手足口病(読み)てあしくちびょう

精選版 日本国語大辞典 「手足口病」の意味・読み・例文・類語

てあしくち‐びょう ‥ビャウ【手足口病】

〘名〙 コクサッキーウイルスエンテロウイルスの感染により、手足や口の中に水疱(すいほう)性の発疹が現われる疾患。多く四歳未満の幼児に発し、数日で治る。

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デジタル大辞泉 「手足口病」の意味・読み・例文・類語

てあしくち‐びょう〔‐ビヤウ〕【手足口病】

コクサッキーウイルスなどの感染により、手・足や口の中に小さな水疱すいほう性の発疹ほっしんができる病気。数週間で治る。幼児に多い。

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EBM 正しい治療がわかる本 「手足口病」の解説

手足口病

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 エンテロウイルスの感染による伝染性の発疹症(ほっしんしょう)で、おもに子どもにみられ、保育所や幼稚園で集団発生することがあります。
 突然、水ぶくれのある発疹(ほっしん)が、口のなか、指、手のひら、ひじ、膝(ひざ)、足の裏、お尻(しり)にでき、水ぼうそうなどと違ってそれ以外の場所にはでないので、手足口病という名前が付いています。38度前後の発熱や下痢(げり)を伴うこともあります。
 手足やお尻の発疹は通常はかゆみも痛みも伴いませんが、口のなかの発疹は潰瘍(かいよう)になるため、激しく痛むことがあります。痛みが強く、食事をとりにくくなった場合には、なるべく柔らかく薄味のものをとるようにします。水分の摂取量には、とくに注意が必要で、薄いお茶や経口補水液を少量ずつこまめに与えるようにして、脱水症状をおこさないようにします。
 原因ウイルスに対する特異的な治療はありませんが、ほとんどが軽症で、10日ほどで自然に治ります。
 ごくまれに髄膜炎(ずいまくえん)や心筋炎、急性脳炎といった深刻な合併症を引きおこすこともあり、また非常に頻度(ひんど)は低いのですが、死亡例も報告されています。
 発疹以外の全身症状が強く、高熱を伴う、発熱が3日以上続く、嘔吐(おうと)する、ぐったりしているといった場合は、重症化のリスクが高いことが報告されています。(1)
 また、水がまったく飲めない場合は、点滴で脱水を治療するため、医療機関の受診が必要です。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 コクサッキーA群6ウイルス(CoxA6)、コクサッキーA群16ウイルス(CoxA16)とエンテロウイルス71(Entero71)が代表的な原因ウイルスです。そのほかのエンテロウイルスでも同様の症状が現れることがあります。
 くしゃみやせきに混じる唾液がつくことによる感染や、直接患者さんの発疹に触れることによる感染、おむつをかえたときにウイルスのついた便が手につき、その手でほかの子どもの食事の世話をするなどの経路で、便から口に入ってうつる感染があります。
 ウイルスに感染してからおよそ3~5日間で症状がでます。また、おもな症状が消失してからも、3~4週間はウイルスが便に排出されるので、おむつ交換をするときは手袋をして交換を行い、ビニール袋に密閉して捨てる、おむつ交換後はよく手を洗うなどの注意が必要です。

●病気の特徴
 もっともかかりやすい年齢は1~5歳の乳幼児ですが、抗体がなければ、成人にも感染します。夏に流行することが多く、2~3年ごとに大流行がみられます。原因となるウイルスはその年によって異なります。
 本人の全身状態が安定している場合は、登校(園)は制限されていません。長期間にわたりウイルスが排泄(はいせつ)されるため、流行を引きおこす可能性はあるものの、現実的に出席停止にできないからです。(2)


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]対症療法を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 有効な治療薬、ワクチンともにないため、発熱などの症状をやわらげる治療を行います。水が飲めなければ点滴で脱水を改善させる必要があります。

[治療とケア]局所麻酔薬は使わない
[評価]★→
[評価のポイント] 口のなかの潰瘍に対して、局所麻酔薬(リドカイン)を使用することは勧められません。(3)(4)


