担体(読み)たんたい(英語表記)carrier

翻訳|carrier

精選版 日本国語大辞典 「担体」の意味・読み・例文・類語

たん‐たい【担体】

〘名〙
溶液や固体中で電流を運ぶもの。荷電粒子イオン、正孔、電子など。
② 微量の放射性同位体を運ぶ目的で加えられる安定同位体。たとえば、少量しか放射性同位体を含んでいない液に沈殿剤を加えても沈殿は起こらないが、同種あるいは類似の元素の安定同位体を加えるとそれといっしょに沈殿する。このとき加えられる安定同位体をいう。
③ 触媒の有効表面積を増大させ活性を大きくするために用いる物質。触媒の支持体もしくは希釈剤。
④ 生物体で、種々の物質と結合し輸送する物質。たんぱく質であることが多い。

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デジタル大辞泉 「担体」の意味・読み・例文・類語

たん‐たい【担体】

物理学で、物質中の電流担い手電子イオンなど。キャリア
化学で、ごく微量のものを取り扱う場合に、それを付加させるための多量の物質。微量の放射性同位体を分離する際に加える安定同位体、少量の触媒の活性を大きくするために用いる支持体・希釈剤など。
生物体で、種々の物質と結合し輸送する物質。たんぱく質であることが多い。

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改訂新版 世界大百科事典 「担体」の意味・わかりやすい解説

担体 (たんたい)
carrier

キャリアともいい,(1)何かをになう物質,(2)何かを保持する物質,(3)何かに添加する物質にわけられる。

(1)の意味では,電気伝導をになう荷電粒子や準粒子のこと。電子が主であるが半導体や半金属では電子のほか正孔も担体である。半導体の担体の種類と濃度は,温度,不純物,格子欠陥などによって決定される。担体としての電子を供給する不純物はドナー,正孔を供給する不純物はアクセプターと呼ばれる。電子または正孔のうち,より濃度が高いほうを多数担体,低いほうを少数担体といい,多数担体が電子である半導体をn型半導体,正孔である半導体をp型半導体と呼ぶ。半導体のトランジスター作用は,エミッターからの少数担体の注入によって起こる。半金属では伝導帯の底のエネルギーが,価電子帯の頂上に比べてわずかに低いために,きわめて低温でも,同濃度の電子と正孔が存在している。
半導体
執筆者:(2)の意味では,(a)触媒の支持物体(石綿,ケイ藻土,軽石,アルミナなど)や,(b)気-液クロマトグラフィーにおいて固定相となる高沸点液体を保持させるための固体(ケイ藻土,アルミナなど)を担体という。

(3)の意味では,(a)電解酸化または還元において,添加して化学的に酸化または還元を行わせ,電流効率をよくする物質を担体という。ふつう,セリウムバナジウムチタンなど2種以上のイオン価をもつ遷移金属が用いられる。
執筆者:(3)の意味で,(b)放射性同位元素の分離,精製を効率よく行うために加えられる非放射性の物質も担体という。放射性同位元素の非放射性同位体を用いることが多いが,いったん加えた非放射性同位体を分離することは困難であるので同位体以外の物質を使用することもある。一つの放射性元素が同じ元素の非放射性同位体をまったく含まずに存在する状態を無担体またはキャリアフリーと呼ぶ。通常,われわれが取り扱う放射性同位元素はきわめて微量であり,無担体で取り扱うと接触する表面に容易に吸着され,本来とはまったく異なった挙動を示すことが多い。このような現象を防止したり,場合によっては利用するために担体が使用される。

 2種類以上の放射性同位元素の混合系から目的とする放射性同位元素を沈殿によって分離する場合,目的とする放射性同位元素に対する担体を加えるのみでなく,他の共存する放射性同位元素を吸着共沈せず母液中にとどめておくための担体を加える必要がある。後者を保持担体またはホールドバックキャリアと呼ぶ。逆に目的とする放射性同位元素を母液中にとどめ,他を一括して吸着共沈により分離する方法もある。この目的で加える担体をスカベンジャーscavengerという。

 例えば60Coと59Fe,その他の混合物から60Coを分離する場合,HCl酸性溶液とし,Fe3⁺を加え,水酸化アンモニウムで水酸化鉄(Ⅲ)を沈殿させて59Feなどを除けばよい。この場合60Coが水酸化鉄(Ⅲ)の沈殿に吸着共沈されないためにCo2⁺を保持担体として加えておく必要がある。また,加えたFe3⁺は60Co以外の放射性同位元素を吸着共沈しており,スカベンジャーとして働いている。
執筆者:

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化学辞典 第2版 「担体」の解説

担体
タンタイ
carrier

】触媒体を支持し,あるいは分散させる物質.それ自身は触媒作用をもたないものが多く,その効果は,触媒作用を示す物質を広く分散露出させて有効表面積を大きくし,活性を増加させるとともに,毒作用に対する抵抗力を大きくする.また,反応によって発生する熱の分散をはかって半融を防ぎ,表面の活性構造を安定化するはたらきも考えられる.担体としては大きい表面積をもち,熱的かつ化学的に安定なものが望ましく,けいそう土,軽石,シリカゲル,アルミナ,活性炭などが代表的である.触媒体を担体上に分散させるには,触媒物質を含む溶液に担体を浸漬し蒸発させるか,または共沈によって担体との均質な混合物とすることが行われる.担体によっては助触媒として,反応の促進作用を示すものや,白金を分散した活性炭のように,金属上で解離した水素を保持するもの(spill over)があり,さらに独立の触媒作用を示す物質を担体に利用し,二元機能触媒とすることも行われている.【】[同義異語]キャリヤーの【Ⅱ】,【Ⅲ】

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「担体」の意味・わかりやすい解説

担体
たんたい
carrier

(1) 非常に微量の放射性元素の分離を容易にするために加えるもので,化学的性質が等しいか,あるいは類似した物質。同位体担体と非同位体担体がある。
(2) それ自身は触媒作用をもたず,触媒の支持物あるいは希釈物となる物質をいう。特に不均一系触媒反応において,触媒の有効表面積を大きくして活性を増大し,被毒作用に対する抵抗を増し,反応熱による局部加熱を防止するなどの機能をもつ。多孔性物質,ケイ藻土,軽石,アルミナなどが用いられる。
(3) 分配型クロマトグラフィーにおいて,固定相液体を保持するための多孔性物質。それ自身は活性のないことが望ましく,ガスクロマトグラフィーではセライト,ケイ藻土などが,液体クロマトグラフィーではシリカゲル,粉末セルロース,ある種のフッ素樹脂などが用いられる。
(4) 物質中で電流を運ぶ役割をになう荷電粒子。電子が主であるが,イオンなども担体となりうる。半導体では多数担体と少数担体があるが,電子または正孔が担体である。半導体の担体はホール効果によって知ることができる。 (→キャリア )  
(5) 共沈法において,共沈用沈殿物として添加する物質。

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栄養・生化学辞典 「担体」の解説

担体

 物質を運搬するもの.例えば,グルコースを細胞内に運搬するためには,細胞膜にグルコース担体があり,細胞外から細胞内へグルコースを運搬する機能をもつ.

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世界大百科事典(旧版)内の担体の言及

【保菌者】より

…細菌やウイルス,リケッチアなどの病原微生物を体内に保有しながら,それによる症状を示さないことがある。このような状態にある人を保菌者という。保菌者は通常,その病原微生物を体外に排出しているので感染源になる。患者と比べて排出する病原微生物の量は少ないので,感染させる力が弱いが,本人自身が感染源であるという自覚がなく,また症状がないので用心されることもなく,長期間にわたって感染源として自由に動き回るので,その意味では患者よりも危険である。…

【輸送機】より

…人や貨物の輸送をおもな用途とする飛行機。航空会社などで使われる民間輸送機(商用機ともいう)transportと,軍で使われる軍用輸送機carrierとがある。
[民間輸送機]
 民間輸送機は,主として旅客の輸送を目的とする旅客機と貨物の輸送を目的とする貨物機に大別されるが,大半は旅客機で,貨物機は旅客機として設計された機体の改造型が多い。…

【触媒】より

…なお,水素化触媒の活性成分である白金は,一般に表面積の大きいアルミナや活性炭に担持して用いられる。この場合のアルミナや活性炭は担体と呼ばれ,細孔の存在がとくに重要と考えられている。
[触媒の作用機構]
 白金黒の表面に吸着した水素や酸素は,分子のままでなく原子(HとO)に解離しており,容易に表面上で水分子を生成し脱離していくと考えられている。…

【ハプテン】より

…K.ラントシュタイナーが1921年に人工抗原の研究に際して提唱した概念上の抗原決定基。ラントシュタイナーの定義によれば,独立では抗原性をもたないが,他のタンパク質(担体)と結合させて投与すれば,特異的な抗体をつくらせ,その抗体と結合する能力を有する低分子物質をさす。現在では抗原決定基はエピトープと呼ばれ,ハプテンの語はより広く,抗原の示す2種の機能,すなわち,抗体をつくる性質とその抗体と反応して血清学的反応を起こす能力の一方または両方を,いろいろの度合で欠く不完全抗原の総称としても用いられる。…

【半導体】より

…すなわち伝導電子と正孔の両方が電気伝導に寄与するわけである。両者をまとめて担体(キャリア)と呼ぶ。担体の数は温度の上昇とともに急激に増え,電気伝導度も急増する。…

※「担体」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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