手形(読み)てがた

精選版 日本国語大辞典 「手形」の意味・読み・例文・類語

て‐がた【手形】

〘名〙
① 手の形。てのひらに墨などを塗って押しつけた形。手を押しつけてついた形。
※浮世草子・西鶴諸国はなし(1685)五「背中に鍋炭(なべすみ)の手形(テガタ)あるべしと、かたをぬがして、せんさくするにあらはれて」
② 手で書いたもの。手跡。筆跡。書。
※譬喩尽(1786)五「手形(テガタ)は残れど足形は不(のこらず)
③ 昔、文書に押して、後日の証とした手の形。
※浄瑠璃・日本振袖始(1718)一「繙(ひぼとく)印の一巻〈略〉くりひろげてぞ叡覧有、異類異形の鬼神の手形、鳥の足、蛇の爪」
④ 印判を押した証書や契約書などの類。金銭の借用・受取などの証文や身請・年季などの契約書。切符。手形証文。また、それらに押す印判。
※虎明本狂言・盗人蜘蛛(室町末‐近世初)「手形をたもるのみならず、酒までのませ給ひけり」
※読本・昔話稲妻表紙(1806)三「母さまの手形(テガタ)をすゑて証書を渡し、百両の金をうけとり」
一定の金額を一定の時期に一定の場所で支払うことを記載した有価証券。支払いを第三者に委託する為替手形と、振出人みずからが支払いを約束する約束手形とがある。もとは小切手をも含めていった。
※経済小学(1867)上「悉尼(シドニー)より来れる千金の手形倫敦にて千金に通用し」
⑥ 江戸時代、庶民の他国往来に際して、支配役人が旅行目的や姓名、住所、宗門などを記して交付した旅行許可証と身分証明書を兼ねたもの。往来手形。関所札。
※御触書寛保集成‐二・元和二年(1616)八月「一、女人手負其外不審成もの、いつれの舟場にても留置、〈略〉但酒井備後守手形於在之は、無異儀可通事」
⑦ 信用の根拠となるもの。身の保証となるもの。また、信用、保証。
※歌舞伎・心謎解色糸(1810)三幕「あの東林めが、お娘を殺さぬ受合ひの手形」
⑧ 首尾。都合。具合。また、人と会う機会。
※随筆・独寝(1724頃)下「源氏がなさけは深しといふ人もあれども、しれにくき事の手がたあらんもの也」
⑨ 表向きの理由。口実。だし。
※洒落本・睟のすじ書(1794)壱貫目つかひ「おおくは忍びて青楼(ちゃや)へゆく。名代(テガタ)は講参会の外、おもてむきでゆく事かなわず」
⑩ 牛車の箱の前方の榜立(ほうだて)中央にある山形の刳(えぐ)り目。つかまるときの手がかりとするためという。
※平家(13C前)八「木曾手がたにむずととりつゐて」
⑪ 武家の鞍の前輪の左右に入れた刳(く)りこみのところ。馬に乗るときの手がかりとするもの。
※平治(1220頃か)中「悪源太〈略〉手がたを付けてのれやとの給ひければ、打ち物ぬいてつぶつぶと手形を切りてぞ乗ったりける。鞍に手がたをつくる事、此の時よりぞはじまれる」
⑫ 釜などに付いている取っ手。〔日葡辞書(1603‐04)〕
[補注]④は「随・貞丈雑記‐九」に「証文の事を手形とも云事、証文は必印をおす物也。上古印といふ物なかりし時は、手に墨を付ておしてしるしとしたると也」と見え、手印を押したところから「手形」といわれるようになったという。

て‐なり【手形】

〘名〙 (手の動くままにという意) 茶道手前にあたり、器物の扱い方、置き合わせなどを自然のままに、無理のないように行なうこと。

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百科事典マイペディア 「手形」の意味・わかりやすい解説

手形【てがた】

一定の金額の支払を目的とする有価証券約束手形為替手形の2形式がある。手形は金銭債権を表すもので,権利は証券と密接に結合しており,権利の発生,移転,行使のすべてが証券により行われる。金銭の支払,信用供与,送金または取立て等の機能を果たす。手形の法律的性格として,(1)有価証券,(2)要式証券(法律で定めた方式によって作成しなければならない),(3)設権証券(手形の振出しに見合う取引がなくても証券が交付されれば権利が発生する),(4)指図証券,(5)無因証券(発行の原因にかかわりなく,それ自体有効なものとされる),(6)文言証券(記載文句以外の効力はない),(7)呈示証券(権利の行使は,現物を呈示することが要件となる),(8)受戻証券(金銭を支払う際に,手形と引換えでなければ債務の弁済にはならない)が挙げられる。
→関連項目一覧払手形受取手形金銭証券小切手商業手形短期金融市場手形交換所手形法当座貸越し当座預金取立手形