よく使われている薬をEBMでチェック

解熱薬
[薬名]アンヒバ/アルピニー/カロナール(アセトアミノフェン
[評価]☆☆
[評価のポイント] 手足口病の患者さんを対象にした臨床研究は見あたりませんが、専門家の意見や経験から支持されています。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
対症療法を行う
 原因となるウイルスの増殖を抑制したり、体外への排泄を促したりするための特別な治療法はありません。予防ワクチンも開発されていません。
 このため、いろいろな症状や苦痛を軽減することを目的とした処置を行います。

食事ができないときには、口当たりのよいものと水分補給
 口のなかの痛みが強い場合には、アイスクリームやプリンなどの口当たりのよいものを工夫しましょう。十分な水分補給も重要となり、どうしても口から水分をとることが困難な場合には、輸液が必要になるので受診してください。

乳児の排泄物の取り扱いには注意を
 発疹が消失したあとも3~4週間はウイルスが便に排泄され、感染の可能性があります。乳児の排泄物の取り扱いには注意が必要です。

(1)Fang Y, Wang S, Zhang L, et al.Risk factors of severe hand, foot and mouth disease: a meta-analysis.Scand J Infect Dis. 2014 ;46:515-522.
(2)文部科学省. 学校において予防すべき感染症の解説. http://www.mext.go.jp/a_menu/kenko/hoken/1334054.htm アクセス日2015年4月3日
(3)Hopper SM, McCarthy M, Tancharoen C, et al. Topical lidocaine to improve oral intake in children with painful infectious mouth ulcers: a blinded, randomized, placebo-controlled trial. Emerg Med. 2014;63:292-299.
(4)Hess GP, Walson PD.Seizures secondary to oral viscous lidocaine.Ann Emerg Med. 1988 ;17:725-727.

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六訂版 家庭医学大全科 「手足口病」の解説

手足口病
てあしくちびょう
Hand-foot-and-mouth disease
(感染症)

どんな感染症か

 毎年夏をピークに小児の間で流行する発疹症で、手、足、口腔内に水疱(すいほう)ができることからこの名前がついています。

 コクサッキーA16(CA16)、エンテロウイルス71(EV71)が主な原因ウイルスです。ほかにコクサッキーA10、コクサッキーB、エコーウイルスなどでも、この疾患を起こすことがあります。

 手足口病は基本的には軽症疾患ですが、EV71が原因の場合、まれに肺水腫(はいすいしゅ)脳幹脳炎(のうかんのうえん)など重い合併症がみられることがあり、症状の変化には注意が必要です。

 患者さんは幼児が多く、2歳以下で半数を占めますが、学童でも発生することがあります。成人での発症は多くありません。通常は数日の経過で治りますが、1997年にマレーシアで、1998年には台湾でEV71を原因とする手足口病の大流行があり、急性脳炎や肺水腫といった重症例が報告され、急死例を含めて数十例の死亡例が報告されました。

 EV71を原因とする手足口病が流行している時は、中枢神経合併症に注意が必要です。

症状の現れ方

 3~5日の潜伏期ののち、口腔粘膜、手のひら、足底や足背などに小水疱が現れます。幼児では口腔内の病変のために飲食が困難になる場合があります。高熱になることは少ないのですが、発熱は約3分の1の患者さんにみられます。中枢神経系合併症、心筋炎、急性弛緩性麻痺(しかんせいまひ)を合併することがまれにあります。

検査と診断

 通常、ほとんどは特徴的な発疹から診断されます。病原ウイルスを特定するためには、水疱内容物、咽頭ぬぐい液、便などからウイルスを分離、あるいはRT­PCR法でウイルスの遺伝子を検出します。急性期と回復期の血清で、抗体陽転や抗体価上昇により診断されることもあります。

