指(差)出(読み)さしだし

改訂新版 世界大百科事典 「指(差)出」の意味・わかりやすい解説

指(差)出 (さしだし)

〈指し出す〉の名詞化した言葉で,提出書類の意味だが,中世後期から近世にかけては,上級権力の要求に応じて提出される耕地関係書類を意味する。〈指出〉の語は《建内記》文安1年(1444)4月14日条,新守護山名氏が播磨国で行った指出徴収を早い例とする。このとき山名氏は,寺社本所領の田数・土貢・諸色の数量,夫役や本所直務の有無,守護請地かどうか,寺庵田・神田講田については寄進状があるかどうかについて荘園領主や在地の寺庵等に報告を要求した。前守護赤松氏の被官だった者の所領は,敵方知行として闕所となったものも,味方について安堵を要求されているものも,ともに地下人の指出を取って実態究明をしようとした。この事実から,指出には領主階級から徴収するものと,地下人つまり百姓などの農民から徴収するものの2種類があることがわかる。ただ前者に類するものとしては,指出とは呼ばれていないものの,1334年(建武1)に建武政権が荘園領主や在地領主に提出を要求した,領有する田の面積と土貢得分の報告書は,領主的指出の最も古いものと言えそうである。建武政権や守護から指出しを徴収される立場にあった荘園領主も,室町期には荘園を代官請から直務に変更するときに指出を徴収した事例が見られるし,戦国時代に新領土を獲得した大名たちも指出を徴収しており,中世後期の新支配者は指出を徴収するのが常識だったようである。

 戦国期の大名による指出の徴収は,たてまえを基本に作成された〈領主指出〉と,より実態に近いものを記載した〈百姓指出〉とのズレを明らかにすることとなり,大名の在地掌握は強化されることとなった。この時代になると指出徴収は検地と呼ばれるようになった。全国統一への一歩を踏み出した織田信長も荘園領主たちから指出を徴収しており,豊臣秀吉明智光秀を倒した直後から指出徴収をはじめた。以後秀吉は全国を制圧するにしたがって,支配下に入った領主たちから指出をとり,さらに諸大名に命じて百姓指出を基本とした検地帳を作成させ,御前帳と称して提出させた。17世紀前半にも全国諸大名の手によって各領地の検地が行われたが,そのほとんどは測量を行ったものではなく,百姓指出に依拠したものであった。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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