戻橋（読み）もどりばし

精選版 日本国語大辞典

もどり‐ばし【戻橋】

[一] 京都市上京区、堀川にかかる一条戻橋のこと。

※和泉式部続集（１１Ｃ中）下「いづくにもかへるさまのみわたればやもどりはしとは人のいふらん」

[二] 歌舞伎所作事。常磐津。一幕。河竹黙阿彌作詞。六世岸沢式佐作曲。初世花柳寿輔振付。本名題「戻橋恋の角文字」。明治二三年（一八九〇）東京歌舞伎座初演。渡辺綱が、一条戻橋で美女に化けた愛宕(あたご)山の鬼女と道連れになるが、間もなく彼女の正体を見破ってその片腕を切る。新古演劇十種の内。

出典　精選版 日本国語大辞典

デジタル大辞泉

もどりばし【戻橋】

歌舞伎舞踊。常磐津ときわず。本名題「戻橋恋の角文字つのもじ」。新古演劇十種の一。河竹黙阿弥作詞、6世岸沢式佐作曲。明治23年（1890）東京歌舞伎座初演。渡辺綱が鬼女の片腕を切り落としたという伝説に取材したもの。

出典　小学館

改訂新版　世界大百科事典

戻橋 (もどりばし)

歌舞伎舞踊。常磐津。本名題《戻橋恋の角文字（つのもじ）》。新古演劇十種の一つ。1890年10月東京歌舞伎座初演。作詞河竹黙阿弥。作曲6世岸沢式佐。振付初世花柳寿輔。配役は渡辺源次綱を初世市川左団次，扇折娘小百合じつは愛宕山悪鬼を5世尾上菊五郎ほか。綱は頼光の恋の使いの帰路に，一条戻橋で娘に出会う。しかし，彼は水に映る女の姿で鬼と知り，それを承知で舞を所望する。立回りのすえ，鬼は右腕を奪われて天空へ飛び去って幕を閉じる。
→四天王物
執筆者：目代 清

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」

日本大百科全書(ニッポニカ)

戻橋
もどりばし

歌舞伎(かぶき)舞踊劇。常磐津(ときわず)。本名題(ほんなだい)『戻橋恋(こい)の角文字(つのもじ)』。河竹黙阿弥(もくあみ)作。1890年（明治23）10月、東京・歌舞伎座で5世尾上(おのえ)菊五郎の小百合(さゆり)実は鬼女、初世市川左団次の渡辺綱(わたなべのつな)による初演。作曲6世岸沢式佐(しきさ)、振付け初世花柳寿輔(はなやぎじゅすけ)。渡辺綱が夜の一条戻橋で、扇折小百合という美女と道連れになり、女のクドキ模様のうち、これを愛宕山(あたごやま)の悪鬼の化身と見破って立回りとなり、その片腕を切り落とす。菊五郎が家の芸「新古演劇十種」に選んだもので、その後は6世尾上梅幸(ばいこう)が得意とし、現代に伝わった。小百合のクドキ、見あらわしなどが眼目で、幕切れには鬼女が綱の襟(えり)をつかんで宙乗りになる演出もある。

［松井俊諭］

出典　小学館　日本大百科全書(ニッポニカ)

百科事典マイペディア

戻橋【もどりばし】

常磐津節の曲名。６世岸沢式佐作曲。本名題《戻橋恋の角文字(つのもじ)》。渡辺綱が美女に扮した悪鬼の片腕を切り落とす筋の舞踊劇。1890年初演。
→関連項目新古演劇十種

出典　株式会社平凡社

歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典

戻橋
(通称)
もどりばし

歌舞伎・浄瑠璃の外題。

元の外題

戻橋綱顔鏡 など

初演

寛政12.11(江戸・河原崎座)

出典　日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」

世界大百科事典（旧版）内の戻橋の言及

【一条戻橋】より

…橋は平安京造都のときから存在したと思われるが，後にここが橋占（はしうら）(橋)をする場所となり，各種の伝承が発生して著名となった。戻橋の名は，文章博士三善清行死去の報をうけたその子浄蔵が急きょ帰洛，橋上で父の葬列にあい，嘆き悲しむと，父が一時蘇生したのに由来するという。源頼光の四天王渡辺綱が橋上で美女に逢い，その美女が鬼の本性を現したので片腕を切り落とした話は著名で，これを劇化したものに河竹黙阿弥の《戻橋》がある。…

【四天王物】より

…頼光四天王の活躍にからむ人物には，身替りの先駆をなす頼光の弟美女丸や平井保昌，和泉式部，小式部，周防内侍などの女性のほか，盗賊の袴垂保輔（はかまだれやすすけ），鬼同丸（きどうまる）がいる。取材された伝説としては，大江山の酒呑童子退治，羅生門や戻橋での渡辺綱の鬼女退治，葛城山の土蜘蛛退治，市原野での頼光の鬼同丸退治，足柄山で山姥となった八重桐に生み育てられる怪童丸(のちの金時)の怪力譚などがあげられる。これらはすでに，能や古浄瑠璃にも採り入れられて，多くの作品を生み出している。…

【橋】より

…橋の名称に注意すると，たとえば，〈戻り橋〉というのは，昔，西行がここにきて，子どもと問答して，行く末が暗示され，そのまま橋を渡らず引き返したというモティーフである。京都一条堀川の一条戻橋は，橋のところで死者が蘇生（そせい）した話に由来する。平安時代の学者三善清行が死んだとき，子の浄蔵貴所は，熊野参詣の途次で不在だった。…

※「戻橋」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典｜株式会社平凡社「世界大百科事典（旧版）」