指名債権(読み)しめいさいけん

精選版 日本国語大辞典 「指名債権」の意味・読み・例文・類語

しめい‐さいけん【指名債権】

〘名〙 債権者が特定している債権指図債権無記名債権などの証券的債権とは異なる一般の債権。さしなしょうけん
民法(明治二九年)(1896)四六七条「指名債権の譲渡譲渡人か之を債務者通知し」

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デジタル大辞泉 「指名債権」の意味・読み・例文・類語

しめい‐さいけん【指名債権】

債権者が特定している債権。一般の債権はすべてこれにあたる。

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改訂新版 世界大百科事典 「指名債権」の意味・わかりやすい解説

指名債権 (しめいさいけん)

〈さしなさいけん〉とも読まれる。たとえば,AがBに金銭を貸したとすると,Bが金銭の返済債務を負うのは,Aに対してであり,債権者はAと特定している。このように債権者が特定している債権を指名債権という。指名債権は,証券の正当な所持人が債権者である無記名債権や,手形の受取人および指図人が債権者である指図債権のような証券的債権とは異なる。もっとも,後述するように,指名債権も第三者に譲渡することができ,決して,当初の債権者のみが債権者たりうるのではなく,証券的債権との違いは,後者では権利の発生・譲渡・行使が証券によってなされることを要するのに対して,指名債権はそうではないという点に存する。なお,指図債権は,手形債権のように転々譲渡されることがその発生のときから運命づけられているのに対して,指名債権はそうではないが,無記名債権のように譲渡が必ずしも予定されていないものもあり,この点を証券的債権と指名債権の相違ということは適当でない。

 指名債権にも,契約書中銀行預金のように証書が伴うことがあるが,これらの証書は,債権成立証拠手段にしかすぎない。もっとも実際上は,権利の譲渡・行使にこれらの証書の引渡し・呈示がなされるのが通常である。しかし,法的には証券的債権のようにこのような行為が要求されているわけではない。

 指名債権には原則として譲渡性がある(民法466条1項)。問題の一つは,譲受人が債務者に対して,債権者から債権を譲り受け,債権者となったことを主張(対抗)するには,いかにすればよいかという点である(債務者に対する対抗要件)。債権譲渡は,債権者(譲渡人)と譲受人の間の契約によってなされ,債務者はこれに関与しない。したがって債務者は,譲受人と称するものが真の譲受人であると判断しうる場合にのみ,この者に対して履行義務を負うというように保護されなければならない。そこで,民法では,譲渡人から債権譲渡の事実を債務者に通知した場合か,または債務者が債権譲渡を承諾(正確には債権譲渡の事実の認識)した場合に限り,譲受人は債務者に対して債権譲渡を受けたことを主張しうると定めている(467条1項)。すなわち,通知・承諾がないと,債務者は譲受人と称する者に対して履行を拒みうるのである。理論上は,このような通知・承諾を債務者に対する対抗要件と呼んでいる。

 次に,債権者Aが,CとDに二重に債権譲渡をすることがある。証券的債権であれば,証券を交付しないと債権譲渡をなしえないが,指名債権はそうではないので,このようなことが生じうる。この場合,C,Dのいずれが債権を取得するかを決定しなければならない。民法は,譲受人が,第三者(CからみればDが第三者,DからみればCが第三者)に対して自分が債権の譲渡を受けたと主張(対抗)するには,通知または承諾が確定日付のついた証書でなされていることを要するとしている(467条2項。第三者に対する対抗要件)。確定日付のある証書は,民法施行法5条に列挙されており,一般に知られているものとしては内容証明付郵便や,公正証書がある。その結果,たとえば,Cのみ,第三者に対する対抗要件を具備していれば,Cが債権を取得することになる。C,D双方ともにこの対抗要件を具備しているときには,通知の場合は債務者に先に到達した通知をなした側が,また,承諾の場合は先に承諾を得た側が,それぞれ債権者になると判例は解している。通常は通知がなされて具体的には,次のようになる。譲渡人Aが,Cに対して譲渡したという通知と,Dに対して譲渡したという通知を内容証明付郵便であいついで債務者にしたところ,前者が先に債務者に到達したとする。この場合にはCが債権者となり,逆の場合はDが債権者となるのである。
債権譲渡
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「指名債権」の意味・わかりやすい解説

指名債権
しめいさいけん

債権者が特定している普通の債権。指図債権、無記名債権に対する語で、これらの証券的債権以外の一般の債権をいう。証券的債権と異なって、債権の成立・存続・行使・譲渡に証書(証券)を必要としない。指名債権は、譲渡人と譲受人との間の契約で譲渡することができるのが原則であるが、それを指名債権の債務者に対抗するためには、通知または承諾が必要である(民法467条1項)。また債務者以外の第三者(例、二重譲受人など)に対抗するためには、通知または承諾が確定日付ある証書をもってなされることが必要である(同条2項)。

[淡路剛久]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「指名債権」の意味・わかりやすい解説

指名債権
しめいさいけん

債権者が特定している通常の債権。指図債権無記名債権と異なり,その成立,行使に証書の存在する場合でも,それは単に債権の成立を証する一つの証拠となるにすぎない。また,指名債権の譲渡には原則として債務者への通知,または債務者の承諾を要する (民法 467~468) 。

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世界大百科事典(旧版)内の指名債権の言及

【指名債権】より

…たとえば,AがBに金銭を貸したとすると,Bが金銭の返済債務を負うのは,Aに対してであり,債権者はAと特定している。このように債権者が特定している債権を指名債権という。指名債権は,証券の正当な所持人が債権者である無記名債権や,手形の受取人および指図人が債権者である指図債権のような証券的債権とは異なる。…

【債権譲渡】より

…もっとも,債権売買という一つの契約がなされた場合,その契約のうちに債権の売買契約と債権譲渡契約の二つが包含されているとする見解と,それはあくまで売買契約にすぎず,別個に債権譲渡契約をなすべきだとする見解が対立している。なお,債権譲渡は債務者その他の第三者に対抗するためには,指名債権の場合は債務者への通知または債務者の承諾,指図債権の場合は証券の裏書・交付,無記名債権の場合は証券の交付が必要とされる。 債権には,金銭の支払を求める金銭債権だけでなく一般的に譲渡性がある(民法466条1項)。…

※「指名債権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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