(読み)もつ

精選版 日本国語大辞典 「持」の意味・読み・例文・類語

も・つ【持】

[1] 〘他タ五(四)〙
① 自分の手の中に入れて保っている。手に取る。所持する。
※万葉(8C後)一・一「籠(こ)もよ み籠母乳(モち) 掘串(ふくし)もよ み掘串持(もち) この岡に 菜摘ます児」
※平家(13C前)三「手にもてる物をなげ捨て」
② 身につける。身に帯びる。携帯する。携行する。
古事記(712)下・歌謡「多遅比野に 寝むと知りせば 防壁(たつごも)も 母知(モチ)て来ましもの 寝むと知りせば」
③ 自分の物とする。所有する。
※古事記(712)下・歌謡「八田の 一本菅(ひともとすげ)は 子母多(モタ)ず 立ちか荒れなむ あたら菅原」
④ そこなったり、変質したりしないようにして保つ。はじめの状態、また、よい状態で保つ。維持する。
愚管抄(1220)七「一切の法はただ道理と云二文字がもつなり」
※浮世草子・西鶴織留(1694)五「命を長ふ持(モツ)も」
⑤ 使う。用いる。
※古事記(712)下・歌謡「つぎねふ 山城女の 木鍬(こくは)母知(モチ) 打ちし大根」
⑥ ある考え、気持などを心にいだく。
※万葉(8C後)一五・三七二三「あしひきの山路越えむとする君を心に毛知(モチ)て安(やす)けくもなし」
⑦ 引き受ける。受け持つ。担当する。負担する。
日葡辞書(1603‐04)「ヤク、または、ダイクヮンヲ motçu(モツ)
※破戒(1906)〈島崎藤村〉二二「一切の費用は自分の方で持つ」
謡曲で、拍子を合わせるために、引き気味に長くうたう。
※曲附次第(1423頃)「拍子をおきて待曲、やる曲、越してもつ曲、〈略〉早や曲、如此節曲共」
⑨ 物事が、ある性質や状態をその中に含む。
※青草(1914)〈近松秋江〉六「温味をもった淡い春靄(もや)を罩めて来た」
⑩ 会合、催しなどの場を設ける。設定する。
セルロイドの塔(1959)〈三浦朱門〉八「食事が終ってから、シンポジウムを持とうではありませんか」
[2] 〘自タ五(四)〙 長くその状態が継続される。維持される。保たれる。
※俳諧・花見車(1702)「魚は酢で持つ汝は我で持」
[3] 〘他タ下二〙 ((一)を下二段に活用させて、使役性の動詞としたもの) 持たせる。
※万葉(8C後)一八・四〇八一「片思ひを馬にふつまに負ほせ母天(モテ)越辺に遣らば人かたはむかも」
[4] 〘自タ下二〙 ⇒もてる(持)

もち【持】

[1] 〘名〙 (動詞「もつ(持)」の連用形名詞化)
① もつこと。支えたもつこと。
② 品質や機能が変化したり、衰えたりせずに長く初めの状態を維持すること。
※油地獄(1891)〈斎藤緑雨〉一「上着は宿の内儀に持(モチ)が能いと勧められた茶縞の伏糸」
③ 米などを買い入れて、相場の上がるのを待つこと。
※浮世草子・商人職人懐日記(1713)一「米買こんで相場のあがるを待を持といひ、高相場に売置をして、さがるを悦ぶをはたと名附」
④ 所有すること。自分のものとしていること。名詞の下に付けて用いることもある。
※にごりえ(1895)〈樋口一葉〉二「主人もちなら主人が怕く、親もちなら親の言ひなり」
⑤ 引き受けること。負担すること。受持。
人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)五「何でも今日の奢りは、悉皆春好さんの持(モチ)とするがいひ」
歌合、囲碁などの勝負事で、引分けとなること。
※類従本延喜十三年亭子院歌合(913)「右は勝ちたりとも、勝の御歌二つをくちにて出でかたれば、右一つ負けにたり。されど歌はもちどもにぞしける」
親元日記‐文明一五年(1483)六月一七日「赤松殿 御太刀(持)」
和船の上棚・中棚・かじきの船首尾での反り上がりを表わす船大工の語。ふつう上棚の船首尾の反り上がりでその船の持ちを表わすが、これは腰当船梁上面を通る水平線を基準として船首は水押付留(みよしつけとめ)船尾は戸立(とだて)との結合部のそれぞれの垂直の高さで示される。持上。
※瀬戸流秘書(1663)船之法筒之目録「とものもち、床の厚サほともちあかり申候」
[2] 〘語素〙 事物の状態を表わす語。「気もち」「心もち」など。