治療の方法

 特異的な治療をすることなく自然に治ることがほとんどですが、口腔内病変のために水分不足になることがあるので、幼児では注意が必要です。

 ただし、高熱、嘔吐などの症状を認める場合は、髄膜炎(ずいまくえん)、脳炎など中枢神経合併症を併発している場合があるので、早めにかかりつけ医を受診してください。

病気に気づいたらどうする

 かかりつけの小児科を受診し、脱水や中枢神経合併症を思わせる症状には十分注意します。ほとんどが軽症に終わること、患者さんの便中には1カ月近くウイルスが排泄されていることから、学校、幼稚園、保育所では、登校・登園停止の疾患にはなっていません。本人の病状により対応を決めればよいと考えますが、排便後の手洗いは重要です。

多屋 馨子

手足口病
てあしくちびょう
Hand-foot-and-mouth disease
(子どもの病気)

どんな病気か

 夏かぜの一種で発熱、口内炎、手足の水疱性(すいほうせい)発疹が特徴です。

原因は何か

 夏かぜウイルスの仲間のコクサッキーウイルスA­16、A­10、エンテロウイルス71などが主な原因です。飛沫(ひまつ)、あるいは接触で感染し、潜伏期間は3~6日間です。

症状の現れ方

 急に38℃台の発熱があり、続いて口の痛み、よだれ、食欲低下、手足の発疹がみられるようになります。発疹は3~5㎜の丘疹性紅斑に2~3㎜の楕円形の水疱を伴い、手のひら、手の甲、足底、足の甲、膝伸側部、臀部(でんぶ)などに現れます。熱は2~3日で下がり、発疹も3~4日で水疱が吸収され、アメ色に変化して治ります。よくみられる発疹性疾患の特徴を表19に示しました。

検査と診断

 症状で簡単に診断できます。

 発疹は体幹にも出ることがありますが、みずぼうそうと異なり手足が主体で、水疱は化膿せず、大きなかさぶたもできません。単純ヘルペスは局所的に集まり、左右対称的になることはありませんし、水疱は大きく、中央にくぼみがみられます。口のなかはヘルパンギーナと異なり臼歯より前部の(きょう)粘膜、口唇内側、舌にも出ますが、ヘルペス性歯肉口内炎のような歯肉のはれや発赤はありません。

治療の方法

 特異的に有効な薬はなく、発熱や痛みに対する治療を行います。夏に好発しやすく、痛みで食欲不振が強いと脱水の危険があるので、水分補給に注意します。

病気に気づいたらどうする

 熱や発疹が出ても元気なら、家で安静にして様子をみてください。水分がとれなくてぐったりしたり、頭痛や嘔吐があるようでしたら、小児科を受診してください。

 熱が下がって子どもが元気になれば、学校や保育園に行かせてもかまいませんが、治ったあともしばらくの間は便のなかにウイルスが排泄されます。

脇口 宏


手足口病
てあしくちびょう
Hand-foot-and-mouth disease
(皮膚の病気)

どんな病気か

 小児期によくみられる急性熱性発疹症のひとつで、口腔内、手のひら、足底に小さな水疱(すいほう)が現れる病気です。

原因は何か

 エンテロウイルスあるいはコクサッキーウイルスの感染によって発症します。

症状の現れ方

 小児期に口腔内、手のひら、足底に散らばって多発する小水疱がみられ、小水疱の周囲には紅斑(こうはん)を伴うことがあります。かぜ様症状や下痢などの消化器症状が、先行または随伴することもあります。エンテロウイルス71型によるものでは、まれに髄膜炎(ずいまくえん)が合併することがあります。

検査と診断

 臨床症状から診断します。日本での原因ウイルスは主にコクサッキーウイルスA16型とエンテロウイルス71型であるとされているので、必要な場合にはこれらのウイルスについて検査が行われます。

