〘他タ五(四)〙
① くっついている状態のものを、解いて分ける。その対象から引きはなす。はなす。
※東大寺本成実論天長五年点(828)一二「鉾をすてて手より離(ハナツ)が如し」
※源氏(1001‐14頃)須磨「御衣はまことに身はなたずかたはらに置き給へり」
② 人や物などを、
一定の場所や位置などから遠ざける。引きはなす。はなす。
(イ) 離れた別の場所に行かせる。遠い地域や地方などへやる。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「兵衛の尉賜はり給て、あて宮を呼びはなち奉り給て」
(ロ) 遠ざける。見捨てる。近くにあることを嫌って引きはなす。
※源氏(1001‐14頃)夕霧「なほ近くて、なはなち給ひそ、かく山深く分け入る志は隔て残るべくやは」
(ハ) 放置する。はなれたままの状態にしておく。放っておく。
※源氏(1001‐14頃)宿木「さらにかかる消息あるべき所にもあらずと宣はせはなちければ、かひなくてなん嘆き侍りける」
(ニ) 捕えられたり、つながれたりしている動物などを自由にしてやる。逃がす。
※万葉(8C後)三・三二七「わたつみの沖に持ち行きて放(はなつ)ともうれむそこれがよみがへりなむ」
※宇治拾遺(1221頃)一三「童部に打せずして、
賀茂川にはなちてよ」
(ホ) 追放する。流罪に処する。
※宇治拾遺(1221頃)一三「他国の聖なり、すみやかに追ひはなつべしと仰ければはなちつ」
※あさぢが露(13C後)「さやうの方の痴(し)れがましさに蔵人もはなたれて、浅ましく身まづしくて」
(ト) 相手に渡す。売り払う。手放す。
※源氏(1001‐14頃)蓬生「この受領どもの面白き家作り好むが、此の宮の木立を心につけて、はなち給はせてむや」
③ 人や物などが、元の
地点や位置などから、一定の方向に向かって離れていくよ
うに、または広がっていくようにする。はなす。
(イ) 人などを送り出す。派遣する。「
刺客をはなつ」
※大唐西域記長寛元年点(1163)七「
(かりびと)を縦
(ハナチ)矢を飛す」
※万葉(8C後)一三・三三〇二「
梓弓 弓腹
(ゆばら) 振り起こし しのぎ羽を 二つ手挟み 離
(はなち)けむ 人し悔しも」
(ハ) 息やことば、また、音・光・においなどを発する。
※仏足石歌(753頃)「この御足跡(あと)八万光を波奈知(ハナチ)出だし」
※他人の顔(1964)〈
安部公房〉灰色のノート「急に熟れすぎた
納豆のような刺戟臭をはなち」
(ニ) 火をつける。放火する。
※法華義疏紙背和訓(928頃か)「失(ハナツ)火」
(ホ) 文書などを発行する。
※根津美術館所蔵文書‐永承二年(1047)一〇月二七日・高橋世犬丸田地売券「仍注二事状一。放二券文一如レ件、以解」
④ 開放されたような状態に変化させる。開いた状態にする。
(イ) 閉じられている戸などをあける。刀などを抜く。「あく」「抜く」などに比べて、十分にあける、広くあけはなす、
人目によく見えるように抜く、などの意を表わす。
※
蜻蛉(974頃)下「皆人も起きて
格子はなちなどすれば」
(ロ) 花を開く。
⑤ 取り払う。こわす。
※
古事記(712)上「天照大御神の営田
(つくだ)の畔
(あ)を離
(はなち)、其の溝を埋め」
※源氏(1001‐14頃)橋姫「
小侍従と弁とはなちて、また知る人侍らじ」