改訂新版 世界大百科事典 「懸(掛)盤」の意味・わかりやすい解説
懸(掛)盤 (かけばん)
食器をのせる膳の一種。入角折敷(いりずみおしき)形の盤に,畳ずりのある四脚置台をとりつけるのが通形。脚間を格狭間(こうざま)形に大きくくり抜いた四脚が,弧を描いて盤面より外に大きく張り出し,安定した形姿を示すのが特徴的である。懸盤の名称は,盤下にこの種の置台を伴うことにもとづくのであろう。文献では平安時代から散見されるようになり,《江家次第》には〈殿上人懸盤居之〉とあるから,当初は昇殿を許された五位以上の位の人に限り,宮中の宴席などで使用されたことが知られる。遺品では鎌倉の長勝寺に伝わる懸盤が応永5年(1398)の紀年銘をとどめていて現存最古である。この懸盤は黒漆地に朱漆の上塗りをほどこした,いわゆる根来(ねごろ)塗の手法によるが,《春日権現験記》や《慕帰絵詞》など鎌倉時代以降の絵画資料に認められる懸盤も同類の漆塗りと目されるものであり,以後後世に至るまでこの種の漆塗りのものが一般的であった。しかし,《御堂関白記》寛弘1年(1004)の条には〈螺鈿(らでん)懸盤〉,同3年条には〈沈懸盤〉,また《厨事類記》には〈紫檀地螺鈿〉などのものが見られ,古くは沈や紫檀など高価な外来の材を用いたり,それに螺鈿のような加飾をほどこした豪華なものも使われていたことが知られる。
執筆者:河田 貞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報