治療の方法

 特異的に手足口病の原因ウイルスの増殖を抑制できる抗ウイルス薬はないので、対症的に解熱薬などを使用します。

病気に気づいたらどうする

 小児の口腔内、手のひら、足底に小さな水疱が生じたら、皮膚科または小児科を受診してください。予後は一般によく、重い合併症もまれなので経過を観察します。

 水疱が存在する時期には、他人への感染のおそれがあるので通学はひかえます。

安元 慎一郎

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「手足口病」の意味・わかりやすい解説

手足口病
てあしくちびょう
hand foot and mouth disease

発疹(ほっしん)の性状と出現部位に特徴のある感染症で、おもにエンテロウイルスに属するコクサッキーウイルスの感染により、手足や口の中に水疱(すいほう)性の発疹が現れる疾患である。1957年にカナダのトロントで流行したときに病原ウイルスが発見された比較的新しい疾患であるが、その後に世界各地でも流行がみられ、かなり普遍的な疾患であることが認められた。最初はコクサッキーウイルスA16型(CA16型)による流行がみられたが、その後エンテロウイルス71型(E71型)による流行もあり、他の型のエンテロウイルスによる手足口病の散発例も報告されているところから、手足口病はCA16型によるものが多いが、他のエンテロウイルス(とくにE71型)の感染でもみられる症候群と考えられるようになった。

 日本でも1965年(昭和40)に初めて報告され、67年にウイルスが分離された。70年と75年にはCA16型による手足口病が全国的に流行し、73年と78年にはE71型による流行がみられるなど、ほとんど毎年のように病原ウイルスを変えて発生している。

[柳下徳雄]

感染

一般に、4歳未満の幼児に好発し、年長児には少なく、6か月未満の乳児はまれである。男児にやや多くみられ、成人にもまれにみられるが軽症である。ウイルスは咽頭(いんとう)から数日間、糞便(ふんべん)からは10日前後排出され、おもに飛沫(ひまつ)感染、ときに経口感染する。ウイルスは相対湿度の高いところで長く感染性を保つので、夏季に好発する。潜伏期は4~6日で、通常前駆症状なしに急に発病することが多い。

[柳下徳雄]

症状

水疱疹は手のひらや指の側面、かかとや足指の側面にまばらにみられ、その周囲は赤くくま取られ、米粒大からアズキ大の楕円(だえん)形で、かゆみや痛みはない。破れることなく、2~3日で内容液が吸収され、アズキ色または飴(あめ)色の斑点(はんてん)となって数日で完全に消失する。口中では、口唇の内側、頬(ほお)の内側、舌、軟口蓋(こうがい)などに1、2個できるが、短期間のうちに破れ、赤くくま取った直径5、6ミリメートルの楕円形の潰瘍(かいよう)となる。食事のときにしみて痛むので食事を嫌がり、それで手足口病に気づくこともある。また、20%くらいは38℃前後の発熱が2日ほど続く。

[柳下徳雄]

治療と予防

症状が軽く、とくに治療を要しないものが多いが、口中の粘膜疹の痛みや発熱に対症療法を行うこともある。特別の予防法はなく、不顕感染が多い。また、患者が身につけていた衣類や器物の消毒をし、手をよく洗い、乾燥に努める。予後良好な疾患であり、保育園や幼稚園でも登園禁止をしないのが普通である。

[柳下徳雄]

