一般には「政治意識が低い」という表現が用いられるが,そこで意味しているものはほぼ国民や有権者の政治的無関心さである。政治学的にとらえると,人々の政治についての関心度が低く,政治過程に参加する意欲が低いことを意味する。したがって,政治的無関心は民主主義の基礎となる市民の政治参加を低下させる原因であり,問題となる。 19世紀においては,自由民主主義理論では教育が普及し選挙権が拡大していけば,あるいは社会主義理論では階級意識が一般国民に自覚されていけば,政治的無関心は自然に消えるはずであると考えられていた。しかし現実には,20世紀に入って現代大衆社会の出現で個々の人間の匿名性が高まり,一個人の政治への影響力の相対的低下の結果,政治的無関心は逆に増加して (高学歴層においても政治的無関心は増加した) ,今日では民主主義の一つのパラドックスとなっている。 (→アパシー )  

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