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デジタル大辞泉 「手形」の意味・読み・例文・類語

て‐がた【手形】

手の形。物についた、手の形の跡。「たたかれた背中に手形が残る」
てのひらに墨などを塗って、紙などに押した手の形。昔は、文書に押して後日の証拠とした。「力士手形色紙
一定の金額の支払いを目的とする有価証券。為替手形約束手形総称広義には、小切手を含む場合もある。「手形を割り引く」
関所手形のこと。
印形を押した証文・証明書など。
当座借りの金銀、―なしの事なれば」〈浮・織留・一〉
牛車ぎっしゃ方立ほうだてや、馬のくら前輪まえわの左右につけてあるくぼみ。手をかけるためのもの。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「手形」の意味・わかりやすい解説

手形
てがた
Wechsel; note

一定の金額の支払いを目的とする有価証券為替手形約束手形の2種類がある。手形は要式証券である性質を有する (→手形要件 ) ほか,設権証券,抽象または無因 (不要因) 証券,文言証券,呈示証券受戻し証券,法律上当然の指図証券などの性質を有する。手形は,売買代金の支払い,借入金の返済など金銭支払いの手段としての機能のほか,信用取引の手段としての機能を営む。

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世界大百科事典 第2版 「手形」の意味・わかりやすい解説

てがた【手形】

手形は一定の金額の支払を目的として発行される有価証券である。手形という語は古くは一般に証書・証文をさしていたが,これは証書類に署名に代えて手指を押捺(おうなつ)する風習に由来するといわれる。現在の手形制度は,後述にあるように中世におけるイタリアおよびその他の地中海沿岸地方の諸都市の両替商が発行した手形にその起源があるとされているが,日本でもすでに鎌倉時代には一種の証書が存在し,送金の用に供されていた。

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日本歴史地名大系 「手形」の解説

手形
てがた

[現在地名]秋田市千秋城下せんしゆうじようか町・千秋公園せんしゆうこうえん千秋中島せんしゆうなかじま町・千秋北の丸せんしゆうきたのまる手形休下てがたきゆうか町・手形てがたからみでん・手形田中てがたたなかの各一部と手形新栄てがたしんさかえ町・手形住吉てがたすみよし

本丸と北の丸の北東部、手形村に続く地域で、手形の名を冠する町は、現千秋城下町には、手形新てがたしんしも丁・同谷地やち町上丁・同谷地町下丁があり、現千秋公園には手形上町、現千秋中島町には手形休下町、現千秋北の丸には手形上町・手形休下町があった。また現手形新栄町には手形新町上丁・同下丁・手形谷地町上丁・同堀反ほりばた町があり、現手形住吉町には手形東新てがたひがししん町・同西新町があった。現手形休下町には手形休下町・同本新もとしん町があり、現手形からみでんには手形休下町が、現手形田中には手形休下町・同本新町があった。手形の形は潟で、正保年間(一六四四―四八)の出羽国秋田郡久保田城画図(内閣文庫蔵)に、手形町の東は深田とあり、現在も手形深田てがたふかだの名を残している。南は長野ながの沼に続き、東にあか沼があるなど一帯の沼沢地であった。

給人町の町割は、手形村の西部を占め、久保田城を北東から東部にかけ包囲する体勢にある。正保の画図には、三の丸の一部をなす山の手の手形上町、それより北の手形虎の口てがたとらのくちを出て六供ろつく町、すなわち手形休下町とその東、手形本新町、南下して外堀に沿った手形谷地町、手形堀反町が町割されている。

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世界大百科事典内の手形の言及

【会子】より

…中国,宋代に民間で用いられた手形,またこれにならって南宋政府が発行した紙幣。手形は寄付会子,便銭会子,寄付兌便銭物会子と呼ばれる。…

【交子】より

…中国,宋代に民間で用いられた手形,またこれにならって宋朝が四川の通貨として発行した紙幣。南宋時代には淮南(わいなん)路でも同名の紙幣が発行された。…

【遡求権】より

…手形・小切手になんらかの当事者として関与(署名)した者は,原則として,手形金,小切手金の支払につき責任を負わなければならない。手形・小切手の署名者の責任は2種類に分けられる。…

【両替】より

…したがって,広義には両替屋の業務内容をも含む。
【日本】
 戦国期に現れ江戸時代に隆盛した両替屋は,貨幣の交換,預金,貸出しを業とするとともに,その他諸種の手形発行も行った。中世における替銭屋(かえせんや∥かえぜにや),割符屋(さいふや)を系譜とし,それが整備・拡充されたともいわれている。…

※「手形」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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