放浪記(読み)ほうろうき

精選版 日本国語大辞典 「放浪記」の意味・読み・例文・類語

ほうろうき ハウラウ‥【放浪記】

小説。林芙美子作。昭和三~四年(一九二八‐二九)第一部発表。三部にわたる。主人公「私」が貧しい宿命的な放浪生活の中で、たくましく生きていく姿を日記体で描いた自伝的小説。作者出世作

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デジタル大辞泉 「放浪記」の意味・読み・例文・類語

ほうろうき〔ハウラウキ〕【放浪記】

林芙美子の自伝的小説。第一次大戦後の東京で、職を転々としながらもたくましく生きる女の姿を描く。昭和3年(1928)から昭和5年(1930)にかけて「女人芸術」誌上で発表。映画化舞台化もされた。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「放浪記」の意味・わかりやすい解説

放浪記
ほうろうき

林芙美子(ふみこ)の小説。1928年(昭和3)8月から29年にかけ『女人(にょにん)芸術』に6回連載。30年改造社から「新鋭文学叢書(そうしょ)」の一冊として出版、ベストセラーとなったため同年同社から第二部『続放浪記』出版。第二次世界大戦後、発禁を恐れて未発表であった部分を、47~48年『日本小説』に第三部として断続連載、完全なものとなった。49年『放浪記―第三部』留女(るめ)書店刊。ノルウェー作家クヌート・ハムスンの『飢え』(1890)に触発されて書きためた日記をもとにした、半自伝的青春小説で出世作。ふるさとをもたない少女期の回想を序に置いて、女学校を終え上京以後、結婚に落ち着くまでの4、5年間の放浪生活、すなわち職を転々とし、捨てられる同棲(どうせい)を繰り返し、都会の底辺をはい回る主人公の姿を、詩を含む日記体で生き生きと描く。世界的不況の時代、主人公のアナーキーな自由が虚無に陥らず、貧困や屈辱にめげず、母への絆(きずな)、人間への信頼、文学への夢を失わない、明るい世界となっている。

[橋詰静子]

『『新版放浪記』(新潮文庫)』『板垣直子著『林芙美子』(1956・東京ライフ社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「放浪記」の意味・わかりやすい解説

放浪記 (ほうろうき)

林芙美子長編小説。1928-29年(昭和3-4),《女人芸術》に連載。30年に改造社から刊行され,ベストセラーとなる。作者の半自叙伝ともいうべき作品行商人の父母に連れられ,幼時から木賃宿を転々としていた少女が上京して,女中・露天商・女工・カフェーの女給などをしながら,貧苦や屈辱に耐えてけなげに生きる姿を日記体の文章で綴ったもの。自伝的とはいえ事実そのままではなく,想像力が十分に生かされ,作の真実性を深めている。不況の昭和初頭の街々や,当時はやったカフェーの雰囲気とか女給の生活が活写される。放浪生活の苦しさを扱いながらも,生への明るい期待に満ちた作となっている。
執筆者:

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知恵蔵mini 「放浪記」の解説

放浪記

作家・林芙美子による自伝的小説。作者の日記を元にその放浪的生活を書いたもので、1928年~30年「女人藝術」に連載され、30年に初版が改造社より発行された。同年中に『続放浪記』も同社より刊行され、好評を博した。戦中戦後の混乱期を挟み、49年に『放浪記第三部』(留女書店)が刊行された。79年には、これら全てを含めた『新版 放浪記』(新潮社)が刊行され、これが実質上の定本となった。また、35年、54年、62年と3度にわたり映画化されており、高峰秀子主演の62年版が広く知られている。女優・森光子(故人)が61年に主役で初演した舞台版「放浪記」は、同一主演者により2009年まで2017回の上演を記録した。以後6年間上演されなかったが、15年の秋~冬に女優・仲間由紀恵の主演により公演再開されることが、14年10月、東宝株式会社より発表された。

(2014-10-14)

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百科事典マイペディア 「放浪記」の意味・わかりやすい解説

放浪記【ほうろうき】

林芙美子の長編小説。1928年から雑誌《女人芸術》などに断続して発表。行商人の父母に連れられて木賃宿を転々としていた少女時代,上京後,露天商,女工,カフェーの女給をしながら生きた生活を日記体で描いた自伝的作品で,作者の出世作となった。
→関連項目女人芸術

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デジタル大辞泉プラス 「放浪記」の解説

放浪記

①林芙美子の長編小説。1928年~1930年発表。
②1962年公開の日本映画。①を原作とする。監督:成瀬巳喜男、脚色:井手俊郎、田中澄江、撮影:安本淳。出演:高峰秀子、田中絹代、加東大介、仲谷昇、宝田明、伊藤雄之助、加藤武ほか。
③TBS系列放映による日本の昼帯ドラマ。花王愛の劇場。①を原作とする。1974年1~3月放映(全40回)。出演:樫山文枝ほか。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「放浪記」の意味・わかりやすい解説

放浪記
ほうろうき

林芙美子の長編小説。第1部,第2部は 1928~30年発表。第3部は発禁を恐れてみずから削除した部分で 47~48年発表。半自伝体の作品で,若く貧しい女がひたむきに生きようとする姿を,散文詩に近い文体にたくまぬユーモアを交えて日記体で描き,爆発的な好評を博した作者の出世作。

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