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家庭医学館 「手足口病」の解説

てあしくちびょう【手足口病 Hand, Foot and Mouth Disease】

[どんな病気か]
 ある種のウイルスが感染し、手、足、口に水疱性(すいほうせい)の発疹(ほっしん)の現われる病気です。
●かかりやすい年齢
 生後7か月から4、5歳の子どもです。
●流行する季節
 夏に流行することが多いのですが、秋から冬にかけて流行したこともあります。
[症状]
 3~5日の潜伏期の後、手のひらや指の側面、足のかかとや親指の側面などに水疱がまばらにできます。周囲が赤く縁どられた米粒(こめつぶ)大から小豆(あずき)大の楕円形(だえんけい)の水疱で、かゆみや痛みはありません。
 水疱は破れることはなく、2~3日たつと内容液が吸収されて小豆色から飴色(あめいろ)の斑点(はんてん)になり、数日で消えます。なお、足背(そくはい)やひざの関節の外側、臀部(でんぶ)などにストロフルス様または汗疹(かんしん)様の発疹が出ることがありますが、数日で消えます。
 口の中の水疱は、くちびるの内側、頬(ほお)の内側、舌、軟口蓋(なんこうがい)などに1、2個できますが、短時間で破れるので、ふつうは赤く縁どられた直径5~6mmの楕円形(だえんけい)の潰瘍(かいよう)になっています。この潰瘍は、アフタ性口内炎のように食事のときに痛むので、食事をいやがることから、母親が気づくことがあります。
 気づかない程度の熱が出ることが多いのですが、20%くらいの子どもは38℃前後の熱が2~3日出ます。
[治療]
 有効な薬はありません。口の中の粘膜疹(ねんまくしん)が痛むときは、食物の味を薄くしたり、流動食にしたりして痛みを軽減するほか、粘膜疹に副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン(ステロイド)の口腔用軟膏(こうくうようなんこう)を塗ります。
 熱が高いときは、解熱薬(げねつやく)を使うこともあります。
[予防]
 病原体は、コクサッキーウイルスのA群16型、エンテロウイルスの71型などの腸内ウイルスで、おもに飛沫感染(ひまつかんせん)、ときに糞便(ふんべん)その他から経口感染(けいこうかんせん)します。
 流行期には不顕性感染者(ふけんせいかんせんしゃ)も多く、同様に感染源になるので、隔離による予防は疑わしく、また、予後の良好な病気です。
 このため、保育園や幼稚園では、園医と相談して登園の可否を決定します。
 予防接種はありません。

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知恵蔵 「手足口病」の解説

手足口病

手のひらや足の甲、口の中の粘膜などに、直径2~5ミリメートルの水疱(すいほう)性の発疹が現れるウイルス感染症。学齢前の子どもがよくかかり、発症者の約半数を2歳以下の乳幼児が占める。成人は免疫をもっていることが多く、発症する人はほとんどいない。毎年夏季に流行のピークがある。
38°C以下の軽い熱が出ることもあるが、たいていは1日で治まり、発疹も1週間ほどで、かさぶたも残さず消失する。特に治療を要しない病気で予後も大半は良い。ただし、まれに髄膜炎や脳炎、心筋症などで死亡に至るケースもあるので、高熱や頭痛、嘔吐(おうと)といった症状が見られたら注意が必要である。また、特別の治療法がなく自然治癒を待つのみとは言っても、ヘルパンギーナ、ヘルペス、アフタ性口内炎、水痘、水いぼ等との鑑別診断は必要なので、発疹を見つけたら医療機関を受診するべきである。
発疹には普通、痛みやかゆみはないが、口内にできると染みて食べたり飲んだりしにくくなるので、脱水にならないよう注意する必要がある。
この病気を引き起こすウイルスとして、コクサッキーA16(CA16)、コクサッキーA10(CA10)、コクサッキーA6(CA6)、エンテロウイルス71(EV71)等が知られている。このうち、重症に至る例が比較的多いのは、EV71とされている。
主に、よだれやくしゃみなどを介して飛沫(ひまつ)感染する。便に排泄(はいせつ)されたウイルスや、破れた水疱に含まれるウイルスに感染することもある。ワクチンはまだ開発されておらず、最も有効な感染予防策は、手洗いを徹底して手指の衛生を保つことである。また、発疹が消えてからも半月から1カ月間にわたって便からのウイルス排泄は続くので、患児がまだおむつを着けている場合は、病後もしばらくおむつの処理に気をつけなければならない。
感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)においては、五類定点把握対象疾患に指定されている。なお、飛沫で感染するものの大半が軽症で治ることから、学校保健安全法における学校感染症には指定されておらず、学童が罹患した場合にも出席停止等の規定はない。
2011年6月後半(第25週)から九州地方、中国地方を中心に流行し始め、ピーク時には例年の約5倍に迫る患者数が確認されたが、7月終わり(第30週)から減少に転じた。なお、11年に発生した患者の検体からは、EV71とCA6の2種類のウイルスが分離されている。

