支配人(読み)しはいにん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「支配人」の意味・わかりやすい解説

支配人
しはいにん

商人・会社によって選任され、営業主・会社にかわりその営業(事業)に関するいっさいの裁判上・裁判外の行為をなす権限を有する商業使用人商法20条・21条、会社法10条・11条)。支配人は営業主や会社の営業(事業)全般にわたる包括的な代理権支配権)を有する者であり、その名称のいかんを問わない。なお、支配人でもないのに、支店長・支社長など営業所や会社の本店または支店の事業の主任者であることを示す名称をつけられた者は、取引上、支配人と同一の権限があるものとみなされ(商法24条、会社法13条)、善意相手方の保護が図られている(表見支配人)。支配人は営業主である商人や会社が選任するが、会社にあっては、取締役の過半数の決議が必要である(会社法348条2項・3項1号)。その選任および代理権の消滅は登記事項である(同法918条)。支配人の代理権は広範かつ強力なもので、営業主や会社がこれに制限を加えても善意の第三者に対抗できない不可制限的なものである(商法21条3項、会社法11条3項)うえに、支配人は営業上の秘密にわたる事項にも通じているから、営業主や会社のために全力を尽くすとともに、営業主や会社との間に競業関係が発生するのを防止するために支配人には重い義務が課せられている(商法23条1項、会社法12条1項)。これに違反すれば、営業主や会社は支配人の解任、損害賠償の請求のほか、競業避止義務違反の場合は、それを理由に、当該行為によって支配人または第三者が得る利益の額を、営業主や会社に生じた損害の額と推定する(商法23条2項、会社法12条2項)。

[戸田修三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「支配人」の意味・わかりやすい解説

支配人
しはいにん
Prokurist; manager

営業主がもつ営業に関する一切の権限を与えられた商業使用人。営業主は特定営業所における営業のために支配人を選任して,これに営業に関する一切の裁判上,裁判外の行為をなす代理権を与えることができるが,この代理権(支配権)は包括的なもので営業主がこれを制限しても善意の第三者に対抗できない(商法21条1,3項,会社法11条1,3項)。また,支配人でないのに支店長や支社長など本店または支店の営業の主任者であることを示す名称をつけられた商業使用人を表見支配人という。商法・会社法は表見支配人につきこれを支配人と誤認する取り引きの相手方を保護するために,相手方が悪意の場合を除き,その営業所の営業に関する裁判外の行為について支配人と同一の権限を有するものとみなしている(商法24,会社法13)。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

精選版 日本国語大辞典 「支配人」の意味・読み・例文・類語

しはい‐にん【支配人】

〘名〙
① 主人に代わって営業に関する一切のことを受け持ち、また雇用人についての権限をもつもの。番頭マネージャー
※雑俳・柳多留‐一〇(1775)「後家の琴ゑんりょなさいと支配人」
② 主人に代わり、その営業に関する一切の裁判上、または裁判外の行為について代理権をもつ商業使用人。
※会社弁(1871)〈福地桜痴〉諸会社取建の手続大要「此取扱人は数人ありて、此内より又慥なる人物一人を撰む之を会社の支配人と唱ふ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

百科事典マイペディア 「支配人」の意味・わかりやすい解説

支配人【しはいにん】

本店または支店で営業主に代わり一切の行為をなす代理権を与えられた商業使用人(商法20条/会社法10条以下)。実際の肩書には支配人のほか店長,支店長なども使われる。その選任および代理権の消滅は本店または支店所在地で登記を要する。営業の主任者であることを明示した使用人(表見支配人)も支配人と同一の権限をもつものとみなされる。営業主に対し競業避止義務を負う。
→関連項目社外監査役社外取締役商業登記

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

デジタル大辞泉 「支配人」の意味・読み・例文・類語

しはい‐にん【支配人】

使用人の中で、営業主に代わって営業全般にわたる業務を取りしきる者。マネージャー。「ホテルの支配人
法律で、営業主によって選任され、その営業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする権限を持つ商業使用人
[類語]マネージャー番頭

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典 第2版 「支配人」の意味・わかりやすい解説

しはいにん【支配人】

営業主たる商人に代わって営業主の営業に関するいっさいの裁判上または裁判外の行為をなす権限を有する商業使用人(商法38条1項)。支配人のもつ包括的な代理権を支配権という。現実に支配人という名称を使っていることは必要でなく,店長・支店長などさまざまな名称が用いられている。支配人の地位は,営業主の支配権を与える旨の意思表示によって発生するが,各種の会社については支配人選任の権限の帰属等が法定されている(たとえば,合名会社につき71条,株式会社につき260条2項3号)。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

世界大百科事典内の支配人の言及

【番頭】より

…番頭には一人制のものと数人制のものとがあった。数人制の場合にはその首席のものが支配人となって,商売上の権限ないしは家政の大半をにぎるようになった。一人制では番頭が支配人となって,手代以下のものを統率した。…

※「支配人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

線状降水帯

線状に延びる降水帯。積乱雲が次々と発生し、強雨をもたらす。規模は、幅20~50キロメートル、長さ50~300キロメートルに及ぶ。台風に伴って発達した積乱雲が螺旋らせん状に分布する、アウターバンドが線状...

線状降水帯の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android