戯財録(読み)けざいろく

改訂新版 世界大百科事典 「戯財録」の意味・わかりやすい解説

戯財録 (けざいろく)

歌舞伎随筆。入我亭我入著。1801年(享和1)成立。天地人3部からなる。大坂の作者の式法を書いたもので,〈世界〉を縦筋,〈趣向〉を横筋とする作劇理論が載せられていることから近代になって注目される。〈天〉には古今の草紙物語,浄瑠璃,歌舞伎の作者の連名と略伝などがある。〈地〉が本書の中心で作劇について説かれる。芸題(外題)の付け方,三都の気風,四季の人情の違いが述べられる。ことに各興行ごとの具体的な狂言の書き方,合作の仕方,役者の持場に関する記述は類をみない。〈人〉は看板の書き方の心得に〈一夜附之事〉などを付す。作者は後世の所伝により初世並木五瓶とも2世並木正三ともされてきた。宝暦期(1751-64)大坂劇界の思潮を理想とする筆致から並木宗輔門下の浄瑠璃作者並木翁輔(入我園我入)とするのが妥当である。《近世芸道論》に収録。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「戯財録」の意味・わかりやすい解説

戯財録
けざいろく

歌舞伎(かぶき)の文献。入我亭我入(にゅうがていがにゅう)著。1801年(享和1)秋成立。角書(つのがき)に「作者式法」とある。大坂の歌舞伎作者の理論書としては唯一のものである。写本として伝わる。著者は曲亭(きょくてい)馬琴の『著作堂一夕話(いちゆうばなし)』によれば2世並木正三(しょうざ)。ほかに初世並木五瓶(ごへい)、並木翁輔(おうすけ)とする説もある。いずれにせよ、大坂劇壇の古老である著者が、歌舞伎作者の式法が乱れた現状を憂い往時の作者式法を23項目(目次では26項目)にわたって記したものである。京、江戸、大坂の三都の観客の狂言の好みの違いや、春夏秋冬台本の書き方の心得、または、一つの狂言のなかにおける各幕の書き方の違いなどを具体的に述べる一方、道学者風の通俗的な教訓などをまじえて、歌舞伎作者の仕事を理論的に体系化しようとしたものである。

古井戸秀夫]

『郡司正勝他編『近世芸道論』(『日本思想大系61』1972・岩波書店)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「戯財録」の意味・わかりやすい解説

戯財録
けざいろく

演劇書。「天」「地」「人」の3巻3冊。入我亭我入 (2世並木正三 ) 著。享和1 (1801) 年成立。歌舞伎狂言作者のための作劇法,心構え,故実や古今の作者列伝について述べた書。

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世界大百科事典(旧版)内の戯財録の言及

【世界】より

…69年(明和6)刊《根無草後編》には江戸の芝居の年中行事としての〈世界定め〉の語も見られるが,当期の京坂の歌舞伎,浄瑠璃の文献に見当たらず,《世界綱目》後記の筆写経路にも京坂の作者名が見られないことから,〈世界〉の用語や概念は江戸時代中期の江戸歌舞伎界での成立と見られる。《戯財録》には〈世界〉と〈趣向〉に関する著名な説が見えている。中期以後,黄表紙などの戯作文学にもほぼ同義の用語として使用されるようになった。…

※「戯財録」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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