所務(読み)しょむ

精選版 日本国語大辞典 「所務」の意味・読み・例文・類語

しょ‐む【所務】

〘名〙
① つとめ。やくめ。仕事。所役。
※続日本紀‐養老三年(719)一一月乙卯「勧善奨学、為君者所務」 〔荀子栄辱
② 転じて、職務にともなう権利義務をいう。特に中世では、荘園田地を管理して収益すること、また年貢を収納することやその年貢をいい、さらにこれに関連して不動産物権を管理する行政的処置も含めて用いられた。荘務。江戸時代には、年貢、貢租意味で用いられることが多かった。〔近衛家本追加‐貞応二年(1223)七月六日〕
政談(1727頃)二「其土地を下し置るる上は、年貢米と夫役とは其君の所務となり」
沙汰未練書(14C初)「検断沙汰とは謀叛〈略〉昼強盗 但追捕狼藉者所務也」

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デジタル大辞泉 「所務」の意味・読み・例文・類語

しょ‐む【所務】

つとめ。役目
中世、職務またはそれに伴う得分

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改訂新版 世界大百科事典 「所務」の意味・わかりやすい解説

所務 (しょむ)

おもに中世の歴史用語。本来は年貢徴収など,荘園所職(しよしき)の事務や義務を意味したが,時代によって意味は以下のように変化した。(1)務め,役目,仕事,年貢徴収。〈所務,ショム,年貢の取立て〉(岩波版《邦訳日葡辞書》)。(2)その後転じて職務にともなう得分(とくぶん)をも意味した。(3)さらに,得分の主たる内容としての年貢などの貢租の意味に三転した。〈所務,ショム,年貢の義也〉(《文明本節用集》)。(4)近世には財産・遺産をいった。〈所務分け〉などという。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「所務」の意味・わかりやすい解説

所務
しょむ

本来は、職務・仕事の意味。『日葡辞書(にっぽじしょ)』では、「年貢の取り立て」とあるように、中世の荘園制下、所領における年貢徴収などの管理とそれに伴う権利・義務を指す。また荘園所職(しょしき)の得分(とくぶん)権化により、職務に対する得分を意味するようになった。その後、『文明節用集』に「年貢の義也」あるように、得分の主たる内容である年貢などの貢租(こうそ)の意味となる。近世には、財産・遺産の意味に用いられた。

[松井吉昭]

『佐藤進一著『鎌倉幕府訴訟制度の研究』(1993・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「所務」の意味・わかりやすい解説

所務
しょむ

もとは職務,役目を意味したが,荘園制のもとでは所領からの収益,あるいはまた年貢公事など税徴収権の行使事実をいう。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「所務」の解説

所務
しょむ

本来は職務の意味だが,中世には荘園現地を管理することをいった。とくに年貢を収納することをいい,転じて年貢そのものをさすこともあった。

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世界大百科事典(旧版)内の所務の言及

【年紀法】より

…しかし鎌倉末期以後はこれらにもしだいに拡大適用されていき,普遍的法理となって,戦国大名の分国法にも受けつがれた。しかしその反面,武士の場合であっても〈地頭所務は年紀に依らず〉という原則があって,地頭が荘園から年貢を徴収し,自分の取り分を差し引いて残りを領主に納入する職務(=所務)に関しては,何年それを懈怠(けたい)し私物化しようとも,時効にかからず,過去の分を弁済し,将来にわたっても所定の納入義務を遂行しなければならなかった。近世に入ると,武士の所領はすべて上位権力からの恩給地となったので,時効の法理が働く余地がなくなり,また農民の田畑は検地帳登録者が所有者とみなされたので,年紀法の存続する余地が失われた。…

※「所務」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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