担保責任(読み)たんぽせきにん

精選版 日本国語大辞典 「担保責任」の意味・読み・例文・類語

たんぽ‐せきにん【担保責任】

〘名〙 契約当事者が、自分の給付した物、または権利に不完全な部分があるとき、損害賠償などの責任を負うこと。有償契約一般について認められる。

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改訂新版 世界大百科事典 「担保責任」の意味・わかりやすい解説

担保責任 (たんぽせきにん)

担保責任とは,売買等の目的物性質上ないし法律上の欠点(瑕疵(かし))がある場合に対する債務者の責任をいう。現行法上売買(民法560~572条),消費貸借(590条),請負(634~640条),贈与(551条),遺贈(996~998条)等に規定がある。さらに契約当事者双方が対価的関係にある給付を交換する有償契約一般に売買規定が準用されるので(559条),担保責任は財産権の移転を伴う取引に広範に認められている。さらに,役務・サービスの品質不良にこの問題は拡大しうる余地もあるが,不完全履行論との対比でなお検討を要する。

 契約により所有権が移転するという典型的な事例において(たとえば,売買),担保責任は,移転される所有権が法律上の欠点(たとえば,売買の目的物たる土地の一部が他人の所有に属する場合)あるいは性質上の欠点(たとえば,目的物に瑕疵があり性能不良である場合)を示す際に発生する。この担保責任は歴史的にはローマ法にさかのぼる古い制度であるが,法律上の欠点に関するもの(〈権利の瑕疵担保責任〉ないし,追奪担保責任)と性質上の欠点に関するもの(〈物の瑕疵担保責任〉。たんに瑕疵担保責任ということが多い)とはその由来を異にしている。

 財産権が移転するにしても,債務者が契約または法律により積極的にその財産権を移転する義務を負っていながら,その義務を果たさない場合がある。これは,財産権を移転するという給付をする義務(給付義務・履行義務)の不履行であって,これに対する債務者の責任は債務不履行責任といわれる。これと担保責任との相違は次の点にある。担保責任には,債務者が財産権に欠点がないという状態を作出する義務は必ずしも含まれていない。いいかえれば,担保責任は,欠点のない財産権を移転する義務の不履行に対する責任ではなく,移転される財産権が欠点をもっていないことに対する責任が担保責任である。財産権を移転する義務は契約で約束されているが,財産権が欠点をもたないことまで合意されているとは当然にはいえないので,担保責任は民法上衡平の原則に照らしてとくに法定された無過失責任であると考えられている。ただ,他人の権利の売買では,その権利を他人から取得して買主に移転する義務があり(560条),他方,今日,一般的な種類物取引では,目的物が中等の品質をもっているという状態の作出義務が債務者に負わされている(401条)。しかし,そこでは担保責任でなしに,債務不履行責任が認められている。かように,担保責任については債務不履行責任との理論的区別がつきにくくなりつつあるという見方も出ている。この方向を進めると,担保責任は債務不履行責任に吸収されることになる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「担保責任」の意味・わかりやすい解説

担保責任
たんぽせきにん

契約の目的たる物または権利に瑕疵(かし)または欠缺(けんけつ)があった場合、それを給付した者は、契約の解除、代金の減額、損害賠償などの責任を負う。これを担保責任という。担保責任に関する民法の規定は、贈与、売買、請負などについて定められているが、もっとも重要なのは売買の場合である。

 売買における売り主の担保責任(民法561条以下)は、たとえば、他人の権利を売買した場合、売買の目的たる権利の一部が他人に属する場合、数量を指示して売買した物が不足の場合、および物の一部が契約の当時すでに滅失していた場合、売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合(これを瑕疵担保責任とよぶ)、などの場合に生じ、売り主は、契約の解除、代金の減額あるいは(かつ)損害賠償などの責任を負う。これらのうちでもっとも重要なのは瑕疵担保責任(同法570条・566条)であるが、その責任の性質は従来法律が特別に定めた責任(法定責任)と解されていたが、今日では債務不履行責任の一種と考える説が有力である。また、請負の場合には、仕事の目的物に瑕疵あるとき、請負人は瑕疵修補、契約の解除あるいは(かつ)損害賠償の責任を負う(同法634条以下)。なお贈与の場合には、無償契約であるので、贈与者がその瑕疵または欠缺を知って告げなかったときにだけ担保責任を負うにすぎない(同法551条)。

[淡路剛久]

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百科事典マイペディア 「担保責任」の意味・わかりやすい解説

担保責任【たんぽせきにん】

契約の当事者が,給付した目的物または権利に欠陥がある場合などに負担する損害賠償その他の責任。当事者間の公平を図るのが目的で,贈与者,売主,請負人,消費貸主(消費貸借を参照)などについて民法に規定があるが,売主と請負人の場合が特に重要。売主については,売買の目的物の権利が他人に帰属したり,数量が不足するという権利の瑕疵(かし)の場合と,物自体の欠陥による瑕疵担保責任の場合とに分かれ,責任の内容は,買主からの契約解除・代金減額請求・損害賠償請求などである。
→関連項目贈与担保売買

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「担保責任」の意味・わかりやすい解説

担保責任
たんぽせきにん

売買,請負などの有償契約について給付した目的物または権利に欠陥があった場合,給付した者が相手方に対して負わされる契約上の責任。本来は給付が完了して債務が消滅すればそれ以上相手に対する義務はないが,両当事者の公平と取引の信用保護のため認められる。担保責任は給付をした者に過失がなくても生じ,相手方は一定の条件のもとに契約の解除,代金減額,損害賠償を請求できる。担保責任が認められるのは追奪担保責任瑕疵担保責任の2つの場合である。

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世界大百科事典(旧版)内の担保責任の言及

【瑕疵担保責任】より

…契約の目的物に欠点(瑕疵(かし))がある場合,その目的物の提供者(たとえば売主)の責任は,瑕疵担保責任ないし担保責任といわれる。瑕疵担保責任は広義では,目的物の性質の欠点(いわゆる物の瑕疵)のみでなくその法律的な欠点(いわゆる権利の瑕疵。…

【小切手】より

… 所持人が呈示期間内に支払のために呈示をしたが支払を拒絶された場合には,振出人および裏書人に対して小切手金額,利息および費用の支払を求めることができ(44条),これを遡求という。またこれを振出人・裏書人の側から表現して,これらの者は担保責任を負うという。遡求をするには支払拒絶の証明が必要であるが,それは支払人の支払拒絶宣言でもよい(39条。…

※「担保責任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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