摂理(読み)せつり(英語表記)providentia[ラテン]

精選版 日本国語大辞典 「摂理」の意味・読み・例文・類語

せつ‐り【摂理】

〘名〙
① (━する) ひとに代わって事を治め処理すること。代理となること。
※本朝文粋(1060頃)四・入道大相国公重上表〈大江匡衡〉「臣啓沃悔於既徃。摂理昧於方来」 〔春秋左伝‐昭公一四年〕
② (━する) 支配すること。すべくくること。
※改正増補和英語林集成(1886)「ジムヲ setsurisuru(セツリスル)
江戸から東京へ(1921)〈矢田挿雲〉七「町年寄に専任して七面倒な草創期の自治機関を摂理(セツリ)し」
キリスト教で、造物主である神の計画をいう。神は、これによって、被造物それぞれの目標に導くとする。神の導き。
※改正増補和英語林集成(1886)「カミ ノ setsuri(セツリ)
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉五「全能者の摂理を認めずには居られぬ」
自然界を支配している理法。「自然の摂理を知る」

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デジタル大辞泉 「摂理」の意味・読み・例文・類語

せつ‐り【摂理】

自然界を支配している法則。「自然の摂理
キリスト教で、創造主である神の、宇宙と歴史に対する永遠の計画・配慮のこと。神はこれによって被造物をそれぞれの目標に導く。

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改訂新版 世界大百科事典 「摂理」の意味・わかりやすい解説

摂理 (せつり)
providentia[ラテン]

神あるいは神的存在の被造物に対する計画・導きをいう。原語のproは〈あらかじめ〉と〈ために〉の二つの意味があり,予知,予見,配慮の意。アイスキュロスの劇《プロメテウス》は,この名で呼ばれる神が人間の運命を予見し配慮したかどでゼウスに罰せられることを描いているが,このことは摂理が運命と自由の中間のものであることを表している。ストア哲学(クリュシッポス,キケロ)は,世界を支配する永遠のロゴス(法則,定め)のもとでいかにして自由が成立するかを論じ,可能と現実,必然と偶然に関わる様相論理に着手するとともに,〈自然本性に従って生きる〉意志を人間にみとめた。これは宇宙のロゴスと内なるロゴスとの調和を求めることである。キリスト教では,神の選びと預定の下に世界と人間が保持されることを摂理と呼んでいる。それは救済と同じではないが,悪が猛威をふるうこの世にも救済は準備されていると信ずるもので,十字架の逆説を支える類比的な神認識の一つである。近代の哲学では自然法や進歩の観念が神の摂理の代用品のようになり,ニュートンによれば神は有能な時計師で,世界はこれによってつくられた自動巻き時計であるとされる。ドイツ・ロマン派歴史主義マルクス唯物史観では,摂理は歴史と実践の中におかれるが,これに対しサルトルメルロー・ポンティは,摂理といわないまでも歴史の両義性を説き,実践に関する素朴なオプティミズムを排している。
救い
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「摂理」の意味・わかりやすい解説

摂理
せつり
providentia ラテン語
prónoia ギリシア語
providence 英語
Vorsehung ドイツ語
providence フランス語

世界のすべてを神の意志が配慮し、管理して終局の完成に導くとする思想。『旧約聖書』においては「創世記」(22章8)で、アブラハムがその子イサクに答えて「子よ、神みずから燔祭(はんさい)の小羊を備えてくださるであろう」と述べた箇所に、『新約聖書』のなかでは「マタイ伝福音書」(6章24~34)で、空の鳥、野の百合(ゆり)を天の父が養うことへのイエスの言及のなかに、より明瞭(めいりょう)な摂理の思想がみられる。この摂理の観念はギリシア・ローマ世界で発達し、とくにストア派において論じられた。ストア派を奉ずる皇帝マルクス・アウレリウスは「神のわざは摂理に満ちている」(『自省録』)と述べている。教父アウグスティヌスは、世界歴史を神の摂理による「人類の真正な教育」の学校とみなし(『神の国』10章14)、この世の災禍すらも神の摂理のもとにあるとした。宗教改革者カルバンは摂理の思想を徹底し、救済と絶滅を神の計画とみた。

[加藤 武]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「摂理」の意味・わかりやすい解説

摂理
せつり
providentia divina

神が究極因としてだけではなく動力因としても,世界全体と個々の存在,特に個々の人間の出来事に介入してこれらを神自身のほうに効果的に導くこと。プラトンの『法律』,ストア派の pronoia (摂理) にすでに神的摂理観がみえるが,明確にはキリスト教神学で立てられた。人間の自由,悪,特に倫理悪としての罪が摂理観に重大な問題を常に投げかけている。

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普及版 字通 「摂理」の読み・字形・画数・意味

【摂理】せつり

代行。

字通「摂」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の摂理の言及

【預定】より

…この語はパウロの《ローマ人への手紙》8章29節〈神はあらかじめ知っている者たちを,さらに御子のかたちに似たものにしようとしてあらかじめ定めた〉に由来する。のちの教会では予知と預定を若干区別して,予知providenceを一般に〈摂理〉と訳すのであるが,ヘブライ語には古くはこの区別はなく,パウロの文章もその伝統に従って概念上の区別を立てていないとみられる。ヘブライ語の動詞jāda‘は〈知る〉〈選ぶ〉〈預定する〉の意に用いられる。…

※「摂理」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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