(石川れい子  ライター / 2011年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

内科学 第10版 「手足口病」の解説

手足口病(コクサッキーウイルス,エコーウイルス,エンテロウイルス)

3)手足口病(hand-foot-and-mouth disease):
手足口病は4~6日の潜伏期の後,発熱,食欲不振,全身倦怠感で始まり,咽頭痛に引き続き口蓋・頬粘膜,手掌,足底に小水疱が形成される.水疱は大きくなり,破れ,潰瘍化する.通常1週間で治癒するが,感染性はきわめて強い.原因ウイルスはコクサッキーウイルスA16またはエンテロウイルス71である.毎年夏季に1歳をピークに5歳未満の小児に流行し,年間患者数は180万人程度と推定されている.年により流行の規模が変化する.エンテロウイルス71による手足口病には無菌性髄膜炎,小脳失調症,ポリオ様麻痺などの中枢神経系合併症が多くみられる.伝播は主として咽頭から排泄されるウイルスによる飛沫感染で起こるが,便中に排泄されたウイルスによる経口感染,水疱内容物からの感染などがありうる.便中へのウイルスの排泄は症状消失後も2~4週間続く.手足口病は,感染症法における五類感染症・定点把握疾患であるが,学校伝染病には含まれていない.[中込 治]
■文献
Palacios G, Casa I, et al: Human enteroviruses. In: Infectious Diseases 3rd ed (Cohen J, et al eds), pp1528-1538, Mosby-Elsevier, 2010.

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改訂新版 世界大百科事典 「手足口病」の意味・わかりやすい解説

手足口病 (てあしくちびょう)
hand, foot and mouth disease

手,足,口に発疹が出現する感染症。主としてエンテロウイルスであるコクサッキーウイルスA16型とエンテロウイルス71型の感染によるもので,幼児に多く,成人にもみられることがある。日本では春から夏にかけて流行する。軽度ないし中等度の発熱があり,咽頭痛を訴えることが多い。咳や鼻汁はほとんどみられない。1~2日すると歯茎,ほおの内側の粘膜や口蓋,手掌,つめの周り,足底などに米粒状または円い発疹が出現する。発疹は中心が白みがかって,その周囲は発赤している。口の中のものは小さい潰瘍となることがある。臀部,膝蓋部にも発疹が出現する場合がある。数日で解熱し,発疹も1週間ほどで治癒し,跡は残らない。治療は解熱鎮痛剤の服用。症状は軽く,順調に経過するのが普通であるが,まれに髄膜炎などの中枢神経合併症がある。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「手足口病」の意味・わかりやすい解説

手足口病【てあしくちびょう】

幼児期にみられるコクサッキーウイルス,エンテロウイルスなどのウイルスによる感染症。手,足,口などに丘疹もしくは小水疱が現れる。手や足の水疱は破れることはなく,数日で吸収されて消えるが,口の水疱は破れて潰瘍(かいよう)となり,口内炎のような痛みを伴う。発熱は一般に軽度で,口の中を刺激しない食事療法が主となる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手足口病」の意味・わかりやすい解説

手足口病
てあしくちびょう
hand, foot and mouth disease

1~3歳の幼児に多い伝染性ウイルス疾患で,近年はコクサッキーウイルスによる感染が多い。潜伏期は3~4日。感冒様症状を前駆症状として,手掌,足底,口腔粘膜などに発疹が現れる。手足の皮膚にできる発疹は初め小紅斑様であるが,急速に楕円形の小水疱化する。口腔内の小水疱は破れてアフタ様びらんを生じる。発疹は手背,足背,膝蓋部,殿部などに現れることもある。1~2週間で自然治癒する。

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世界大百科事典(旧版)内の手足口病の言及

【風邪】より

…また,いわゆる〈夏風邪〉はエンテロウイルスによるものが多い。手足口病もこのエンテロウイルスやコクサッキーウイルスによるもので,広義の風邪に含まれる。(3)インフルエンザ インフルエンザウイルスの感染による。…

※「手足口病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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