もた‐せ【持】

〘名〙 (動詞「もたせる(持)」の連用形の名詞化)
① (もたせた物の意) 贈り物。また、持って来た物。手土産
御伽草子酒呑童子(室町末)「もたせの御酒のありと聞く」
※虎明本狂言・比丘貞(室町末‐近世初)「つづみおけもちて出て、もたせじゃと云」
② もたせかけること。また、もたせかけるもの。「筆もたせ」
③ 江戸時代、大坂で行なわれた女の髪形の一種。いちょうまげに似た形のもの。
※随筆・守貞漫稿(1837‐53)一〇「京坂は毛巻を忌ず此もたせ等毛巻也」

じ‐・する ヂ‥【持】

〘他サ変〙 ぢ・す 〘他サ変〙
① 手にもつ。所有する。また、ある状態をたもつ。維持する。
※霊異記(810‐824)上「某の子の住みし堂、読みし経及以(と)持せし水瓶等は是れなり」
※竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生と虚空「どことなく余裕綽々たる処を持してゐた」
② 固く守る。
※今昔(1120頃か)五「汝等、早く各五戒を持(ぢ)し仏の御名を奉念て此の難を免れよ」
※教育に関する勅語‐明治二三年(1890)一〇月三〇日「朋友相信じ、恭倹己れを持し」

も・てる【持】

〘自タ下一〙 も・つ 〘自タ下二〙 (「持つ」の可能動詞からか)
① 保たれる。維持できる。
※日葡辞書(1603‐04)「シロガ motçuru(モツル)
※滑稽本・浮世床(1813‐23)二「此上に飲ぢゃア身は持(モテ)ねへ」
② もてはやされる。厚遇される。ちやほやされる。人気がある。特に、異性に好かれる。
※洒落本・跖婦人伝(1753)「能(よく)あそぶ客は、もてるにこころなし」

【持】

〘名〙
① 歌合わせ、絵合わせ、囲碁などの勝負事で双方優劣をつけがたくて引き分けとなること。あいこ。あいもち。もち。
※御堂関白記‐寛弘三年(1006)八月三〇日「一番右勝、是大将所為歟、但天判持」 〔春秋左伝疏‐昭公元年〕
② 囲碁で、互いに取りかけにいくことができない状態。セキ。または持碁。
※源氏(1001‐14頃)空蝉「待ち給へや、そこは持(ぢ)にこそあらめ、このわたりの劫をこそ」

めち【持】

〘他動〙 動詞「もつ(持)」の連用形「もち」にあたる上代東国方言。
※万葉(8C後)二〇・四三四三「我(わ)ろ旅は旅と思(おめ)ほど家(いひ)にして子米知(メチ)(や)すらむ我が妻(み)かなしも」

もた・り【持】

〘他ラ変〙 (「持て有り」の変化した語) 持っている。所有している。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)六「手に如意末尼宝珠を持ち、并せて金嚢を持(モタラ)む」

もし【持】

動詞「もつ(持)」の連用形「持ち」にあたる上代東国方言。
※万葉(8C後)二〇・四四一五「白玉を手にとり母之(モシ)て見るのすも家なる妹をまた見てももや」

じ‐・す ヂ‥【持】

〘他サ変〙 ⇒じする(持)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「持」の意味・読み・例文・類語

じ【持】[漢字項目]

[音](ヂ)(呉) チ(漢) [訓]もつ
学習漢字]3年
〈ジ〉
手にもつ。「持参所持把持捧持ほうじ
もちつづける。たもつ。「持続持論持久力維持加持堅持固持護持支持住持保持
引き分け。「持碁
〈チ〉もつ。たもつ。「扶持ふち
[名のり]もち・よし

じ〔ヂ〕【持】

歌合わせや囲碁などで、勝負・優劣がつけられないこと。引き分け。あいこ。もちあい。もち。
[類語]引き分けドロー預かりあいこ

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世界大百科事典(旧版)内のの言及

【句合】より

…有名俳人に判者を仰ぐ一般的方法以外に,作者が集まり,その議論に従う〈衆議判(しゆぎはん)〉や作者自身が判者となる場合もあり形式は多様である。歌合と同じく,優れた方を勝ち,優劣が決められないときは持(じ)とし,判定の理由を判詞として書くのが一般であるが,これまた多様である。1656年(明暦2)の季吟判《俳諧合》が版本として最も古いが,発生は寛永(1624‐44)ごろまでさかのぼりうるかもしれない。…

※「持」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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